第10話 凛の部屋で
凛のマンションに来た。新しいマンションで、入口はオートロックで不審者は入れない。女性に人気そうなマンションだ。
スマホで連絡していたので凛が下まで迎えに来てくれていた。
「涼くん、今日もありがとね」
「いや、いつでも大丈夫だよ。僕も楽しみだし」
凛と一緒に部屋に入る。部屋は綺麗に片付いており、家具はシンプルだけど、おしゃれだ。色合いも女性らしい。
ただ、インクラインベンチとダンベルが視界の片隅に映るので、今どこにいるんだろうと脳が混乱する。
部屋の一角に異質な黒いラバーマットのエリアがある。あそこにラックを置くに予定だろう。
僕たちは、ラックが届くのを待った。
◆◆◆
「あ、来た来た」
配達員は部屋の中まで段ボールを運んでくれた。設置はしてくれないので、自分たちで組み立てないといけない。
部屋が一気にダンボールでいっぱいになる。重量が凄まじい。設置だけで筋トレになるレベルだ。
僕は家から持ってきた電動インパクトとソケットレンチを取り出し、2人でラックを組み立てはじめた。
「こっちから支えておくから、ボルトを締めてもらえるかな?」
「先にこっちから組み立てていこう」
2人で声をかけながら協力する作業が多い。パワーラックがこんなに恋愛に向いたイベントアイテムだとは知らなかった。
◆◆◆
2時間かかったが、凛と話しながら組み立てをするのは楽しい時間だった。
「よし、完成!」
女の子の部屋に黒光りするパワーラックが設置された。背徳感すら感じる。
「本当にありがとう。一人でも組み立てできるって口コミがあったけど・・・私じゃ無理だったと思う」
「いや、僕も一人だと難しいよ。2人でやると楽しいし早いね」
少し汗ばんだ凛の顔を見つめる。本当に可愛い。恥ずかしくなって会話が止まってしまった。
「…今からトレーニングしてみる?補助するよ」
困ったときは筋トレの話をすればいい。彼女なら通じるはずだ。
トレーニングで、彼女の顔が赤くなる。汗が滴る。小さな声が漏れる。
僕は彼女の姿を見つめることしかできなかった。