第三話
「でさ、昨日ついに葉山くんとデートまで漕ぎ着けたの。やばくない?」
教室に入ってからというもの、秋穂は目を輝かせながらずっとこの話をしている。葉山くんというのは隣のクラスの男の子で、背が高く顔も中々に美形な為、女子からの人気が凄い。時折少々つめたい部分もみせるが、それもより惹かれるのだと女子たちは言う。そんな葉山くんとデートまで漕ぎ着けた事は、秋穂にとって今年一のラッキーな出来事らしい。
「凄いね。おめでとう」
心からそう思っていたので言ったのだが、秋穂は「なにそれ。なんか反応薄い」と頬を膨らませた。
「莉乃はまだおこちゃまだから男ネタにはついてこれないか」
秋穂はそう言って窓の向こうに目を向けた。窓際の最後列が私の席で、その一つ前が秋穂の席だ。
「ねえ、おこちゃまってなんかむかつくんだけど」
「おこちゃまじゃん」
「どこが?」
「恋愛に全く興味ないとことか」
「恋愛に興味ないとおこちゃまなの?」
問い掛けると秋穂は大きく頷いてからふっと立ち上がり、椅子を私の方へと向けてからどかっと腰を下ろした。
「ねえ莉乃、分かってる? あたしたちって華のJK最後の年だよ? 恋愛の一つでもしないと勿体ないじゃん」
「そうかな」
「そうだよ。ってか莉乃の場合はさ、最後の年うんぬんの前に私が知る限り彼氏出来てないでしょ?」
ちいさく頷いた。
「それってやばいって。華のJK生活を全部無駄にしてるのと一緒じゃん。もういい加減彼氏作りなって。莉乃は綺麗だしスタイルもいいから男の子から何人も告白だってされてんじゃん。なのに、なんでおっけーにしないの」
「え、好きじゃないから?」
間髪入れずにそう答えると、秋穂はついに頭を抱えた。しまいには背を預けるところにおでこをくっつけ身悶えて始めた。なんか、変な生き物をみたい。そんな風に思っていると、秋穂がふいに顔をあげた。
「じゃあワンワンは?」
「えっ、晴?」
「そう。私は今、莉乃が年下好きなのかもって線を探ってるんだけど」
刑事みたいな事を言いながら、ご丁寧に解説までしてくれてる。
「晴はないよ。子供の時から知ってるし、二つも下だし、弟みたいなものだから」
そう答えると、だよねーと秋穂は肩を落とした。担任が教室に入ってきたのはその直後だった。