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エピローグ

 レオ様がシャーロット達と起こした一件から月日が経った。私はアドミラル学園を卒業した後、魔法薬師の免許を無事に取得した。その後、町の外れに小さな薬屋さんを開き、そこで仕事をしていた。


 どうして薬屋さんなんて開いたのかだけど、私の魔法薬で、大切な人だけではなくて、もっとたくさんの人たちを助けたいと思ったからだ。


 その気持ちをローガン様とレイカ様……ううん、お義父様とお義母様に相談したら、快く援助をしてくれて、こうして開店することができたの。


 売り上げは……そんなにあるわけじゃないけど、毎日薬を作って生活するのは、とても充実していて、幸せだ。


「アメリアお姉ちゃん、今日もお薬ありがとう!」

「気にしないで。お姉さん、早く元気になるといいわね」

「うんっ! バイバーイ!」


 私のお店の数少ないお客さんである小さな女の子は、大きく手を振って去っていった。


 あの子の姉が、最近あまり調子が良くないみたいなの。それで、仕事で忙しい両親の代わりに、まだ幼い身でありながら、せっせと薬を買いに来ている。


 家族のために頑張ってる姿を見ると、昔の自分と重ねてしまう。あの子はちゃんと家族と幸せになってほしいわ。


「アメリア、今日はそろそろ店じまいをしないと、時間に間に合わないよ」

「そうですね」


 店の奥から聞こえてきた、私の最愛の人の声がした方に行くと、柔らかい笑みに出迎えられた。


 私の最愛の人……レオ様は、私がお店を一人でやるのは大変だろうと言ってくれて、一緒に経営をしてくれている。


 レオ様は魔法薬が作れないから、主にお金周りのことをやってもらっている。このために、わざわざ苦手な勉強をたくさんやってくれたのよ。


 本当に……レオ様達には、感謝してもしきれない。一生かけて恩返しをしても、絶対に返しきれないと断言しても良いくらいだ。


 ちなみに、レオ様のケガはちゃんと完治しているから、無理をしているとかは無いわ。


「今日は一日休みでも良かったのに」

「ダメですよ。ああやって来てくれるお客様もいるんですから、午前だけでも開けておかなくちゃ」

「ふふっ、そういう真面目な所も好きだよ」

「もう……からかわないでください」

「俺の本心だよ。それじゃあ屋敷に帰ろう。主役の俺らが待たせたら、申し訳ないしね」


 レオ様の言葉に頷いた私は、手早く店じまいを済ませると、二人で一緒に、店の裏に来てくれた馬車に乗り込んで帰宅した。


 すっかり慣れたフィリス家の屋敷では、多くの使用人達が、いつも以上に忙しなく働いていた。


「あ、おかえりなさいませ! 準備は滞りなく進んでおります! お二人のご準備をしなくてはなりませんので、すぐに控室にお願いします!」

「うん、わかったよ。それじゃあアメリア、会場に行こうか」

「はい」


 私は屋敷の玄関前でレオ様と一緒に、屋敷の敷地内にあるダンスホールの控え室へと向かった。


 この後に行われるのは、私とレオ様の結婚を記念したパーティーだ。本当は卒業したら、すぐにパーティーをするつもりだったのだけど、私のお店のことや、招待する人達の都合が中々合わず、いつの間にか卒業から一年も経ってしまった。


「お待ちしておりました。ではまずはお召し替えをさせていただきます」

「わかりました」


 今日のパーティーのために来てくれたスタッフの方の手伝いの元、真っ白なドレスに着替えさせてもらった。


 一応名目上では、結婚を祝したパーティーということになっているけど、私達の中では結婚式のようなものだから、ウェディングドレスのようなドレスを選んだの。


 ちなみに、レオ様が言うには、結婚式を開く程、私達には知り合いがいないし、大掛かりにやると他の貴族とかも呼ばないといけないから、それなら知っている人だけでパーティーをした方が良いとのことだ。


 普通なら、侯爵家ともあろう者達が、式を開かないのはどうなんだと思われるかもしれないけど、レオ様はほとんど社交界に出てないから、付き合いがある人がいないというのと、お義父様が家の体裁よりも、私達のことを考えてくれた結果だ。


「大変美しゅうございます」

「ありがとうございます。招待した方々は揃いましたか?」

「はい。旦那様も間もなく準備が終えて、こちらにお迎えに来てくださります」

「わかりました」


 レオ様がここに来るということなので、それまでの時間潰しに、座って窓の外を眺め始める。


 今日は雲一つない青空だ。鳥達が楽しそうに飛び回り、草木が静かに揺れている様は、まさに平和そのものだった。


「旦那様がお見えになられました」

「はい、どうぞ」

「お待たせ、アメリ――」


 部屋の中に入ってきたのは、タキシード姿に身を包んだレオ様だった。いつもと髪型も服装も違うから、印象が全然違う。なんていうか……いつも以上にカッコイイ。


 そんなことを思っていると、レオ様は突然涙を滝のように流しながら、私の手を掴んだ。


「なんて……なんて美しいんだ! いつの間に女神になったんだ!? あぁ、こんな美しい人が俺の妻になるなんて、これは夢か!? きっと夢に違いない!」

「夢じゃありませんから、落ち付いてください。もう……レオ様は昔から変わりませんね」


 アドミラル学園を卒業してそれなりに経つというのに、全く変わらないレオ様の姿に、思わず笑みが零れてしまった。


 おっと、このままここで話してても仕方がないわね。会場には、既に今日のために来てくれた人達が揃っているんだから、早く行かなくちゃ。


「ぐすっ……い、いごうが」

「行く前に、鼻をかんでください」

「そ、そうだね……」


 なんとも締まらないレオ様を連れて、私は会場に向かうと、そこには綺麗な装飾品が散りばめられた会場に出迎えられた。沢山の料理もズラッと並べられていて、しっかり準備がされているのが伺える。


「来たな、二人共」

「お待ちしておりましたわよ~!」

「父上、母上!」

「お待たせしました」


 今日もいつも通りな様子のお義父様とお義母様に、深々とお辞儀をする。


 あの日から、二人は特に変わりなく生活している。とは言っても、卒業後にちょうど仕事が忙しくなってしまい、中々日程を合わせられなかったの。


「大切な子供達の門出なのだから、当然だろう。むしろ、私達の仕事の都合がつかなくてすまなかった」

「いえ、そんな」

「あっ……んまぁ~! 二人共、とっても綺麗じゃないのぉ!」


 お義父様とお義母様と話していると、見覚えのある男性? が元気よく話しかけてきた。その人は、私達が以前伺わせてもらった、湖の畔にあるカフェのマスターである、マオカ様……じゃなかった、マオカちゃんだ。


 あの時はウェイトレスの格好をしていたマオカちゃんだが、今日は燕尾服に身を包んでいる。


 ……やっぱり男性で合っているのかしら? まあどちらでもいいわね。どっちであろうとも、マオカちゃんには変わりないもの。


「あらあら、マオカちゃん! お久しぶりですこと! いつもの可愛い服も似合ってるけど、カッコいい服もお似合いよ! お店の方は順調かしら?」

「や~だ~奥様ったらぁん! 奥様こそ、とってもお似合いよぉ! 店はまあ……ぼちぼちってところよん!」


 お義母様とマオカちゃんは、まるで友達のように、とても楽しそうに話していた。楽しそうな二人を見ていると、私も一緒に楽しくなってくるわ。


「私達の息子と娘が、こうして結婚して幸せになるのは、何とも感慨深いものがあるな」

「ふふっ……あなたの言う通りですわ。子供の成長って嬉しいけど、ちょっぴり寂しいです」

「もう、旦那様も奥様もぉ……おめでたい席なのに、しんみりしてどうするのよぉ~」


 涙目になっている二人に口を挟むマオカちゃんも、少しだけ涙目になっているのを、私は見逃さなかった。


 そんなに喜んでもらえると……こっちまで目頭が熱くなってしまう。泣いちゃったら、せっかくのお化粧が崩れてしまうから、なんとか耐えなきゃ……。


「おや皆様、お揃いで」

「レオ殿、アメリア殿、今日はお招きいただき、誠に感謝しております」

「セシル殿に、ルーク殿! 今日は俺達のために来てくれて、ありがとうございます!」


 みんなで仲良く話していると、その輪にセシル殿とルーク先生が加わった。


 二人はこの一年で、結構環境が変わったそうよ。セシル様は婚約破棄をした後、勝手に婚約破棄をしたことを、ご両親に大変叱られてしまったらしく、その償いとして、各国に飛び回って家の仕事の手伝いをしている。だから、なんとか日程を合わせられた時は、嬉しかったわ。


 ルーク先生は、最近魔法薬を研究する、個人研究所を建てたそうなの。そこで、家庭教師の仕事をしながら、魔法薬の研究をしているそうよ。


「ふっ……本当なら私の妻だったはずの女性の結婚式に来るなんて、なんとも珍しい体験だ」

「あげませんからね?」

「私では、あまりにも不釣り合いすぎるよ」

「そうだアメリア殿、店の方はどうかな?」

「はい、ルーク先生のお知り合いの方が、良い薬草を仕入れてくれるので、なんとかなってます!」


 実は、ルーク先生やセシル様は、彼ら独自の繋がりを使って、お店が開店した後のサポートをしてくれているの。そこに両親の助けもあって、何とか経営出来てるのよ。


「そうだ、ルーク先生。シャフト先生は? もしかして……」

「来てますよ。実験するって聞かなくて、無理やり引っ張りだしましたが。さっきバルコニーに行きましたよ」

「せっかく恩師が来ているんだ。行ってあげなさい」

「いいんですか、父上?」

「うむ」

「こっちはこっちで楽しくおしゃべりしてるから大丈夫ですわ! でも、パーティーが始まる時間までには戻ってきてね」


 私とレオ様は、お義母様に背中を押されてバルコニーに行くと、シャフト先生が静かに葉巻を吸っていた。


 いつもは髪がボサボサで無精髭も多く、服もシワだらけの白衣を着ているシャフト先生だけど、今日は髪がセットされて無精髭は無いし、服も燕尾服を着ていた。


 いつもとのギャップが凄くて、ちょっと戸惑ってしまいそうだ。


「あ? なんだお前らか。こんな日まで、ワシの邪魔をするのか?」

「シャフト先生は相変わらずですね。ルーク先生からここにいると聞いたので、ご挨拶に来ました」

「そいつはご苦労なこった」


 投げやりに言いながら、シャフト先生は眠たそうな目で、私の顔をジッと見つめる。


「アメリア、良い顔するようになったじゃねえか。本当に、ワシの知ってるアメリアか?」

「シャフト先生を含め、沢山の優しい方に救われたからですよ」

「それは違うな。お前が折れずに努力をし続けた結果だ」

「シャフト先生……」

「だからこれからは、自分なんてとか思わずに、胸を張って生きればいい」

「はいっ」


 シャフト先生は、深いシワが刻まれた手で、私の頭を乱暴に撫でた。


 ちょっとだけ痛いし、せっかくセットしてもらった髪が少し崩れてしまったけど、そんなのはどうでもいいくらい、凄く嬉しかった。


「そうだ、言っておくが……夫婦喧嘩とかしても、ワシの新しい研究所に来るなよ? ワシは研究で忙しいからな」

「わかりました。月一くらいで遊びに行きますね」

「人の話を聞いてたか?」

「冗談ですよ、ふふっ」

「ちっ……しゃーねえ、今日くらいは許してやるか」


 やれやれと溜息を吐きながら、二本目の葉巻に火をつける。


 実はシャフト先生は、あの一件で学園側から色々と追及されてしまい、教師をやめさせられてしまったの。


 でも、ルーク先生が魔法薬の研究所を使った際に、シャフト先生を呼び寄せたの。おかげで、二人は毎日魔法薬のことで喧嘩していると、少し前に貰った手紙に書いてあったわ。


「ふむ……青二才も、それなりには見られるようになったな」

「ありがとうございます。俺は、シャフト先生の言っていた止まり木になれました」

「けっ、偉そうに。まあ及第点はやってもいいか。だが……そこで甘えるなよ。止まり木で満足せずに、今度は一生安心して生活できる大木になれ」

「はい、もちろんです」


 シャフト先生の言葉に深く頷きながら、レオ様は私の肩を抱く。それに応えるように、私は体を彼に預けた。


 止まり木……か。確かにレオ様と一緒にいると、とても安心できたから、その表現はとても的を射ている。そして、これからは大木か……。


 その大木に身を任せて巣を作るのは、とても簡単だろう。でも……私は大木を支える根のような存在になって、レオ様と二人三脚で頑張りたいわ。


「なんにせよ、結婚おめでとさん。ちったぁ立派になって、ワシも少し肩の荷が下りたわ。お幸せにな、アメリア、レオ」

「ありがとうございます、シャフト先生」

「ありがとうござい――え、今初めて俺の名前を!?」

「あ? なんだ、こんな日に耳でも悪くしたか青二才」

「戻ってる!? ちょ、もう一回言ってくださいよ!」

「だー! 相変わらずうっせぇな! お前なんか、一生青二才だ!」

「ふふっ……あはははっ! もう、二人ともおかしい……!」


 二人で大騒ぎをしている姿が面白くて、私はお腹を抱えて笑っていると、今日のパーティーを仕切ってくれる男性が、私達の元へとやってきた。


「お話中に申し訳ございません。そろそろ開始の時刻です。初めに新郎新婦からご挨拶をしていただくので、ご準備を」

「わかりました。レオ様、行きますよ」

「あ、ああ。シャフト先生、後で必ず呼んでもらいますからね」

「うるせー、二度と来んな」


 最初から最後まで変わらない姿に安心感を覚えながら、私とレオ様は会場の小さな舞台に上がった。


「ご歓談中に失礼致します。これより、新郎レオ・フィリス様と、新婦アメリア・スフォルツィ様のご結婚を祝したパーティーを始めます。本日はワタクシが司会を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。では初めに、新郎新婦からのご挨拶からお願いいたします」


 司会の方に話を振られた私達は、互いに顔を見合わせながら頷くと、私が一歩だけ前に出た。


「皆様、本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。色々と皆様にお伝えしたいことがありますが……まず最初に、報告をさせてください」


 新婦からの挨拶。それはずっと前から色々考えて、沢山の感謝を述べようと準備をしていた。


 私をずっと支えてくれたり、助けてくれたり、励ましてくれたり……人によって支えてくれた方法に違いはあるけど、みんな私にとって大切な人達だ。


 そんな人達に、まず私から伝えたいことは……最初から決まっていた。


「私は今……皆様のおかげで、とっても幸せです!!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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