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◇
「この角を曲がったら、僕が住んでいるアパートです」
カンマとカゴはタカシに導かれ、アパートへ向かっていた。道中、近所の人々が何人も声をかけてくる。
「あら、タカシくん。お友達と一緒なんて珍しいわね」
「あはは、今から僕の家に来るんです」
タカシは頭をかきながら笑い、さらりと応える。
どうやら彼は、このあたりでかなり人望があるらしい。
「皆さん、すごく優しいんです」と嬉しそうに語るタカシが、指を差した。
「あれが僕が住んでいるアパートです」
古びているが、どこか味のある佇まいをしたアパートがそこにはあった。建った当初は白かったであろう壁はくすんでおり、階段や手すりには錆が浮いている。
「あら、タカシくん?」
後ろから声がし、三人は振り返った。そこには腰を曲げた老婦人が杖をついて立っていた。手には買い物袋を下げている。プルプルと震える手を見て、タカシは慌てて荷物を抱えた。
「大家さん、それ僕が運びます」
「あぁ、いつもありがとうね……」
タカシは大家の背中に手を回し、労りながらアパートへ向かった。カンマとカゴもその手伝いをする。「あらやだ、お姫様になった気分だわ」と、彼女は頬を緩ませた。
「助かったわ、ありがとう」
無事に家に到着した大家は、タカシたちを見遣り微笑んだ。「どういたしまして」と頭を下げたカンマが、タカシへ耳打ちする。
「────今が、チャンスでは?」
「ッ……」
タカシは何か言いたげに言葉を詰まらせ、胸元で手のひらをぎゅうと握りしめた。しかし、言葉が出てこないのか、固まったままだ。
そんな様子を見ていた大家が、思い出したように家の中へ入っていく。しばらくして、ビニール袋いっぱいのみかんを持って戻ってきた。
「これ、いとこから送られてきたのよ。一人じゃ食べきれなくて。お友達と分けて食べてちょうだい」
朗らかに笑んだ大家に、タカシは静かに頷く。「ありがとうございます」と言ったきり、俯いてしまった。
◇
「なかなか、言い出すのって難しいですね」
タカシの部屋でみかんを食べながら、カゴが呟いた。タカシは長い指先で丁寧にミカンの白い筋を取りながら「そうですね」と力なく賛同する。
「あ、タカシさん、スジ取る派なんですね」
「僕も取る派。でも、面倒臭いからそのまま食べちゃう派でもある」
カンマはみかんを丸ごと口に頬張り、咀嚼しながら言った。「お前の場合はもう、次元が違うだろ。俺たちと同じ土俵に立つなよ、こえーよ」とカゴは顔を引き攣らせる。
「……言えるでしょうか、僕」
タカシは身を縮こませ、消え入りそうな声で呟いた。
「……俺たちの口から、言いましょうか?」
「いえ、それは────ダメです。自分で、言いたいんです」
タカシはカゴの言葉を遮り、キッパリと言い放つ。だが、その表情はすぐに曇っていく。
「……でも、幻滅されるのが怖い」
タカシの声が、さらに小さくなる。
しゅんと肩を落とす彼の背中を、カンマがポンと叩いた。
「大丈夫ですよ。短い間ですが、あなたがいろんな人に好かれていると言うことは、痛いほど分かりました。そんなあなたが本当の姿を表したところで、周りの人は怖がったり拒絶したりしません」
カンマの言葉に、タカシは表情を明るくした。
「じゃ、このみかんを食べたら、言いにいきましょ」
カンマが再びみかんを丸ごと頬張る。「それやめてください、怖いです」と悲鳴をあげたタカシを見て「多分、お前が人類で初めて宇宙人をビビらせた男だよ……」とカゴがひとりごちた。




