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第七話 幼き彼女のように

■レオ視点■


「ああもう、俺は何を言っているんだ!?」


 自宅へと帰る途中の馬車の中、俺は大きな声を上げながら、頭を抱えていた。


 昨日に続いて、今日も本当に失敗の連続だった。突然のことだったとはいえ、アメリアの前であんなに取り乱してしまったし、咄嗟に友達とか言ってしまった。


 別に友達になりたくないわけじゃない。でも……俺はアメリアとは、別の関係になりたかった。


 それなのに、俺は……ああもう、俺の馬鹿野郎!!


「はぁ……いつかそうなればとは思っていたけど、いざ本当になると……案外難しいものだな」


 アメリア……あの時の思い出を、約束を覚えているのだろうか。あの栞を大切にしているし、覚えていてくれてると己惚れても良いかもしれないな。


「レオ坊ちゃま、到着いたしました」

「ああ、ありがとう」


 御者に促されて馬車を降りると、俺が住んでいるフィリス家の屋敷と、出迎えをしてくれた使用人達が目に入った。


「おかえりなさいませ、レオ坊ちゃま。お荷物をお持ち致します」

「いや、大丈夫だよ。ありがとう」


 若い女性の使用人の申し出をやんわりと断ると、俺は自室を目指して歩きだす。


 その途中で、床を掃除している女性の使用人を見つけた。どうやら壁にこびりついた汚れを落とすのに、四苦八苦しているようだった。


「困ったわ……全然落ちない……」

「取れないのかい?」

「ひゃあ!? ぼ、坊ちゃま!? おかえりなさいませ! 申し訳ございません、掃除に夢中になってしまって……!」

「気にしてないから頭をあげてほしいな。それと、その雑巾を俺に」

「え?」


 キョトンとする彼女から雑巾を受け取り、壁を力強くこする。うん、確かにこれは頑固な汚れだ。かなり力を入れてるのに、全然落ちない。


「坊ちゃま、私がやりますので!」

「いつもみんなには色々してもらってるのだから、これくらいはさせてほしいな」


 一度駄目なら二度三度と、何度もこすり続けていたら、ようやく汚れが跡形もなく消えた。一体何が付いてしまったのだろうか?


「凄い、完璧に綺麗になりました……」

「それならよかったよ。おや、あれは……」


 額に流れる汗を拭っていると、今度は窓から見える外に、沢山の洗濯物を取り込んでいる男性の使用人の姿が見えた。


 一人分ならまだしも、この屋敷には使用人を含めると、沢山の人間が生活している。そうなると、当然洗濯物も多く……一人で取り込んでいたら、かなり時間がかかりそうだ。


「今日も洗濯物が多いね」

「レオ坊ちゃま! おかえりなさいませ。ええ、今日も多くの洗濯物がございます」

「それじゃあ俺は右から取り込むから、左から取り込んでくれるかな?」

「いいのですか? いつも申し訳ございません」

「いやいや、気にしないでくれ」


 俺は言った通り、右から順番に洗濯物を取り込み始める。


 先程彼が言っていたように、俺は見かけたら洗濯物を取り込む手伝いをしている。それだけじゃなく、掃除だったり料理だったり……とにかく手伝えるものは、極力手伝うようにしているんだ。


 どうして侯爵家の子供である俺が、わざわざ雑務に手を貸すのか、なんて聞く人は社交界には多い。


 確かにそんな雑務をする貴族なんて、俺は聞いたことがない。でも、俺は率先して行うようにしている。その方が、日頃から感謝を伝えられるだろう?


「ありがとうございました、坊ちゃま」

「どういたしまして。それじゃあ俺は部屋に戻るよ」

「かしこまりました。そうそう、もうすぐ夕食の準備ができるそうです」

「わかった。呼ばれたらすぐに行けるようにしておくよ」


 彼とその場で別れた俺は、何事もなく自室へと帰ってきた。


 俺がいない間に綺麗に掃除してくれたのか、部屋の中には埃一つ無いし、物もきちんと整頓されている。


 うちの使用人達は、本当に働き者だ。だからというわけではないけど、彼らが困っていたら助けたいと思ってしまう。勿論、他の人が困ってたら、手を差し伸べるだろう。


 俺がこんなに人を助ける理由。それは、俺を助けてくれて、俺の生きる希望となってくれた人のようになりたいと思い、努力した結果だ。


 その人こそ……幼い頃のアメリアなんだ。


 俺とアメリアは、幼い頃にとある約束をした。その約束と俺達を繋ぐ証として、あのクローバーを分け合ったんだ。


「まさか本当に会えるとは思ってなかったな……明日もアメリアに会えるなんて、本当に幸せだ」


 ベッドに仰向けに寝転がりながら、ここ数日の幸せを噛み締める。


 アメリアは、今頃何をしているのだろうか。家で勉強をしているのか、家族と話しているのか……俺には知る術はない。


 ああ、早く会いたい。もっとアメリアと話をしたい。でも……アメリアはあの時と違い、とても大人しい性格になっていた。会話自体も、あまり好きそうではなかった。


 だからといって、せっかくこんな最高の機会があったというのに、話もしないなんて……うーん……。


 そもそも俺のことを、アメリアに話すべきなのだろうか。俺としては、彼女に思い出してもらって、俺の正体に気づいてもらいたいんだけど……さっさと話した方が良いように気もするし……難しいな。


「とりあえずは……このままでいいか。変に話して険悪になったら嫌だし……」


 ……そうだ! アメリアは魔法薬学の勉強をしていたから、それに関するプレゼントをしよう! そこから話が盛り上がるかもしれないし、アメリアの勉強の手助けも出来るし、話していたら俺に気づいてくれるかもしれないし、良いことづくめじゃないか!


 そうと決まれば話は早い。俺の長年貯めていた貯金を使って、魔法薬学の本を沢山買いにいかなければ!


 とはいっても、俺は魔法薬学の本どころか、そもそも本自体をあまり好んで読んでこなかったから、どういう本が役に立つかとか、どこに行けば確実に売っているかとか、そういうのが全くわからない。


「困ったな……そうだ、確かよく読書をしている使用人がいたから、聞けばなにかわかるかもしれない!」


 この時間なら、夕食の準備の手伝いをしているはずだ。おそらく食堂か厨房に行けばいるはず! よし、さっそく聞きに行ってみよう!


 ……あ、もちろん仕事で忙しそうだったら、後で話すよ?

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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