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第四十八話 私の覚悟

 背中に水の槍が突き刺さり、その場でぐったりとするレオ様。一方の私は、目の前でぐったりしているレオ様のことを、見つめることしか出来なかった。


 幸いというべきか、私の所までは槍の矛先が届いてなかったから、何とか無傷で済んだわ。


「レオ様、しっかりしてください! 目を開けて!」

「アメリア……ケガ、は……」

「私なんかどうでもいいですから!」

「それは、聞き捨て……ならないなぁ……」

「喋ってはいけません! すぐに手当てを!」

「こんなの、何日か寝れば……治る、さ……」

「レオ様!!」


 その言葉を最後に、レオ様は操り人形の糸が切れたかのように、その場で動かなくなってしまった。


「ひ、ひひっ……ざまぁみろ!! この天才に逆らうからこうなるのよ!!」

「ひぇぇぇぇ、お助けぇぇぇぇ!!」


 もうどこか壊れてしまったかのようなシャーロットを尻目に、学園長は這いつくばって逃げていってしまった。


 生徒が危険な目に合っているというのに、我先にと逃げる学園長には、やはり教育の才能が無かったのかもしれない。今はそんなことは、心底どうでもいいけど。


「お姉様……いや、無能。お前なんかがいなければ、こんなことにはならなかった! お前さえ……お前さえいなければ! 死んでしま――」

「シャーロット、君は少しやり過ぎた。夢の中で反省しろ」


 目まで完全に逝ってしまったシャーロットの前に立ったセシル様は、魔法陣をシャーロットの顔の前に出す。すると、シャーロットは嘘のように静かになり、深い眠りに落ちた。


 今のは、睡眠魔法なのかしら? あんなに一瞬で寝かすなんて、相当な実力が無いと無理だろう。


「おやすみ。次に会う時は、牢獄の中だろう。さて……アメリア、久しぶりだな。話は色々聞いたが……詳細は彼をどうにかしてからにしよう」

「セシル様……」

「わ、私は知りませんから! もうそんな殺人未遂の女なんて、私の子じゃありません! うぅ、あれがばらまかれたら……もう我が家はおしまいよ……ああ、せっかく手に入れた金と地位が……」

「私も……もう付き合っていられませんわ……お父様とお母様に叱られる……」


 まさに満身創痍となったお母様とフローラは、かなり危ない足取りで会議室を後にした。


 少しでも謝罪する気があるなら、手伝ってくれても良いと思うのは、私がワガママなのかしら……。


「ふん、薄情者め。期待もしていなかったがな。アメリア、どこか手当てが出来る場所は無いだろうか?」

「保健室なら! あと、凄い魔法薬師がいるんです!」

「それは好都合。私が彼を運んでおくから、その薬師を呼んできてほしい。それと、シャーロットのことも私が何とかしておく」

「わかりました!」


 私は、自分の知っている中で最高の魔法薬師の元に行くと、有無も言わさずに手を引っ張って保健室へと連れてきた。


「……ってことがあって」

「んで、ワシが呼ばれたと。まったく実験の邪魔をしおって。それに、連れてくる前に説明をせんか、馬鹿者」

「ごめんなさい、シャフト先生。凄く急いでたので……」

「初めまして。セシル・ランディスと申します」

「ほう、フィリス家の次はランディス家か。豪勢なこった。ワシはシャフトだ」


 シャフト先生は自己紹介をしてから、面倒くさそうに、しかしとても手早くレオ様の傷を診始める。


 傷を診るために、レオ様の上半身の服を脱がせていたのだけど、思わぬものを見てしまった。それは、体中に刻まれた無数の傷跡だった。一言で傷跡と言っても、大きいものから小さいものまで様々だ。


 これは私の予想でしかないけど、子供の頃に一人ぼっちで生き抜くために、死に物狂いで獲物と戦っていたんだと思う。だからこんな傷だらけだし、出会った時には警戒心をむき出しにしてたのね。


「水の槍に貫かれたと聞いていたが、その水に毒魔法も混ぜていたな。体の中に毒が回っている。それに、この毒は中々見ない魔法を使っている」

「二つの魔法を同時に使うなんて……まあシャーロットの才能なら、その程度は出来るでしょうが。それで、その毒は解毒できるんでしょうか?」

「出来なくはないが、ケガの治療と同時だと怪しい。急所は外しているとはいえ、かなり重症なのは違いない。傷の治療と解毒を同時に出来る魔法薬を作らないと」


 二つの薬効があるものを作るなんて、かなり難しい要求だ。基本的に魔法薬の効果は一つに絞られているの。そうしないと、ただでさえ魔力のコントロールが難しい魔法薬生成が、更に難易度が上がってしまうからね。


 でも、シャフト先生のような腕利きの魔法薬師なら、それくらい朝飯前だと思っている。


「応急処置はしたが、このまま放っておけばくたばるってことだな」

「ではシャフト殿、彼の治療はお願いできますか?」

「……ワシは自分の研究で忙しい。自分達で起こしたことは、自分で解決してもらわなきゃ困る。それに、ワシは薬効を二つ持つ薬を作るのが苦手でな」

「それでは、彼の身がどうなってもいいと?」

「んなことは言っていない。おい、アメリア」

「は、はい」

「お前が薬を作れ」

「わかりました! って……え、私……?」


 まさか私に頼まれると思ってなかったせいで、無意識に返事をしてしまった後、確認のために尋ねる。当然返ってきたのは、肯定の頷きだけだった。


「私に薬効が二つもある薬なんて……シャフト先生にも出来ないものを私が作るなんて、無理ですよ! それに、私はまだ魔法薬師の免許を持ってないんですよ!」

「ワシの助手という体でやればいい。今までも何度かそうしただろう?」

「で、でも……」

「お言葉ですが、彼女はまだ学生です。それに無免許ということは、まだそこまでの腕が無いという証明では?」


 セシル様の言う通り、私はただ魔法薬師を目指しているだけの学生に過ぎない。そんな私にこんな大役を任せるなんて、あまりにも荷が重すぎる。


「お前の言いたいことはわかるが、これは魔法薬師にしかわからん話だ」

「…………」

「心配するな。お前はワシが認める、優れた魔法薬師だ。まあワシには遠く及ばんがな」

「変な冗談はやめてください……」

「くだらん冗談を言う趣味は無い。まあ嫌なら断ってくれても、ワシはなにも困らん。目の前で苦しんで死んでいく様を眺めるか、急いで別の魔法薬師か回復術の使い手を呼ぶんだな」


 シャフト先生は、肩をすくめながらそう言うと、保健室から出て行こうとした。その直前に、そうだと前置きをしながら歩みを止めた。


「言っておくが、青二才の状態は良くないし、この傷を治せる魔法薬師や回復術の使い手は限られている。呼ぼうと思っても、何日か待たされるだろうな。魔法薬を取り寄せるのにも時間はかかる。その間に青二才はくたばって終わりだ」

「シャフト殿、今はそんな意地悪を言っている場合では――」

「部外者は黙れ。ワシは今アメリアと話をしている」


 シャフト先生の態度にしびれを切らせたのか、セシル様はシャフト先生の肩を掴んだが、荒々しくその手を払いのけた。


「私は、何の才能も無い無能です。そんな私に出来るかどうか不安です……」

「不安なんて、後でいくらでも感じていろ。今は行動をしないとこいつが死ぬ。それだけだ」


 ……その通りだ。このまま何もしなければ、レオ様は私の前で死ぬ。そんなの、絶対に訪れてはいけない未来だ。


「……わかりました。私、やります!」

「アメリア、本気か?」

「はい。正直怖いですし、自分のことなんて信じられません。ですが、シャフト先生の言葉なら信じられますし……なによりも」


 一旦言葉を区切り、息を大きく吸い込んでから、私の胸の内にある気持ちを全部シャフト先生に聞いてもらうために、背筋をピンと伸ばしながら口を開いた。


「私、ずっとずっとレオ様に支えてもらったんです。彼と出会ってなければ、私は家族やクラスメイトのいじめに耐えきれなくなって、もうこの世にいなかったかもしれないでしょう。彼には返しきれない恩があるんです」

「…………」

「私は、恩返しの第一歩を踏み出したいですし……なによりも! 困ってる人がいたら、助けるのは当然です!」

「ふん、ベタな理由とセリフだが、ギリギリ合格点をやろう。材料ならワシの研究室にある。準備はしてやるから、後でいつもの教室に来い」


 シャフト先生は、私の方へと振り返り、少しだけ口角を上げてから、今度こそその場を後にした。


 さあ、もう逃げられないわ。腹をくくって、薬を作るしかもう道は残されていない。今こそ、ずっと勉強をしてきた成果を発揮する時だ!


「アメリア、君の覚悟を見させてもらった。そして部外者の私が口を挟んだことを、謝罪させてくれ」

「いえ、そんな……むしろ色々と言ってくれて、ありがとうございます」

「元婚約者として……いや、それは恩着せがましいな。簡単に騙されて裏切ってしまったことへの贖罪の一つと思ってくれるとありがたい。レオのことは、私が見ておくから安心してくれ。それと、彼のご両親には私から話をしておく」

「何から何まで、ありがとうございます。では……行ってきます!」


 セシル様にレオ様を任せた私は、気合を入れ直してから教室を後にした。


 レオ様、待っててください。すぐに私が薬を作って、元気にしてみせますから!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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