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待ち合わせ場所にいたミノルは昨日と違い、ラフな格好をしていた。しかし、その顔つきはどこか強張っている。
「今日はよろしくお願いします」と挨拶をしながら後部座席に座った彼は、手に持っていたクリアファイルをカンマへ差し出した。
「これは?」
「あのトンネルで起こった事件とそれに関するものをまとめた資料です。情報は確実なものじゃない場合もありますが、背景は知れるかと」
動き出した車内の中、カンマがガムを膨らませ、資料と呼ばれた紙を確認する。そこには二十年前に起こった事故の詳細が記されていた。
「あのトンネルで女性が轢かれた事故があったんですね」
「えぇ。ですが、地元の小さな事故ということもあり、新聞の片隅にしか載っていませんでした」
資料には拡大コピーされた新聞記事が貼り付けられていた。「探すのに一苦労したんです」と後ろで笑う声が聞こえる。すごい執着心だな、とカゴが関心する。
トンネルでは二十年前に、女性がひき逃げされるという事件が起こっていた。被害者はバイト先の男性二人と、その友人である男性二人と共にドライブをしていた。
しかし、それは愉快なものではなかった。
被害者は無理やり車に押し込まれたそうだ。男が四人もいる手前、強く反抗できなかった被害者はうまくやり過ごすしか術がなかった。
トンネルへ差し掛かった頃、一人の男が被害者へ手を出した。もちろん、被害者は嫌がった。
そんな抵抗する被害者に痺れを切らせた男が、彼女を車の外へ放り出したらしい。
被害者は出された時に道路に転び、頭を強くぶつけた。そのまま道路で気絶していたそうだ。
その後、通りかかった対向車に後部を踏まれ────。
「……あの女がトンネルに固執する理由です。きっと、通る車たち全てを敵だと認識しているのでしょう」
「なるほど」
カンマがフゥンと鼻を鳴らす。「事実と違う点があるかもしれませんが、おおよそこの通りかと」。ミノルが続ける。
「……で、次の資料が、その後のトンネルで起こった事故です」
次のページにはネットの掲示板やSNSから拾ってきたであろう文言が記されていた。「友達と心霊スポットと噂の〇〇トンネルへ行ったら、事故した。最悪」「地元の心霊スポットだと言われてる〇〇トンネルへ行ったけど、何もなかった。つまんね」。意見は真っ二つに割れている。
「……あの女に会うには、条件があるようです」
ミノルの真剣な声音が車内に響く。
「心霊スポットに行った人がもれなく事故るというわけじゃないんだね。うーん、何がきっかけなんだろう」
「時間帯じゃね?」
カゴが顔を傾け、後部座席を見た。ミノルは首を横に振る。
「いえ、時間帯は関係ないそうです。オカルトマニアである男性が、朝昼晩と三六五日通い詰めたそうですが」
「暇かよ」
「何も起こらなかったそうです」
「一日ぐらい、何か起こりそうなもんだけどなぁ」とカゴがボヤく。
「ま、今からその謎を解きに行くんだから。慌てない、慌てなぁい」
カンマが気楽そうな声をあげた。「……にしても」。
「こんな資料を作るなんて、気合入ってますねぇ」
カンマの声に、ミノルが吃った。「そ、そうですね。どうしても、あの女に会いたいので……一年前から、調べ上げています」と言葉の端々を震わせながら喋る彼に、カンマとカゴは目を合わせた。
「仇討ちって、怖いねぇ」
「え、なんですか?」
「いえ、何も。ところでガム食べます?」
カンマはボトルガムを後部座席に差し出す。ミノルは礼を言い、それを受け取った。
「俺もガム、貰おうかな。手に乗せてくれ」とカゴがハンドルから片手を外し、カンマへ促す。
「あいよ」
「誰がお前の噛んだガムを乗せろって言ったんだよ!」
「それもガムだよ」
「食えるかぁ! 頭イカれてんのかテメェは!」
二人のやりとりに、ミノルが小さく笑う。「二人は仲がいいんですね」と言われ、カゴが眉を顰めた。
「ただの腐れ縁なだけです」
「えぇっ、僕は仲良しな相棒だと思ってるのに」
「いいですね……俺にも友人がいましたが……」
そこでミノルが口ごもる。カンマがバックミラー越しにミノルを見た。
「ご友人とは……ドライブを共にした人物ですか?」
「えぇ、そうです。あいつとは小中高、ずっと仲が良くて……」
重い空気が車内に蔓延する。「あの……」と口を開こうとしたカンマを、カゴが肘で小突いた。
「……もうすぐで到着するぞ」
カゴがひとりごちる。カンマが間を置いて「はーい」と腑抜けた声で応答した。




