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カンカゴなんでも屋にご相談を!  作者: 中頭
落ちる女

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7/19

7


 山道の真ん中に聳えるトンネルは、どんよりとした空気を孕んでいた。その異様な雰囲気と薄暗さに、カゴは顔を顰めた。

 深淵のような穴は、まるで大きく口を開いた悪魔のようである。

 車から降りた三人は、坑口へ向かう。昼間だというにも関わらず、肌寒さを感じたカゴが、二の腕を摩った。


「ここが噂のトンネルですね?」

「えぇ、間違いないです」


 カンマとミノルが会話をしている光景を見ていたカゴは、あることに気がついた。

 坑口付近にひっそりと花束と供物が置かれている。

 それらは最近置かれたもののようで、花の瑞々しさに目が眩んだ。

 カゴは視線をミノルへ遣った。もしかしたら、この花は────そう考え、深入りするのはやめようとかぶりを振った。


「さて、どうする? 降霊でもするの?」


 カゴを見たカンマが、ぐんと背伸びをする。カゴは鍵についたキーホルダーのチェーンを人差し指に掛け、くるくると回した。


「一つ、検証したいことがある」

「なに?」

「まずは、俺が一人でトンネルへ入る。その後、何もなければUターンしてここへ戻ってくる」


 「ちょっと、待っててくれ」と言い残し、カゴは車へ乗り込んだ。

 緩やかに加速しトンネルへ吸い込まれる車を、カンマはひどく冷たい目で眺めていた。


「……死にたがりだなぁ」

「え?」


 ボソリと呟いたカンマに、ミノルが反応する。


「カゴ、すごい死にたがりなんですよ。だから、一人で中に入ったんだろうなぁ」


 なんでもないことのように、しかし重要な事柄のように語るカンマの横顔を、ミノルが眺める。


「前にも言ってましたけど……カゴさんが死にたがっているという話は、本当なんですか?」

「えぇ」


 カンマが足元にある小石を蹴った。コロコロと転がったそれは、やがて弾む力を無くしその場で止まる。


「カゴ、何回も自殺未遂してまして。ほら、左足をちょっと引きずってるの、分かりました? あれ、自殺した時の後遺症なんですよ」


 カンマが肩を竦める。ミノルが唾液を嚥下した。


「十階建てのマンションから、飛び降りた時に負った後遺症なんです。いやぁ、でも、すごいですよね。十階から飛び降りたのに、あの左足の後遺症だけで済んだんですよ?」


 まるでなんてことないように語ったカンマの頬を、冷たい山風が吹き抜ける。


「……あいつ、死ねないんですよ」

「え?」

「何度自殺しても、この世に引き戻されるそうです。だから、もう最近は首を吊るのも飛び降りるのも、やめたらしいです」


 「不思議ですよねぇ。カゴって」。小さく笑ったカンマが、トンネルの坑口に視線を投げた。


「まぁ、多分。今回も死ねないんでしょうけどね。でも彼は、希望を持ってるんですよ。「死ねるかもしれない」という希望をね」



 死ねるかもしれない。カゴは胸を高ならせながらハンドルを握っていた。アクセルを踏み込む足に力が籠る。ハンドルを握る手に汗が滲んだ。

 単独で事故を起こせば、誰にも迷惑をかけることなく死ねる。その死に方は、カゴにとって最高の死に方だった。

 しかし、走るにつれて何も起こらないことに眉を顰める。横目に感じる景色はどれも似たものばかりで、たいした変化はない。

 女がボンネットに落ちてくることもなければ、背中に感じる悪寒もないし、ポルターガイスト現象も起こらない。

 ただ優雅にトンネル内をドライブしているだけだ。

 ────やっぱり、考察通りか。

 見えてきた光に導かれるように、車を走らせる。トンネルの外へ出たカゴは、そこで車を止めてため息を漏らした。

 ハンドルを大きく切り、Uターンをする。

 帰る道中、何度目かわからないため息を漏らした。

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