第4話「壊す理由」
重い扉が、低い音を立てて開いた。
――機関。
その内部は、外の崩壊した世界とは別物だった。
無機質な白。
静まり返った空間。
整然と並ぶ機械。
「……なんだよここ」
サーシャは思わず足を止める。
嫌な空気だった。
静かすぎる。
まるで生きている心地が、しない。
「研究施設よ」
マルレインが、あっさりと言う。
「研究?」
「ええ」
歩き出す二人。迷いなく、奥へ。
サーシャは少し遅れてついていく。
そして――
見てしまった。
「……は?」
ガラスの向こう。
そこに、“それ”はあった。
人型の形はしているが、だが、それは人ではない。
壊れかけたアンドロイド。
全身に走る亀裂。内部から漏れる、橙色の光。
それはまるで――
“生きている”ように見える。
「……これ、何だよ」
サーシャは声が、少しだけ低くなる。
マルレインは、答えない。
ただ、腕を組んで立っている。
「敵……じゃねぇのかこれ?」
「敵よ」
即答だった。
「でも、それだけじゃない」
「……どういう意味だよ」
マルレインは、ガラス越しにそれを見つめる。
ほんのわずか、目が細くし。
「これは“素材”でもあるの」
「素材……?」
サーシャの眉が歪む。
「機関はね」
マルレインは静かに言う。
「壊れたものを、そのままにはしないのよ」
少しの沈黙のあと。
その言葉の意味が、ゆっくりと理解されていく。
「……再利用してるってことか」
「ええ」
あまりにも、あっさりとマルレインが答える。
「効率的でしょ」
「……気持ち悪ぃな」
サーシャは吐き捨てるように言った。
マルレインは、わずかに笑う。
「そう?」
「そうだろ」
サーシャはガラスの中から視線を逸らさない。
「壊れたもんをまた使うとか……」
サーシャは言葉を探す。
だが、うまく出てこない。
「……なんか違うだろ」
その曖昧な言葉に。
マルレインは、少しだけ首を傾けた。
「何が?」
「全部だよ」
サーシャは即答だった。
「戦うのはいい。でも――」
一瞬、言葉を飲み込むサーシャ。
そして、続ける。
「ここまでやる必要あんのか?」
その問いに。マルレインは、しばらく黙っていた。
やがて――
「あるわよ」
静かに、マルレインが答える。
「ないと、負けるもの」
その声は、いつもより少し低い。
「……前にも言ったでしょ」
ガラス越しに、手を触れる。
触れても、何も起きない。
「壊さないと、生き残れないの」
その言葉は、どこか重かった。
「……それ、お前の考えか?」
サーシャが聞く。
「それとも――」
「機関の考えか?」
マルレインは、答えない。
ただ、ゆっくりと手を下ろす。
「……どっちでもいいわ」
そう言って、マルレインは振り返り。
「結果は同じだから」
その表情は、いつも通りだった。
だが――
ほんの少しだけ。ほんの一瞬だけ。何かが揺れたように見えた。
「……」
サーシャは、何も言わなかった。
ただ、ガラスの中のそれを見つめる。
壊れかけたアンドロイド。
敵だったもの。
そして今は――
“素材”。
「……ほんと、やべぇとこ来ちまったな」
小さくサーシャは呟く。
だが。それでも――
引き返すつもりはなかった。




