第6話「爆ぜる突破口」
白い霧が渦を巻き、空気がさらに重くなる中、サーシャは構えを維持しながら歪みを必死に保っている。
呼吸が乱れ、視界も安定しない中、それでも能力を保とうと必死に集中する。
ボスがゆっくりと近づき、確実に距離を詰めてくる。
「……詰んでるな」
マルレインが地面に倒れたまま笑う。
だが、その目はまだ死んでいない。
「でもさ……」
マルレインはゆっくりと体を起こす。
「こういう状況、嫌いじゃねぇ」
サーシャが横目で見る。
「……何する気だ」
マルレインがニヤリと笑い「全部、吹き飛ばす」と言う。
その瞬間、マルレインが地面に手をつき、ドンッ!!と爆発音と衝撃が走る。
だが――霧は消えない。
「……やっぱりな」
マルレインが舌打ちする。
「この霧、ただのガスじゃねぇ」
サーシャが答える。
「能力を鈍らせてる」
「だろうな」
マルレインが立ち上がる。
ゆっくりと。
だが、その動きに迷いはない。
「だったら逆に使う」
「……?」
サーシャが眉をひそめる。
マルレインが地面を軽く叩く。
パチン。
小さな爆発が起き、霧がわずかに揺れる。
「気づいたか?」
「今……霧が動いた」
サーシャの目が変わる。
「そういうことだ」とマルレインが笑う。
「爆発で流れを作れる」
ボスが踏み込んでくる。
速い。
マルレインが連続で地面を叩き、パチン、パチン、パチンッ!!と連続爆発が起こる。
霧が強制的に動かされ、空間に“流れ”が生まれる。
視界が開け、ボスの位置がはっきり見える。
「見えた!」
サーシャが構えを崩さないまま踏み込み、歪みを維持したまま一直線に距離を詰める。
「……ティア」
歪みを押し当てると空間がズレ、ボスの体がわずかに崩れる。
「いいぞ!」
マルレインが叫ぶ。
さらに爆発を重ね、霧が押し流され空間が安定する。
「今なら通る!」
サーシャの歪みが強くなる。さっきよりも、明らかに。
ボスが初めて動きを止める。
「……異常」
「……補正不能」
サーシャの目が鋭くなる。
「押し切る!」
歪みをさらに押し込み、空間が大きくねじれボスの体が削れる。
だが――
「……再構築」
体が戻る。それでも確実に“削れている”。
マルレインが笑う。
「いけるじゃねぇか」
サーシャが息を吐く。
「……まだ足りない」
だが、その目は完全に戦いを捉えている。
サーシャとマルレインの二人が並び、霧の中で初めて“流れ”を掴む。
そして二人の反撃がはじまる。だが――ボスの体が、ゆっくりと持ち上がる。
削れたはずの装甲が、音もなく再構築されていく。
ギチ……ギチ……
内部で何かが組み替わる音。
サーシャの眉がわずかに動く。
「……再生、早すぎる」
マルレインが舌打ちする。
「さっきより明らかに速いな」
ボスの単眼が、強く光る。
「……適応」
「……戦闘データ、更新」
その瞬間――空気が変わる。
空気の重さが、一段階上がりサーシャの歪みが、わずかに揺らぐ。
「っ……!」
能力の維持が、きつい。だが、崩さないよう集中し構えを、絶対に崩さない。
ボスが踏み込んでくる。さっきとは違う。
“消えた”。
「速っ――!」
次の瞬間、サーシャの視界の横に影が現れ腕が振り抜かれる。
ギィンッ!!
歪みが、かろうじて直撃を逸らす。
だが――衝撃が、残る。
サーシャの体が横へ弾かれ地面を滑る。
「ぐっ……!」
滑る体は止まらない。それでも、手は前に出し、構えは維持したままだ。
「崩すな!」
マルレインが叫ぶ。
同時に、地面を叩く。
パチンッ!!
爆発と共に霧が押し流され、空間に一瞬だけ“道”ができる。
「そこだ!」
サーシャの目が、ボスを捉える。
今だけ見える。この瞬間だけ。踏み込む。一直線に。
「……ティア」
歪みを押し込み空間がねじれ、ボスの胸部――コア付近が、わずかに裂ける。
「……ッ!」
初めて、反応が変わりボスの動きが、止まる。
「……損傷、確認」
「……優先排除対象、再設定」
単眼が、サーシャに固定され、強い光に “ロックされた”。
サーシャの背中に、冷たいものが走る。
「来るぞ!」
マルレインが叫ぶ。
次の瞬間――ボスの背部が、開く。
ギギギ……ッ
装甲が展開し内部から、赤い光が溢れ空気が震える。
嫌な予感。
「……出力、上昇」
サーシャの歪みが、大きく揺れ、維持が限界に近い。
それでも――手を下ろさない。
「……まだだ」
サーシャの息が荒い。そして視界が滲む。
だが、目は逸らさない。
「終わってない……!」
その瞬間――ドンッ!!
マルレインの爆発が、強引に霧を吹き飛ばし視界が、一気に開け夕焼けの光が差し込み壊れた街が、露わになる。
そして――ボスの“全体”が見える。
完全に。
「……なるほどな」
マルレインが笑う。
「ようやく見えた」
サーシャが小さく頷く。
呼吸は荒い。だが、構えは崩さない。
「……いける」
その一言に、確信が宿る。
ボスが再び構え空気が張り詰める。
次で決まる。
そんな予感が場を支配する。
サーシャとマルレイン、二人が並び同時に踏み込み空気が張り詰める。
次で決まる。その確信が場を支配する。
ボスの単眼が、強く光る。
サーシャの歪みが、限界まで膨れ上がり、マルレインの爆発が、地面を震わせる。
そして――衝突する、その直前、ほんの一瞬の“違和感”、だが、確実に空間がズレた。
サーシャの目が見開く。
「……今の……?」
ボスの動きが不自然に止まる。
まるで、“何かに止められた”ように。
マルレインの爆発も、わずかに遅れ時間が、噛み合わない。
「おい……なんだこれ」
その瞬間――
視界の端に、“白”い何かが映る
一瞬だけ。人の形。長い髪。だがそれは次の瞬間には消えている。
「……誰だ」
サーシャの声が低くなる。
返答は、ない。
だが――確実に、“見られている”。
空気が、変わり戦場に、本来存在しない“何か”が混じる。
ボスの単眼が、わずかに揺れる。
「……異常」
「……干渉、検知」
サーシャの背中に、冷たい感覚が走り理解する。
これは――“この場にいないはずの存在”だ。
その瞬間。すべてが元に戻り、時間が再び噛み合う。
ボスが動き、サーシャも踏み込み、マルレインの爆発が弾ける。
――だが。
“さっきの違和感”だけが、消えない。
サーシャの瞳が、わずかに揺れる。
「……まだ終わってない」
その呟きと同時に――
戦闘は、最終局面へ突入する。




