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第五十二話 天才

「……あれ……?」


 強い疲労感で体が重くなっているのを感じながら、私はゆっくりと目を開けると、そこは私が使っている部屋だった。


 どうして私、ここにいるの? さっきまで保健室にいたはずなのに……誰かが家にまで送ってくれた? それにしても、体が重いわ……もしかして、いつの間に激太りしちゃったのかしら!?


「やっと目を覚ましましたね」

「え、ルーク先生?」

「はい。おはようございます」

「おはようございます……」


 どうしれルーク先生が、私の部屋に来ているのだろう。それよりも、あの時から何日が経ったんだろう? レオ様の容体は?


「私、どうしてここに?」

「聞いた話ですが、治療の後に倒れてしまったから、ここに運ばれてきたと聞いています」

「そうなんですね。あれから何日くらい経ったでしょうか?」

「一週間ですね」


 一週間も!? さすがにそれは寝すぎだわ! 早く起きて学園に行かないとだし、レオ様のことも……!


「アメリア殿、外は真っ暗ですから、学園はお気になさらず」

「え? 本当だ……もうちゃんと見なさいよ私」


 呆れながら立ち上がろうとしたけど、まだ体に全然力が入らない。これは治るまで、それなりに時間がかかりそうだ。


「ところで、レオ様は?」

「何度か診ましたが、とても順調です。このまま進めば、完治するでしょう」

「会いに行けますか?」

「もちろん。彼は先に目を覚ましておりまして、アメリア殿のことを心配してました」

「じゃあ、早く行かなきゃですね!」


 何とか立ち上がろうと思ったけど、体に力が入らない。なので、ルーク先生の手を借りて、車椅子に乗せてもらった。


 その後、ルーク先生に車椅子を押してもらって、無事にレオ様の所に到着に出来た。


「失礼します、アメリアです」

「アメリア!? どうぞ」


 中から大きな声が聞こえてくるが、気にせずレオ様の部屋の扉を開けると、ベッドで寝ていたレオ様が嬉しそうに手を振っていた。


「よかった、目を覚ましたんだね! 俺より遅いから、もう目覚めないんじゃないかと思って、不安で夜も八時間しか寝られなくてね」

「それは快眠だと思いますよ?」

「ははっ、冗談に決まってるだろう?」


 あんなことがあったあとなのに、レオ様はいつも通りとしか言いようがない。本当に強い方だ。


 レオ様のことだから、本当は傷が痛いのに、心配かけないように隠しているような気もするわ。


「って……それよりもレオ様、ケガの具合は?」

「まだ痛むけど、とりあえず大丈夫だよ」

「なら良かったです。もうあんな無茶なことをしないでください」

「ああ、ごめんよ」


 よかった、あれからずっと様子を見に来れなかったから、ここに来るまでずっとドキドキしちゃってたけど、杞憂に終わってくれた。


「それでレオ様、どうしてあんなことをしていたんですか? 私、何も聞いていないんですけど……」

「……俺は、君を虐めてた連中も、それを見てみぬふりをしていた学園も、許せなかった。だから……」


 レオ様の簡単な説明だけで、なんとなく察せた。最近ずっと一緒にいられなかったのも、今回の一件の準備をしていたのね。


 レオ様は確かに褒められたことをしたわけじゃないけど、根底にあるのは私への気持ちなんだ。


 そうとわかってて……これ以上私に何か言う資格はない。


「もう言わなくて大丈夫です。レオ様の気持ちはわかりましたので」

「怒らないのかい?」

「怒る理由がありませんから。心配はしましたけど」

「……ありがとう、アメリア」


 どうしてレオ様がお礼を言うのだろう。本当なら、お礼を言うのは私の方なのに。


 いや、それは少し違うか。お礼だけじゃなくて……迷惑をかけた謝罪もしないといけない。


「そうだ、アメリアは大丈夫?」

「魔力の使い過ぎなだけなので、休めば何とか」

「ならよかった。ルーク殿、俺と彼女を診てくれて、ありがとうございます」

「礼には及びません。私は家庭教師ですが、医者でもありますので」

「えっ……ルーク先生ってお医者様だったんですね」

「はい。主に魔法薬学を専攻していますが、医療に関しては一通り。なので、空いてる時間にこうして診察に――む?」


 ルーク先生のことにちょっとだけ驚いていると、部屋の中にシャフト先生が入ってきた。


 シャフト先生があの研究室から出てくるなんて、珍しいこともあるのね……どうしたのだろうか?


「なっ……ど、どうしてあなたがここに……!?」


 あれ……? ルーク先生って、シャフト先生を知っている? それに、どうしてそんなに驚いているの?


「ほう、珍しい客がいるもんだな。とりあえず……やっと起きたか、アメリア。大層な寝坊だな」

「ごめんなさい」

「あれだけやったんだから、仕方がねえさ。さて、丁度暇だったから、最近の情報を届けに来てやった。お前ら、最近学園に来れてないだろ?」


 そう言うと、シャフト先生が例の光の虫を顕現させて、私達に映像を見せてもらった。


 シャフト先生もその魔法をマスターして、それで情報を集めていたのね……驚きだけど、今は集中しよう。


「これは……」


 魔方陣に映されたのは、多くの報道陣が学園に来て取材をしていた。中では取材のことや、優等生二人が問題を起こした話題で持ちきりのようだ。


 特に、フローラは完全に居場所を無くしたみたいで、椅子に座って縮こまっている。そこに追い打ちをかけるように、周りの生徒に暴言を吐かれていた。


「うちのクラスは、随分と荒れているのですね」

「そうだな。あとはここか」


 次に移ったのは、廃墟となった屋敷の映像だった。


 えっと、これってまさか……スフォルツィ家の屋敷よね? 一体何がどうなってこんな姿に……!?


「今回の一件で、シャーロットは殺人未遂で自警団に捕まり、裁きを受けることになった。それを知ったお偉いさんに、スフォルツィ家の爵位を下げるって言われたみたいでな。ほれ、これは捕まる前だ。見てな」


 シャフト先生に促されて記録に集中し始める。どうやら屋敷の一室で、シャーロットとお母様が言い争いをしているようだ。


『全部お前らが悪いのよ! ちゃんと私の操り人形になればいいものの!』

『ふざけんな! こんな金と権力しかない家に生まれたのが間違いだったわ! どうせこのまま捕まって……最悪殺されるくらいな、こんなクソッタレな家、ぶっ壊してやる!!!』

『上等だわ! お前のような疫病神なんて、この手で葬ってくれる!!』


 私が見せてくれた映像は、ここで止まっていた。多分、二人が魔法を使った大げんかをして、屋敷も土地もボロボロに……なんて酷いことを……。


「わざわざこんな記録を取るの、大変だったんだぞ」

「……シャフト先生、お母様達はどうなったんです?」

「自らの魔法で屋敷の崩壊に巻き込まれて……消息不明だそうだ」

「そうですか」

「なんだ、嬉しくないのか?」

「どんな人でも、生きてた人がいなくなるのは、寂しいですから」

「もう話は宜しいでしょうか?」


 今まで静観していたルーク先生は、突然手を上げながら発言した。その表情は、どこか重苦しく見えた。


「今回の件、セシル殿から顛末を聞いています。アメリア殿に薬を作らせて、ギリギリのところで完成したと。そうですね?」

「は、はい」

「それは素晴らしい。まるでの物語のような奇跡です。しかし、もし失敗していたら、どう責任を取るつもりだったんだ……兄貴」


 眉間にシワを寄せるルーク先生の視線の先では、シャフト先生が呑気に葉巻を楽しんでいた。


 この二人って、兄弟だったの!? そういえば、どこか雰囲気が似ているような……?


「まさかこんな再会になるとはな。言っておくが、ワシがこいつなら出来ると判断したからやらせた。あくまでワシの助手としてな。問題あるか?」

「規則としては問題ありません。ですが、まだ無免許の……見習いにもなってない少女には荷が重すぎたのでは?」

「んだよ、この前も似たようなことを言ってる奴もいたが……お前はこいつの何を知っている」

「私は家庭教師。彼女の学力は知っております」

「三十点の回答だな。こいつの学力を見て、どう思う?」


 話を振られたルーク先生は、前に受けたテストの回答用紙を出し、シャフト先生に突きつけた。


「全体的に見て平均点、魔法の実技はボロボロ。ですが、魔法薬学の知識は相当なものです」

「五十五点だな。そんなものでアメリアの本質は見えねえよ」


 吸っていた葉巻を握りつぶしてから、シャフト先生は私の前に歩み寄ってから、ゆっくりと口を開いた。


「こいつはな、努力の天才だ。最初は家族のために頑張った。だが見捨てられた。妹の方が優れていたからだ。そうなったら、猛勉強はしなくていいのに、こいつは勉強を続けた。そのうち、目標まで見つけ、ひたすら勉強した。そこで培った膨大な知識に加えて、魔力こそ最底辺だが、魔法薬師にとって重要な魔力コントロールは、光るものがある。そこに努力の積み重ねがあったからこそ、今回の成功につながった」


 私の両肩に手が置かれたのと同時に、天才という言葉が私の頭を殴りつけてきた。


 私が、天才……? そんなの信じられない。だって私は、ずっと無能として扱われて、虐げられてきたのよ?


「絶対に折れずに勉強し、努力する。それは簡単には真似できない、最強の天才だ」

「私が……天才……? 才能があるの……?」

「アメリア……良かったね」


 ずっと黙って聞いていたレオ様は、とても穏やかな表情を浮かべながら、私の頭を撫でてくれた。それが嬉しくて、私はしばらくの間、涙が止まらなくなってしまった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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