花灯り 淡き想いを 映しけり【続】
短編にするのを忘れたので作り直しました(コピペしたので内容は変わりません)
息子の雪夜から電話があり、いまから我が家に女性を連れてくるという。
正確には、その女性から大量の野菜をもらい、持って帰れないから車で送ってもらうことになったという話だが、私は浮かれた。
適当に遊んではいるようだが27歳になったというのに女性の一人も紹介してこない雪夜からの朗報。さらに価格高騰のこの時代に持って帰れないほどの野菜をいただけたこと。
実は私には前世の記憶がある。
雪夜は前世で私の父だった。
確認も証明することはできないが、雪夜の顔は前世の父そのままだから恐らく間違いはない。
息子、前世で我が父はいまも昔も変わらずイケメンだ。
さすが三国一の美姫を娶れただけはある。
戦国の世だったから前世の父のほうが筋肉質だったが、細マッチョとでもいうのか雪夜はTシャツ1枚で様になる体をしている。背も高い。年収も高い。それなのに遊んでばかりいて!
ここは父に似なかった。
前世の父は母に一途だった。
私が13歳かそこらで母は亡くなってしまったが、男やもめとなった父は周囲の再婚話を全て断り私たち兄妹たちを慈しんでくれた……当時の私、兄3人に息子が4人。男児が望まれる時代だからそれでいいのだけれど、今世の私も息子1人だけ。
娘が欲しかったが私の体質的に2人目は難しく、今世も息子のお嫁さんに賭けることになった。
どんな子でもいい、とは流石に言わない。
雪夜だけでなく私との相性も大事。
だから「いい子がいたら紹介してね」と何度も言ってきた。それなのに27歳のいまの今までなにも…………落ち着きなさい、私。
そもそも、どんな子?
金曜日の夜に「ちょっと旅に出てくる」な感じで出かけていった先で懇ろになった相手って……えええ、大丈夫なの?
雪夜の「女性をうちに連れていくから」にかなりテンションが上がって、休日で家にいたお父さんに菓子を買ってくるようお使いに出して、いまようやくテンション落ちてきて気が付いた。
どんな子を連れてくるの?
ちょっと、お父さん。
早く帰ってきて!
女の子だから煎餅とかじゃなくて洒落たもの買ってきてと頼むなんて、私の馬鹿。
お父さんに分かるわけないじゃない。
大丈夫、落ち着きなさい。
うん、私はいい義母になると決めたじゃない。
前世の祖父母がどぎつい性格で母をねちねちと虐めていたという前世の兄の言葉は私の胸に深く刺さり、前世の私はよい姑だったと自負している。今世でも私はよい姑になる自身はある。
……その誓いを破らずにすむお嬢さんであることを願う。
◇
「ただいま」
しばらく前から見知らぬ車が我が家の駐車場に停まろうとしていたのはレースのカーテン越しに見えていた。
隙間から覗き見しなかった私を誰か褒めてほしい。
そしてお父さん、どこまでお使いに行ったの?
雪夜のほうが先に帰ってきちゃったじゃない。
「母さん? いないの?」
いるわよ!
「ゆ、雪夜、お帰りなさい」
雪夜が連れてきたのはどんな子……って、えええ? 兄様?
「実花さん、大樹さん、俺の母です」
「は、母の千里です」
前世でよく見た、いや記憶より大分若い顔だけど、よく知っていた顔がそこにいた。
「母さん、どうしたの? 風邪でもひいた?」
「え、ええ、まあ……」
「あ、大樹さんがイケメンで吃驚した?」
イケメンって、確かにイケメンだけど……息子、その人は前世であなたの息子。そして私の長兄・弘篤。ちなみに幼名は大丸。
この顔で……丸。
いやいや、立派なこともしたのよ。
歴史にも残っているし。
ここから電車で1時間くらいかな。車だと30分くらいのところにある有名なあの桜並木を作った人よ。小さい頃何度もあそこに連れていってあげたじゃない、覚えていないの? ……って、言いたい!
でも、言えない。
言ったら私、ただの怪しい人。
せっかく雪夜が素敵なお嬢さんを連れてきてくれたのだからマイナスの第一印象は避けたい。
そう、素敵なお嬢さんなのよ。私、幸せ。きれいなお嬢さん。早く一緒にお買い物とかにいきたい。
息子よ、よくやった!
「あの、野菜、どこに?」
「あ、そうだった。ご、ごめん」
「い、いえ」
「あっと……母さん、野菜、どこに?」
…………息子よ、“よくやった”なの?
なんでそんな高校生みたいに初々しいの?
あなたが高校生のときそんなに初々しくなかったのを、お母さん知っているんですからね。あのときはお母さん、あなたが女の子を妊娠させちゃったらどうしようって悶々としたのよ?
でももうあなたも27歳、一児の父になってもいい年齢。
いえ、なって。
いま直ぐ、なって。
授かり婚なんて全く珍しくないし、実花さんを見れば親族一同「この美人じゃあ」と納得するわよ。
頑張って!
前世のあなたなら10歳の息子がいた年齢よ!
視線を感じてそちらを見ると、大樹さんが苦笑していた。
前世で兄妹だったからかその表情でいいたいことは分かった。この二人、周りが背をガンガン押さないとならないらしい。
……やだ、それ、とても楽しそう♡
❁❁❁
息子の雪夜から女の子を連れていくと連絡があってお母さんはたいそう喜んだ。
娘が欲しかったってずっと言っていたもんな。
喜ぶお母さんを見て嬉しくなっていたら、邪魔だと言われて追い出された。美味しいお菓子を買ってきてというお使いの態ではあったけれど。
しかし、難しいことを言い渡された。
女の子の好みなどわからない。
子どもは雪夜一人だし、男兄弟だったし、その子どもたちも全員甥……お母さんはどうしてうちに女の子が生まれるなんて思ったのだろう。
うろうろと町内を歩き回りながら気づいた。
27歳の雪夜が高校生を連れてくることはない。
それは犯罪だ。
相手の女性とは昨夜居酒屋で飲んだと言っているから20歳は越えているだろう。
それなら、と電車に乗って私の勤務先である大学の近くにある白梅庵に行った。ここの定番の大福は私の好物だ。
店内は桜の季節だからかあちこち春色で、『若い女の子はどっちが』とここでも悩みに悩み、桜味は好き嫌いが分かれるからと最終的に大福を買った。
家に帰ると、リビングはすごい空間になっていた。
どうやら美形にはいろいろな種類があるらしい……結婚式のときはこの顔と一緒に写真を撮るのかあ。
…………いや、これは。
「み、実花さん、これ、いや、この人? お父さんです」
……結婚式は当分先だな。
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