第5話 「時間を裂く者」
瓦礫に沈んだ街は、静まり返っていた。
風が吹く。
焼け焦げた建物の隙間を抜け、灰を舞い上げる。
その中に、ひとつの影が立っていた。
――サーシャ・レインズ。
背を向けたまま、彼女は動かない。
ただ前方を見据えている。
その先にいるのは――
黒鉄の装甲に包まれたアンドロイド。
赤いセンサーが、ゆっくりと彼女を捉える。
「……来るなら、来なよ」
サーシャは静かな声だで言った。 だがその声には、恐怖はない。
覚悟だけがあった。
アンドロイドが動く。地面を砕きながら、一気に距離を詰める。
――速い。だが。
サーシャは、動かなかった。
「遅い」
その瞬間。彼女の右手が、ゆっくりと前へ出される。
指が開くと空間が、歪む。
――いや、違う。
“裂けた”。
空間に、円形の亀裂が走る。
それはただの穴ではない。奥が、見えない。そこには星のような粒子が、渦を巻いている。
そうまるで――
時間そのものが削り取られたような穴。
アンドロイドが踏み込んだ瞬間。
その体が、止まる。
否。
止められたのではない。
引き込まれている。
「――消えろ」
サーシャの一言で。それだけで、世界が歪んだ。
アンドロイドの腕が、崩れ、装甲が、砕ける。
内部の機構が、光に飲まれていき引き裂かれ、潰される。
まるで存在そのものが――削除されていくように。
「……なに、それ」
後方で、マルレインが呟いた。
その目は、明らかに興味を帯びている。
そして同時に――
少しだけ、引いていた。
「お前……その能力、人に使う気か?」
サーシャは、振り返らない。
ただ、答える。
「必要ならね」
迷いはなかった。
それが当たり前であるかのように。
「……やりすぎだろ」
マルレインが笑う。
だがその笑いは、どこか乾いていた。
「壊すだけの私でも、そこまではやらないよ」
サーシャは、ようやく振り返る。
その目は、冷たかった。
「甘いね」
サーシャのその一言で、空気が凍る。
「これは戦いじゃない」
「――生き残りだよ」
すこしの沈黙の後。
風が吹き、そして――
遠くで、何かが動いた。
新たな影。複数の。
「……まだ来る」
サーシャが呟く。
その手には、まだ“力”が残っている。
マルレインは笑った。
「いいね」
「じゃあ――次は派手にいこうか」
ダイスが、揺れる。
そして二人は――
同時に、前へ出た。




