5-友達
自己紹介も終り、一通りの連絡事項を済ませた担任の羽生先生は、
帰りのあいさつを済ませ出ていく。
(ここで担任の名前は「羽生 忠之 ハブタダユキ」ということを知る)
初日に友達なんてできるはずもないと思っていた僕は、帰りの支度を済まそうとしていた。
なんせ、あの失敗だ。名字しかわからない、
こんな惨めな僕に話しかけてくるのは余程のお人好ししかいないだろ。
だが、いたのだ。そんなお人好しが。
「なー。大丈夫か?」
あのときと同じだ。
僕の肩を叩きながら井原君が問いかけてくる。
「そういやお前の名前聞いてなかったよな。なんていうの?」
僕はいきなり名前を聞かれ、とてつもない緊張感に襲われたが、
やっとのことで声を絞り出して答えることができた。
「……あ、相田和馬」
「相田かー。俺は井原大河。自己紹介で泣く奴なんて初めてみたよ」
そう言うと、また僕の肩を叩く。
そうして、
「今日の事はしょーがねーと思うよ。うん。担任の奴も喋れなかったお前の代わりに紹介してやってもよかったのにな」
このとき、井原君の優しさで再び泣きだしそうになった。
だが泣き虫な女々しい男なんて嫌われると思い必死に耐える。
僕はこれから友達と呼べるかもしれない存在を手放したくなかったのだ。
「まーあれだ。同じクラスになったんだし、これからよろしくな」
そう言うと、井原君が手を差し出してきた。
少し躊躇したものの、差し出された手を取り僕は
「よろしく」
と、今日初めて人前に見せる笑顔で答えることができた。
たぶんこのとき、僕と井原君は友達と言える仲になったのだろう。
初めての友達。その友達は僕の笑顔に木霊するように、満面の笑みを向けて笑っていた。