4-一目惚れ
次から次へとみな、自己紹介という輝かしい学校生活の幕開けをしてゆく。
みんな笑顔で自己紹介していくが、中には緊張しているのか言葉を噛んだり、
顔が青くなっている人までいる。
だがそれでも僕の泣くことによって幕開けをし、
泣くことによって幕を下ろした自己紹介よりはマシだろう。
そんな一人で後悔に浸る最中、自己紹介の順も最後の方へ差しかかっていた。
僕はこれから生まれて初めての「一目惚れ」というものをすることになる。
名前を呼ばれ、教卓の横へ向かう女の子。
腰まで伸びた美しい黒髪で、少し痩せた体つき、身長は小さめなのであろうか。
横からの姿で顔は見えない。
そうして教卓の横に着き、
正面を見た女の子はあどけない顔立ちで自分たちよりも年下の印象を与える。
僕は次の瞬間思わず見惚れる。
「はじめまして。桃井 小百合 モモイサユリ と言います」
と、眩しい笑顔で頬には少し赤みがさし、少し緊張しているようだ。
だが、僕はこの笑顔で落ちたのだろう。一目惚れだ。
今まで同世代の女の子は今日を含めてそれなりに見てきた。
けれど、この感覚は初めてだ。彼女を見ていると体が熱くなる。
声を聞くと心地がよく、体の力が抜けてしまう。
桃井さんの自己紹介は続く。
「出身はこの高校がある地元です。趣味は昔からピアノをやっていて音楽全般好きで、あと人と話すことが大好きです」
「みなさん、よろしくお願いします」
と、彼女も今までの人たち同様、終わりに一礼すると拍手が起こる。
拍手の最中、クラスの男子たちは彼女を見ながら、
「やばい、めちゃくちゃ可愛い!」
「うわー、友達になりてー」
なんて口々にしている。
後ろの井原君も友達ができたのか、
みんなと同じように桃井さんについて周りの人たちと話しているようだった。
桃井さんが席に着く。
さっそく近くの人たちに話しかけられては笑顔で受け答えしているようだ。
彼女と話してみたい。だけど最悪な幕開けをした僕にはそれが叶うのだろうか。
そんなことを思いながら残りの人の紹介も聞いていた。