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澄んだ空が広がっている。カゴは事務所の窓際に寄り、ペンキをぶちまけたような青を見つめながら、あくびをひとつ。もう少し寝ていればよかった、と目尻に溜まった涙を人差し指で拭った。
ふと、窓から身を乗り出し、下の道路へ視線を下ろす。ビルの真下をスーツを着た男たちが通り過ぎていく。見ているだけで背中に汗が滲みそうなその重々しい黒に、カゴは眉を顰めた。
「カゴッ」
不意に腕を掴まれたカゴは、そのまま事務所内へ引き戻される。どたりと尻もちをつき、目を見開いてポカンと口を開けた。
「……ってーな……なんだよ、カンマ!」
カゴは一瞬、呆気に取られたが、振り返り怒鳴り声を上げた。
「ご、ごめん。カゴがまた落ちるのかと思って」
額に汗をにじませたカンマは、どこか戸惑っている。
見慣れないその表情に、カゴは拍子抜けした。
「……落ちねーよ」
「そっか、ごめん」
ぶっきらぼうに呟いたカゴに、カンマがもう一度、謝罪をした。
眉毛を八の字にし、しおらしい表情をしたカンマに、カゴはバツが悪くなる。
どうやらカンマは、カゴが落ちると思ったらしい。余計なお世話だなぁと思っていると、カンマが手をカゴの頬へ伸ばした。
顔を俯かせ、黙り込んだカンマに、カゴは不気味さを覚えた。
「なんだよ、キモいな」
カゴが顔を顰め、その手を払った。足を引きずり、ソファへ勢いよく腰を下ろす。いまだに不安そうな表情を滲ませたカンマはキッチンへ向かった。「……お茶入れるけど、飲む?」と尋ねるカンマに、カゴは頷く。
「今日も、依頼こないな」
空気を変えるため、カゴが声を張り上げた。続けて「辞めようかな」とひとりごちる。カンマは慌てて「ダメだよ、まだ続けようよ!」といつも通りの明るい声を出した。そんな彼を見て、カゴはホッと胸を撫で下ろす。
「カゴがいなくなったら、僕、困るよぉ」
「勝手に困っとけ」
「────あのぉ……」
二人の間に、声が割り込んだ。「うぉ!」と飛び上がったカゴは、事務所のドアへ目を向ける。カンマもキッチンから顔を覗かせた。
そこには「何か」がいた。二人は視線を搗ち合わせ、数秒間見つめあった。
依頼主である「何か」はもう一度、声を出す。
「あのぉ……ここは「カンカゴなんでも屋」で間違いないですか?」
「……あ、はい。間違いありません。こちらへどうぞ」
声を上げたのは、カンマだった。淹れたお茶を盆に乗せ、「何か」をソファへと案内する。「何か」は頭を下げてから、そっと腰を下ろした。
向かいに座っていたカゴは尻の居心地が悪いのか、何度か座り直す。湯気が立つ湯呑みをテーブルに置いたカンマも、カゴの隣に腰を下ろした。
二人は横目で見つめあう。
「カンカゴなんでも屋」としていろんな依頼を受けてきたカンマとカゴだが、初めて見るタイプの依頼主にどう切り出して良いか分からず唇を舐めた。




