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◇
山道の真ん中に聳えるトンネルは、どんよりとした空気を孕んでいた。その異様な雰囲気と薄暗さに、カゴは顔を顰めた。
深淵のような穴は、まるで大きく口を開いた悪魔のようである。
車から降りた三人は、坑口へ向かう。昼間だというにも関わらず、肌寒さを感じたカゴが、二の腕を摩った。
「ここが噂のトンネルですね?」
「えぇ、間違いないです」
カンマとミノルが会話をしている光景を見ていたカゴは、あることに気がついた。
坑口付近にひっそりと花束と供物が置かれている。
それらは最近置かれたもののようで、花の瑞々しさに目が眩んだ。
カゴは視線をミノルへ遣った。もしかしたら、この花は────そう考え、深入りするのはやめようとかぶりを振った。
「さて、どうする? 降霊でもするの?」
カゴを見たカンマが、ぐんと背伸びをする。カゴは鍵についたキーホルダーのチェーンを人差し指に掛け、くるくると回した。
「一つ、検証したいことがある」
「なに?」
「まずは、俺が一人でトンネルへ入る。その後、何もなければUターンしてここへ戻ってくる」
「ちょっと、待っててくれ」と言い残し、カゴは車へ乗り込んだ。
緩やかに加速しトンネルへ吸い込まれる車を、カンマはひどく冷たい目で眺めていた。
「……死にたがりだなぁ」
「え?」
ボソリと呟いたカンマに、ミノルが反応する。
「カゴ、すごい死にたがりなんですよ。だから、一人で中に入ったんだろうなぁ」
なんでもないことのように、しかし重要な事柄のように語るカンマの横顔を、ミノルが眺める。
「前にも言ってましたけど……カゴさんが死にたがっているという話は、本当なんですか?」
「えぇ」
カンマが足元にある小石を蹴った。コロコロと転がったそれは、やがて弾む力を無くしその場で止まる。
「カゴ、何回も自殺未遂してまして。ほら、左足をちょっと引きずってるの、分かりました? あれ、自殺した時の後遺症なんですよ」
カンマが肩を竦める。ミノルが唾液を嚥下した。
「十階建てのマンションから、飛び降りた時に負った後遺症なんです。いやぁ、でも、すごいですよね。十階から飛び降りたのに、あの左足の後遺症だけで済んだんですよ?」
まるでなんてことないように語ったカンマの頬を、冷たい山風が吹き抜ける。
「……あいつ、死ねないんですよ」
「え?」
「何度自殺しても、この世に引き戻されるそうです。だから、もう最近は首を吊るのも飛び降りるのも、やめたらしいです」
「不思議ですよねぇ。カゴって」。小さく笑ったカンマが、トンネルの坑口に視線を投げた。
「まぁ、多分。今回も死ねないんでしょうけどね。でも彼は、希望を持ってるんですよ。「死ねるかもしれない」という希望をね」
◇
死ねるかもしれない。カゴは胸を高ならせながらハンドルを握っていた。アクセルを踏み込む足に力が籠る。ハンドルを握る手に汗が滲んだ。
単独で事故を起こせば、誰にも迷惑をかけることなく死ねる。その死に方は、カゴにとって最高の死に方だった。
しかし、走るにつれて何も起こらないことに眉を顰める。横目に感じる景色はどれも似たものばかりで、たいした変化はない。
女がボンネットに落ちてくることもなければ、背中に感じる悪寒もないし、ポルターガイスト現象も起こらない。
ただ優雅にトンネル内をドライブしているだけだ。
────やっぱり、考察通りか。
見えてきた光に導かれるように、車を走らせる。トンネルの外へ出たカゴは、そこで車を止めてため息を漏らした。
ハンドルを大きく切り、Uターンをする。
帰る道中、何度目かわからないため息を漏らした。




