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第9話 筋トレ機材はデートアイテム

「涼くん、週末あいてないかな?」


 大学の授業の合間に、凛が声をかけてきた。普段からたまに話しているが、突然の誘いに驚いた。心臓が高鳴るのを感じながら、それを隠すように答える。


「あ、あいてるよ。なにか用事があるの?」


「うん、ホームジムの機材を見に行きたいの。一緒にどうかな?」


 凛は、ジムではなく自宅で筋トレをしているという話は聞いていた。


ジムに通っていたが、周囲の目が気になってジムは辞めてしまったらしい。これだけ美人だから、ジムでも目立ってしまったんだろう。


「もちろん行くよ。ホームジムはあまり知らないけど、楽しそうだね」


 僕もホームジムを考えたことはあった。でも、最初からジムに通ったので、切り替えることはなかった。


「じゃぁ、駅に10時で」


「了解」


 大学の外で凛と会うのははじめてだ。これはデートと言えるに違いない。世間一般のデートと目的地は違うけど…そこは気にしないでおこう。


 ◆◆◆


 僕たちはほとんど同じぐらいの時間に駅に着いた。


凛はいつも大学で見る服と違い、ワンピースとカーディガンを組み合わせたかわいい服装だ。僕のために選んでくれたのかと妄想する。


「おはよう、涼くん」


「おはよう、凛。今日は誘ってくれてありがとう」


 僕たちは筋トレの話をしながら、電車で2駅ほどの商業ビルに向かう。


 大学では凛と筋トレの話をしないので、僕にとっては新鮮で楽しい。大学では凛と筋トレの話はあまりしていない。凛はどう見ても筋トレ民には見えないし、周囲の女子もいるからだ。


 商業ビルに着き、エレベーターで5階に登る。ここに、筋トレ用品の店が入っているらしい。凛もはじめて来るようだ。


「今日はダンベルか何かを見に来たの?」


 僕は凛に問いかけてみた。


「パワーラックを見に来たの。ハーフラックも考えたんだけど、ハーフラックのほうが設置に奥行きが必要らしくて」


 想像よりもガチだった。自宅にパワーラック。ホームジム勢の憧れじゃないだろうか。


「ここにあるメーカーのパワーラックが評判いいみたいだから試したいの」


「パワーラックならジムでも使ってるから少しはわかるかもしれない。今はどんなトレーニングしてるの?」


「今は可変ダンベルとインクラインベンチでできることだけしてるわ。バーベルも持ってないから、バーベルセットも買わないといけないわね。」


 僕は女の子の部屋にダンベルとベンチが置いてあるのを想像しようとしたが、想像力が追いつかなかった。


 ◆◆◆


 店に入って、機材を見ていると、店員さんが僕に営業トークをしにきた。


 店員さんは僕が買いに来たと思っているに違いない。どう考えても、凛が買いに来たとは思わないだろう。


「このラックでベンチを試してもいいでしょうか?」


 凛が店員さんに話かけると、店員さんは、すごい驚いた顔で一瞬固まった後、プロ精神を発揮して動き出した。


「もちろんです。この商品はセーフティがストラップタイプですが、セットアップが簡単で、音も静かでオススメです」


 店員は、テキパキとフラットベンチを持ってきて、Jフックとセーフティの高さをセットアップをしてくれた。バーベルはウエイトなしだ。


「ありがとうございます」


 目を惹かれるような笑顔で凛は店員さんに感謝を伝える。


 凛はスムーズにベンチに寝て確認をはじめた。スカートを履いているから、足上げフォームでやっている。何かドキドキする。


「涼くん、セーフティをもう1つ下げてもらえないかしら」


「あ、はい」


 凛は念入りにさまざまなところを確認している。


「100kgぐらいでセーフティにバーベルを降ろしてもらえないかしら?」


 凛は僕に確認してほしいことがあるみたいだ。僕は先日、100kgを達成していた。凛はそれを知らないはずだ。良かった、200kgとか言われなくて。


 ここは、僕の実力を見せるチャンスだ。余裕であるように表情を変えずに答えた。


「やってみるね」


 僕はセーフティを慎重に確認して、軽くウォームアップをして、100kgを1度挙げてから、わざと潰れてセーフティの確認をした。


「こんな感じで潰れればいいかな?」


 僕は内心必死だったが、余裕っぽく話しながらセーフティを確認した。使ったことがないストラップタイプのセーフティだから安定性を確認したかったに違いない。


「ありがとう!これなら私1人でやっても大丈夫そうね」


 凛は、僕と店員さんに感謝を伝えて、このメーカーのパワーラックを購入することに決めた。


 ◆◆◆


「今日はありがとうね」


「僕も楽しかったよ。ラックがあれば自宅でも本格的に筋トレできそうだね」


 僕たちは商業ビルを出て、駅に向かって歩いていた。


お昼時になって、人通りは多くなっている。僕たちはデートをしている恋人に見えるんじゃないだろうか。


「あと…できれば私の家で組み立ても手伝ってもらえないかな? 2週間後に届くみたいなの」


 凛は一人暮らしだ。あんなに大きな機材は自分1人で組み立てるのは大変だろう。


「もちろんだよ。手伝うよ」


 凛の家に行くことができる!女の子の家にパワーラックを設置しにいくという謎シチュエーションだけど。


「じゃぁ今日のお礼に私がお昼ご飯を奢るね」


 僕たちは、ヘルシーな肉料理を食べて、楽しい時間を過ごした。


 もちろん話題は筋トレだった。

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