7 アロンゾ1
そろそろアロンゾにつくが……
上流から、死体が流れてくる
「おい!死体がそっちにいったぞ」
死体を拾い上げる
少年の死体だった。体の下半分はなかった。
可哀想に
上流で何が起きてる
彼らは船を追い越し、上流へ向かった
そして、先頭を走った
アロンゾに、帆船があった
帆船が火を吹いた
アロンゾは、普通に栄えていて人もたくさんいるところに、魔物の襲撃が始まる方がいい
っこっちの方がいい
水面に水しぶきが上がった
急いで逃げる
アイルたちは、アロンゾにたどり着いた。
しかしアロンゾの上流には、敵の帆船が滞留していた
このまま進むのは無理だろう
アイルたちは、船をアロンゾに向けた。
アロンゾの村は、焼き払われていた。
それも、徹底的だった。
いや、なにかがおかしい
死体がないな
死体は、他で処理したということか?
どうなんだろうか
ジェイが顔を出す
ジェイ「おい、アイル」
アイル「ジェイ」
アイル「どうした
ジェイ「ゲリラ戦やってるんだよ」
アベル「やつらの船がやって来た」
ジェイ「ちい、おい坑道に逃げ込むぞ
みなジェイの後を追い、走った。
そして洞窟に入った
洞窟で休む
石綿の布を被り、休む
やがて彼らはアロンゾにたどり着いた。
アロンゾの港は支流から少し奥に入った場所に作られていた。アロンゾは太古の昔から鉱山として利用されており、その港は川の上流域のものとしては非常に大きかった。
しかし、普段はたくさんの交易船が行き来するその港も、今はもぬけの殻だった。
アイルたちは港の少し上流の場所に船を止めた。
【アイル】「ちょっといってくる」
アイルはそう言い、彼は船を飛び降り、丘を駆け上がった。
アロンゾは港から少し坂を登った丘の上に建てられていた。アロンゾの裏手には鉱山があり、その赤褐色の岩盤の表面には数百を超える横穴が掘られていた。その中身は迷路のように入り組み、今ではドワーフですらその全容を知るものはいないという。
アイルは村の門までたどり着いた。村の入り口の門には、ドワーフの顔面が象形されたトーテムポールが二本立っていた。
村には人の気配がなかった。屋根と屋根の間に張られた色とりどりのタルチョが、微風を受けてゆらゆらとたなびいていた。同じく空中にはられた紐の上には、洗濯物が干されたままになっていたが、それは昨晩の大雨の水をすい、大きく垂れ下がっていた。
アイルは大通りを歩いた。彼は勝手口の開け放たれた家そ覗いた。
家の中は、食事途中の食器類がそのまま投げ出されていた。固くなったパンが床に転がり、茶色く変色したスープには蝿がたかっていた。
アイルは他の家も覗いたが、どこも同じようなものだった。
その時、 川の方角で音が響いた
砲撃を受けてる
船が燃えている
この村、アロンゾはすでに打ち捨てられていた。ルーはすでにブリスコーへ向かっているのだろうか。
彼が再び村の入口までやってきたとき、丘の下からアベル達が走ってきた。
【アベル】「オークがこの村に向かって来てる!」
アベルが叫んだ。
アイルは丘の際まで走り、体を草むらの間に伏せて港を覗き込んだ。
港にはすでに帆船が錨をおろしていた。そして、地面には幾体ものオークが獣にまたがって立っていた。
それはリンバーだった。リンバーとは、鹿の体にヒトの顔面のようなものが張り付いている四足の生物だ。それはその異様な醜形からリンバーは半魔の類だ呼ばれていた。半魔とは、魔物と野生動物の交雑種のことだ。
あれから逃げ切ることは至難の技だ。アイルは皆のところに戻った。
くくっそ、どうする
「アベル!!」声がする
声のした方を見る
ジェイがいる
こっちに濃い
穴蔵へ
ここでゲリラ戦やってるんdな
なるほど
叩くぞ
【アイル】「船はどうした?」
【テオ】「船は川の中に沈めておいたわ」
【アイル】「よし、みんな村の奥へいこう。坑道へ逃げ込む」
アイルたちはアロンゾの表通りをひたすらに走った。途中で道を曲がると、今度は建物と城壁の間の隘路を通った。日の影に入る暗い路地裏は、大雨の直後にも関わらすどこか埃の匂いがした。アイル達はその道を素早く通り抜けた。
やがて彼らは鉱山の崖際まで来た。彼らは階段を上がり、左手にある坑道に向かった。
【アイル】「この穴だ」
アイルは言った。その坑道は、入り口が濁った水で水没していた。
【アイル】「奥に坑道の天井があるのが見えるか?あの穴の奥は上り坂になっていて、進むと空間がある。あそこに隠れるぞ」
【アリア】「水に潜るの?食べ物だめになっちゃうけど……」
【テオ】「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
【アイル】「俺が先に行く」
アイルは言った。彼は水の中に入り、坑道の縁まで立ち泳ぎで進むと、息を大きく吸い灰色に濁った水中へ体を沈めた。
アイルは平泳ぎで水を掻いた。指先がザラザラとした横穴の壁面にあたった。彼は地面を蹴ったが、足元は苔のようなヌメヌメとした物体で覆われ滑って踏ん張りが効かなかった。そうしてゆっくりと進んだあと、足はようやく上り坂の斜面を捕らえた。彼はそのまま進み、やがて水面に顔を出した。
穴の先の空間は暗く、壁面からは僅かな陽の光が差していた。おそらく隣の横穴と繋がっているのだろう。光は、暗黒に包まれた坑道の輪郭をわずかに照らしていた。
彼は自ら上がった。その時、アイルは眼の前に何かが立っていることに気づいた。それは刃を向け、その切っ先をアイルの鼻面に突きつけていた。
アイルは身動きが取れず固まっていた。そのとき眼前の輪郭がわずかに揺らぎm言葉を発した。
【男の声】「アイルか?」
その影は言った。アイルはその声に聞き覚えがあった。
【アイル】「ジェイか?」
アイルはそう言った。
ジェイは剣を鞘に入れ、後ろに下がった。光がドワーフの横顔を照らし出した。
それはドワーフの若き戦士ジェイであった。
ーー
アイルの目がようやく暗がりになれた頃、残りの仲間たち全員が水の中をくぐり終えた。みな先客の存在に驚いていた。
ジェイの他に、坑道の奥に一人の子供のドワーフが隠れていた。彼女はくせ毛の茶髪を結った寸胴体型の子供だった。彼女は大きな水色の瞳にそばかすだらけの肌をしていた。
【アイル】「その子は?」
【ジェイ】「この子はハンだ。この子の親は最近寝たきりになってな。母さんを置いて逃げれないっていうもんだから、説得するのに時間がかかってな。それで逃げ遅れた……」
ジェイはそう言い口をつぐんだ。おそらく彼女の親は、村のどこかに取り残されているのだろう。みな事情を悟り何も聞かなかった。しばらく沈黙が流れた。
【アリア】「食べ物、駄目になっちゃった」
アリアが言った。彼女は皮袋の口を開けると、ふやけて湿った干し肉を取り出した。
【ジェイ】「まあ別に食えなくもないだろう。大雨のあとの新しい水だから、濁っちゃいるがそこまで汚くはないはずだ」
アイル達は他の荷袋も開けた。小麦の袋は水に浸かり泥状になり、このまま放置するとすぐに腐敗を始めそうだった。彼らは部屋の一番乾燥した場所を見つけ、小麦を床に薄く引き伸ばし乾燥させようと試みた。
干し肉はいま全て食べてしまうことになった。乾燥きのこは火がなければ調理できないため、これも床に並べて干すことにした。
【アイル】「全員よく服を絞って乾かしておいて。服が濡れた状態で寝ると、一気に体力奪われるからな」アイルが言った。
アイルは干し肉を噛みながら濡れた服を脱ぎ、両手で絞った。下着以外は裸になり、絞った衣服を床に広げた。
女子もみな服を脱いだ。ネネは上着を広げながら男子の方をを観察していた。
【ネネ】「こっち見ないでね」
ネネは言った。男たちはのらりくらりと体をそむけた。
アイルはふとある事に気づき、振り向いて尋ねた。
【アイル】「アマンダ、銃は濡らしちゃったか?」
アマンダは服を脱ぎ半裸だった。サラシを取り小ぶりのツンとした乳房が暗がりの中で顕になっていた。
【アマンダ】「きゃっ」
アマンダは小さく叫び、急いで胸を隠し一瞬で半泣きになった。
テオが舌打ちをして湿気ったきのこを投げつけてきた。アイルはあわてて顔を背けた。
アイルは今見たものを反芻した。彼女の背中には黒い文様のような痣があった。それは一見すると魔法陣のようでもあった。
【ネネ】「アマンダちゃん、この背中の模様はなんなの?」ネネが聞いた。
【アマンダ】「私にもわからないの。5歳ぐらいのとき、鏡を見たらいきなりこの痣がついていて……」
【アリア】「なんか魔法陣みたいに見えるね」アリアが言った
【シリカ】「あまり詮索しないでいただけますか?王女のお体のことですから」シリカが言った。「この痣のことも内密にお願いします」
【アリア】「ほーい」アリアが言った。
【ネネ】「シリカちゃん厳しい~」ネネがふざけた声でいった。
【シリカ】「ちゃんってなんですかちゃんって。王女に向かってちゃんとはなにごとですか。不敬ですよ。そもそも女性同士であっても王族の裸なんてジロジロ見るものではありませんよ。そもそも……」
女たちがわちゃわちゃ騒ぎ出したので、アイルはジェイに話しかけた。
【アイル】「ジェイ、この村はいつ襲われたんだ」あいつが聞いた。
【ジェイ】「村は三日前に襲撃された。その一日前にブリスコーから連絡が来て、女子供は避難させられた。男たちは村を守るために残って、負けた。今は森の中で遊撃戦だ。」
【アイル】「じゃあ森の中に生き残りはいるんだな?」アイルが言った。
【ジェイ】「ここの下流のな。ルナン川との合流場所で戦ってる」
【アイル】「ルナンか。ルナンだとここから十マイルぐらいかな。歩きでもすぐに行けるが……」
【ジェイ】「ルナンの手前にでかい中洲があるだろ。なんか昔のボロボロになった遺跡がある場所だ。あそこが重要拠点だとかで戦闘があったらしい。だから南部連隊はあそこに防衛戦を敷いてるんじゃないか」
十マイルならば森の中を歩いても一日でたどり着ける。アイルが計算していると、ルイが言った。
【ルイ】「四日前にルーってやつがここに来たはずだが、知らないか?」
【ジェイ】「悪ぃ。知らん」
【アイル】「まあスホルトからは丸二日船で漕げば一日でここまで来れるし、多分助かってるんじゃないか」
そのとき、壁の外から足音が聞こえた。壁の隙間から差し込む光が、魔物の影に遮られ明滅を繰り返した。皆息を止めて固まっていた。
足音はしばらく坑道の中に響いていたが、やがてどこか遠くへ離れていった。
【アイル】「とりあえず一旦休もう。夜になったら外を見に行く」
ーー
かなりの時間が立ち、アイルは眠りから覚めた。部屋の中はほんのりと明るかった。アイルが見ると、火の付いたろうそくが排水溝の床に置かれていた。
【アイル】「おい、光が漏れるんじゃ……」アイルが小声でいった。しかし、テオが壁の方を指さした。壁の隙間は土くれで塞がれていた。
【テオ】「もう夜になったわ」テオが言った。
【アイル】「わかった」アイルは答えた。
アイルはズボンだけ履き、再び水の中にゆっくりと入っていった。頭を水中に漬けると、ろうそくのか弱い炎は濁った水に遮られ、視界は再び暗黒に包まれた。手で坑道の壁面を探りながら進み、やがて手が何もない空間を掻くと、なるべく水音を立てないようゆっくりと水面に浮かび上がった。アイルは水面から顔を出し、周囲を観察した。あたりに生き物の気配はなかった。アイルはゆっくりと水から上がった。
アイルは道の反対側の林の中に入った。そして木々の影から村の様子を観察した。アロンゾのいくつかの家には明かりがついていた。彼が村の入口を見ると、門のそばに荷袋を積み込んだ荷車が五台も置かれていた。
やつらはここを拠点にするつもりなのだろうか。アイルはさらに村の方へ踏み出した。
村の奥に近づくと、猟犬の吠声が遠くで響いていた。リードか何かに繋がれているのだろうか、金具のガチャガチャと鳴る音が小さな音が聞こえた。明かりの付いた家からオークが一匹ぬっと出てきた。そしてまだ肉のこびりついた骨を犬に向かって放り投げた。
犬は肉の周りに集まり尻尾を振ってむしゃぶりついていた。
アイルは坑道に戻った。
ーー
【アイル】「猟犬が何匹かいた。やつらはリンバーに乗ってるし、陸路での脱出は難しいかもしれない。ジェイ、この坑道の奥はどうなってるんだ?」
【ジェイ】「別の坑道に繋がってるよ」
【アイル】「それは、外に繋がってるのか?」
【ジェイ】「ああ繋がってるぜ」
【アイル】「一度奥を見ておきたい。案内してくれ」
ジェイは立ち上がった。そして坑道の奥を先導した。
坑道の奥は細かいレンガ積みの壁面で覆われていた。幅三フィートほどの狭い上り坂の道を進むと、道はさらに何度か曲がった。そして坑道は、別の出口に続いていた。
アイル達は出口から外を覗き込んだ。そこは崖の中腹に空いた穴の一つだった。
夜の空はすっかりと晴れ渡り、空にはきれいな月がのぼっていた。月の光に照らされた白い雲が、ゆっくりと空を流れていた。
アイルはそこからアロンゾの様子を観察した。先程よりも多くの家に明かりがつき、大通りの中央では大きなキャンプファイヤーが焚かれていた。
どうもやつらはお祭り気分らしい。
【アイル】「やつらはすぐ勝った気になって馬鹿騒ぎするな」
【ジェイ】「どうする?」
【アイル】「陸路を選択できない以上、船を使うしかない。しかし船は川に沈めてるんだろう。見つからずに脱出できるか……いや危険だな。もしやつらがここに拠点を作るつもりなら、とどまっても状況は悪くなるだけだろう。しかし一時的に停留しているだけなら、やつらが去った後に脱出したほうがいい」
【ジェイ】「なるほど」
【アイル】「一日様子を見たい。戻ろう」アイルは言い、坑道の奥に戻った。