第四十七話 復讐完了?
「そ、そんなことをされたら、我が学園に傷が付いてしまう!」
「あたしだって冗談じゃない! これ以上あたしを惨めにさせるつもり!?」
今まで基本的に黙って聞いていた校長先生と、プライドや未来をズタズタにされたシャーロットが、レオ様に詰め寄っていく。
「言っておきますが、これも全てあなたがたが自ら蒔いた種ですよ」
「……レオ、私は彼女に謝罪をする。許してもらえるかはわからないが……」
「きっとその心は伝わりますよ、セシル様」
集まった人達の中で唯一、すぐに素直に謝罪を受け入れたのはセシル様だけだった。
その一方で、シャーロットとフローラ、そしてお母様は謝罪を受け入れることはなかった。
「冗談じゃないわ……あたしがあんな無能に謝罪をするなんて、ありえないって!」
「シャーロット、あまり彼を刺激するんじゃないわよ! これでアメリアの婚約が無くなったら、どうなると思ってるわけ!? こんなところまで来て、私の足を引っ張るんじゃないわよ!」
「媚びを売っても意味が無いって、わかりませんの? 母娘揃って愚かですこと」
「伯爵令嬢程度の分際で、侯爵子息様のことを偉そうに語ってるんじゃないわよ!」
……お母様、それは自分が伯爵家よりも身分が低い、男爵家だってわかっての発言なのかしら? 頭に血が上り過ぎて、その辺りの判断も出来ていなさそうだわ。
「醜い争いは後にしてもらえると助かります。そうそう、謝らないのなら……俺も父にこの件を話して、相応の対処を取ってもらうつもりです」
「そ、相応の対処とは……?」
「さあ、それは俺にはわかりません。一応伝えておくと、父は怒ると誰よりも恐ろしいとだけは言っておきます」
レオ様は、フフッと不敵に小さく笑いながら忠告をする。
ローガン様が怒ったら、確かに恐ろしいだろう。普通に振舞ってる時ですら、威厳があって少し恐ろしいくらいだもの。
「くっ……わかりましたわ。私は受け入れますわ」
「はぁ!? あんた、馬鹿なんじゃないの!?」
「私のせいで、家に迷惑をかけるわけにはいきませんわ……甚だ不本意ではありますが、致し方ないです」
「フローラ様は物分かりが良いようですね。後はあなた達母娘だけですよ?」
話を振られたシャーロットとお母様は、強く握り拳を作りながら、顔中に深いシワを刻み込んでいた。
「……わかり、ました」
「お母様まで!? あたしは絶対に嫌よ!」
「いつまで子供みたいなことを言っているの! ここで謝って許してもらえないようなら、家から追い出すわよ!」
「そ、それこそ冗談じゃないって!」
「それが嫌なら、謝るのよ!」
お母様に詰め寄られて逃げ場が無くなったシャーロットは、悔し涙を流しながら、ほんの僅かに頷いた。
……昔から私のことを見下して、嫌がらせを続けてきたシャーロットにとって、私に謝る屈辱は、想像を絶するものなんでしょうね。
「受け入れてもらえて安心しました。とはいえ、本人に会ったら何をするかわからないので、これで記録させてもらったものを彼女に見せます」
そう言うと、レオ様は再び手のひらの上に魔方陣を作ると、例の虫を出現させた。あの虫で記録を取って、私に見せるつもりだろう。
「アメリア、あなたに辛く当たってごめんなさい。お願いだから、うちに帰ってきてちょうだい……!」
「アメリア様、酷いことをずっとしてきて……申し訳ございませんでしたわ」
すごく嫌そうではあったものの、フローラは深々と頭を下げて謝罪をし、お母様に至っては、よほどレオ様に逆らいたくないのか、なんと土下座をして謝罪をした。
そんな中、シャーロットだけは立ったまま何も言わず、行動も起こさなかった。
「シャーロット! 早く謝罪をしなさい!」
「ぐっ……うっ……わ、悪かったわ……」
「あなたの謝罪は随分と面白いですね。俺が笑っているうちに、もう一度ちゃんとした謝罪をしてくれませんか?」
「ぐぐっ……も、もうしわけ、ありません……でし、た……」
シャーロットは、まるで錆びた金属のようにカクカクした動きではあったけど、確かに頭を下げて私に謝罪をした。
うん……なんていうか、全身から謝りたくないのにやらされてるって感じが凄いわね。レオ様が言いたくなる気持ちもわかる。
でも、私としては別に今後関わってこないのなら、謝罪なんていらない。だって、謝られたところで、彼女達から受けた傷は、治ることは無いもの。
「皆さんの意志はとても伝わりました。ですが残念ながら、既にもうこの情報は、他の貴族や報道機関に渡しているんですよ」
レオ様の衝撃の言葉に、その場にいた全員どころか、覗いている私まで固まってしまっていた。
今の言葉が正しいなら、レオ様は集める前から記録を流していたってことよね? だったら、この集まり自体をする必要は無かったんじゃ……?
「なっ……!? は、謀ったわね!?」
「随分な言いようですね、シャーロット様。俺は謝らないと流すとは言いましたが、謝ったら流さないなんて言ってませんよ?」
「ふざけんじゃないわよ!! あんた、頭おかしいんじゃないの!!」
「シャーロットの言う通りですわ! 私達は、謝りたくもないのに脅されて謝ったんですのよ!?」
「ふざけんな? ふざけるな、か……ふふっ、はははははっ!!」
鬼のような形相で詰め寄るシャーロットとフローラとお母様に対して、レオ様は何故か部屋の外にまで聞こえるくらい、大きな笑い声を上げ始めた。
きゅ、急に一体どうしちゃったのかしら……いつも良く笑う人なのは間違いないけど、この笑い方は明らかに普通じゃない。なんていうか、雰囲気がおかしいのよ。
「その台詞、そっくり返してやるよ! てめえら、アメリアが優しい性格なのを良いことに、やりたい放題しやがって、何様のつもりだ!? 天才男爵子女? 天才伯爵子女? アメリアの母? 名門の学園? 全部ふざけんな! どれだけ俺の大切なアメリアを虐めれば気が済むんだ!!」
乱暴な言葉でまくし立てるレオ様の姿は、あの森で出会った子供の時の姿と重なって見えた。
……自分のことじゃなくて、私のことであんなに怒ってくれるなんて……この気持ちをどう表現すればいいかわからない。嬉しいっていうのもおかしいけど、それに近い感情だ。
「……失礼、つい熱くなってしまった。恐らくですが、すぐに拡散され……スフォルツィ家とノビアーチェ家、アドミラル学園は多かれ少なかれ落ちぶれるでしょうね。でも仕方がありません。全て自分が蒔いた種……アメリアを虐めなければ起こらなかったこと。そんな残念なあなた達に、俺から最後に言っておきたいことが」
いつもの調子に戻ったレオ様は、全員の顔を見てから、会議室に置かれているテーブルに勢いよく手をついた。
「あんまり俺の女を舐めんなよ? 俺の世界一大切な女にまた手を出したら、これ以上のことをするからな。いいか、その腐りきった頭の中に刻み込んでおけ。二度と俺達の……アメリアの幸せの邪魔をするな。二度とだ!!」
その言葉が最後だったのか、レオ様は全員に背を向けて部屋を後にしようとした。その際に、覗いていた私と目が合ってしまった。
「え、アメリア……? どうして……!?」
「し、しまった……あっ!!」
「ふー……ふー……!!」
レオ様が私に気が行っていた一瞬の隙に、レオ様の背後でシャーロットが怒りで鼻息を荒くさせながら、杖を取り出していた。
「許さない……あんただけは、絶対に許さない! 死ねぇぇぇぇ!!!!」
シャーロットは、魔力を込めに込めた水の槍を作り出すと、それを思い切り突き出してきた。
不幸にも、私とレオ様は直線状にいるせいで、このままでは二人揃って貫かれてしまう。
別に私なんて、どうなったっていい。それよりも、レオ様を助けなければ――それしか頭になかった私は、無意識に体が動いていた。
「レオ様ぁぁぁぁ!!!!」
「あ、アメリアっ!!」
私は、レオ様の名前を叫びながら彼の所に飛び込むと、少しでも槍の軌道からずれるように、横に行くように押し倒した。レオ様も瞬時にそれをわかってくれたのか、私を抱きしめながら、横に倒れた。
……しかし。
「がはっ……」
現実はあまりにも無常だった。私の判断が一瞬遅かったのか、それともそもそも間に合わなかったのか。シャーロットの水の槍は、レオ様の背中に突き刺さっていた。
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