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第四十六話 醜き人達

 突然現れた魔法陣。そこから何か魔法が発動される訳でもなく、ただ静かにその場に佇むだけだった。


 あの魔法陣は一体何なのかしら……少なくとも、私がレオ様と一緒に過ごした中で、あんな魔法陣は見たことが無い。


 もしかして、最近習得したと言っていた魔法と、何か関係があるのかもしれない。


「この魔法陣は……!?」

「おや、フローラ様はご存じでしたか。この魔法陣は、こいつが見た景色や音を、魔法陣を通して術者も見たり聞いたり出来る魔法でして。俺は偵察魔法と呼んでいます」


 簡単に説明をしながら、レオ様は掌の上に小さな魔法陣を出す。そこからは、一匹の小さな虫が飛び出し、周りを飛び回り始めた。


 虫……虫? そうだ、レオ様と一緒に過ごしていた時に、私の周りに虫が飛び回ってて、それをレオ様が捕まえたら、その場から消えてしまった虫がいたわ!


 その虫を、レオ様も出せるようになったということ? でも、どうして?


「この魔法で、俺の大切な人が、命と同じか、それ以上に大切な物があるのを知り、最低なことをしたようですね」

「ちょっと待ちなさいよ。どうしてそれを知っているの!」

「本人から教えてもらいましたからね」


 次にレオ様は、自分の鞄から試験管を一本取り出した。中には赤い液体が入っている。


 あれって、何かの薬よね? シャフト先生が作った物なのかしら? それとも、別の所から手に入れたの?


 どうしよう、何から何まで知らないことだらけで、全くついていけない。これって、全部私と一緒に過ごせなかった時に準備していたことよね?


「俺には、とある優秀な研究者の知人がおりまして。彼に、この虫が見た景色と音を保存出来る薬を作ってもらいました」


 大きな魔方陣に、レオ様が持っている試験管を近づける。すると、魔方陣の中心の絵柄が代わり、どこか見覚えのある景色が出てきた。


 これは……わ、私の実家? うぅ、隠れながらだから、イマイチよく見えない……!


「手始めに、これをどうぞ」


 レオ様が指をパチンと鳴らすと、魔法陣に少し変化があった。どうやら、見えている物が動き出したようだ。


『お父様、お母様、聞いてよ! あたし、今日学園で凄く嫌な目にあったの!』

『まあ私の可愛いシャーロット、一体どうしたというの?』

『お姉様がね、男性とお付き合いを始めたのよ! しかも、あたしの友達がその人に想いを寄せてるのに、それを踏みにじったのよ!』

『なんて最低な子なのかしら! 出来損ないの癖に、人様に迷惑をかけて……スフォルツィ家の名に傷が付いたらどうしてくれるのかしら!』


 ……話の内容からして、いつもの私への悪口みたいね。相変わらず私のいないところで酷いことを言ってるみたいで、逆に安心感すら覚える。


「これは、スフォルツィ家での家族団欒の一幕です。とはいっても、俺からしたら不愉快極まりませんけどね」

「シャーロット……君がアメリアを毛嫌いしてるのは知ってるが、言って良いことと悪いことはあるだろう」

「あ、はい……ごめんなさい」

「ふんっ……セシル様には謝るのか。まあいい。続きといこう」


 レオ様は、更に映像を流し続けると、シャーロットがフローラについて言及する記録があった。場面は、シャーロットが一人で部屋でゴロゴロしながら本を読んでいるところだった


『はぁ……明日は小テストか。だるい……でも一番じゃないとムカつくのよね。最近、フローラが随分と調子乗ってきてるからなぁ……ここいらで徹底的に負かして、あたしに絶対服従に……くくっ……』

「……シャーロット、これはどういうこと?」

「えっと、これは……その……」

「先に進むよ」


 必死に言葉を探すシャーロットのことを無視して、次の映像を流し始める。それは、お母様が自室で騒いでいるところだった。


『奥様、おやめくださいませ!』

『うるさい! セシルの結婚相手を、相手を無能から有能に鞍替えに成功したとはいえ、もっと強い繋がりが欲しいの! これでは私の地位と金は増えない! あぁ、もっと金……もっと地位を……もう絶対に、あんなドブ溜めみたいな場所に戻るもんですか……!』

「い、いつのまにか私のプライベートを!?」

「おっと、申しわけない。あまりにも醜悪すぎて、これ以上は映せません」


 まだ途中ではあったけど、魔法陣は停止してしまった。内容はアレなものだったし、あのまま流していても、メリットはないだろう。


「さて、こんな感じで俺が集めた情報があるんで、それを皆さんと鑑賞会といきましょう」


 返事なんて待たず、次に流した映像と音は、私が必死に逃げているところだった。


 これ、レオ様の指示で動いていた時のことよね。レオ様、いつの間にかこの部分の記録を取っていたのね。


「これは、俺がアメリアと一緒にいるのが気に食わない彼女達が、アメリアを追いかけて酷いことをするところです。他にも細かいことを入れれば、どれだけあるか。学園長、こんな明確ないじめが起きていて、もみ消すつもりですか?」

「しかしですねぇ……学園にもメンツというものがあって」

「生徒一人捨てて得られるようなメンツなんて、必要あるのですか? 人一人助けられず、教えられずに何が教師だ」


 レオ様は怒りを全てぶつけるように、右手に力を強く籠める。その力がよほど大きかったようで、手から血が出ていた。 


「次の映像はこちら。アメリアの机をズタズタにしてるところです。この犯人二人の顔、なんとも醜悪だと思いませんか?」


 魔方陣には、若干見慣れてしまった、ずたずたにされた机が映されていた。しかも、それを実行しているところだった。


『こんな感じでいいかな?』

『良いと思われますわ。ふふっ反応は薄いでしょうけど、コツコツやるのが大事ですわ』

『そうね。はぁ……人が嫌がるのをするのって楽しい〜!』

『同感ですわ』


 ここで映像は終わったみたいだ。今のに出ていたシャーロットとフローラは、さすがにここに居づらそうね。


「校長先生、確実に酷い虐めがあるのは明白でしょう。この二人に厳重処罰を」

「い、いやいや。そんなことをしたら、学園に大きな傷が付く!」

「そうですか。おっと、もうひとつ面白い記録があるから、それをお見せしよう」


 レオ様は黄色の液体を魔方陣に近づけると、今度はフローラが一人で勉強をしているところだった。


 フローラも成績は優秀だから、勉強なんてあまりしないのかと思っていた。いや、むしろたくさんするのが普通よね? 頭がいいシャーロットは変なだけよね。


『次のテストこそ、必ずシャーロットの上に立ってやりますわ! 最近のシャーロットはずっと一位でしたが、今度こそ私が勝つんですの! そして私の方が上だとわからせて、服従させてやるのよ! そのためになら、友達ごっこくらい余裕だわ! おーっほっほっほ!』

「ちょっと待ちなさい!! なにこれ、友達ごっこはさすがに酷すぎるって!!」


 魔方陣の前に割って入ってきたシャーロット。その気持ちはわからなくもない。実は自分の知らないところで、友達が自分を蹴落とそうとしていて、友達ごっことか言われたら、ショックが大きいと思う。


「あんたなんか、あたしの永遠の二番手なんだから、偉そうにすんじゃないわよ!」

「なんですって!? 性悪女の分際で、随分と偉そうなことを言うじゃない!」

「だーれが性悪女ですって!? このぶりっ子女!!」

「ぶりっ子!? 誰がですの!?」

「あんた以外に誰がいるんだよバーカ! お前の話し方、媚び売ってるって言われてて、評判悪いの知らないでしょ!?」


 こう言っては何だけど、あまりにも醜い女の争いになってしまっているわね。聞いてるだけでも、頭が痛くなる。


 結局のところ、彼女達には友情なんてものは無く、ただ自分のための付き合いだったってことね。


「どうでしたか、セシル殿。あなたの未来の妻とご友人と家族は?」

「……まずは言わせてほしい。レオ、ありがとう。私は真実を知らず、こんな愚かな女性と運命を共にするところだった」

「え、セシル様? 何が言いたいの?」

「君との婚約は、今日限りで破棄させてもらう」


 ぴしゃりと突き付けられた、まさかの婚約破棄。その言葉のショックでなのか、シャーロットもお母様も、口を大きく開けたまま固まっていた。


 そんな中、一番最初に行動したのは、フローラだった。


「ぷっ……あははははっ!! 自分の行いで婚約破棄されるなんて、良いザマですこと!! あぁ……愉快だわ!!」

「ふ、フローラ……!!」


 心の底から大笑いをするフローラに、青筋を立てながら胸ぐらをつかむシャーロットの図は、つい先程まで友達だった二人には、全く見えなかった。


「じょ、冗談じゃありませんわ! 私の娘と結婚してくださらないと、私が困るんですの!」

「ええ、でしょうね。自分の地位と金のために娘を利用しているあなたのことですからね。ですが、まさに自業自得と言わざるを得ないでしょう」


 シャーロットと同じように、セシル様の胸ぐらを掴むお母様。必死に縋り付くような態度は、娘として何とも情けない気持ちになる。


 こんな醜い人達と少しでも同じ血が通っていると思うと、なんだか寒気がしてくるわ。


「レオ。可能なら、アメリアともう一度話をして、ちゃんと謝罪がしたい。シャーロットから色々聞いていたが、あの裏の顔を見てしまうと、信じられないんだ」

「わかりました。彼女に聞いておきます。ですが、婚約者は俺ですから、よりを戻すなんて考えないでくださいね」

「何ですって!? あ、あなたがアメリアと!?」


 なんとか考え直してもらおうと躍起になっていたお母様は、またしても手のひらを返すようにセシル様から離れると、レオ様の前に立った。


「まさか、あんなダメ娘の婚約者が侯爵子息様だったなんて! あぁ、初めてあの子を産んでよかったと思えましたわ! さっそく結婚の手続きをしましょう!」


 お母様は、レオ様に反論の余地を与えないように、まくし立てて話す。


 それもそのはずよね。シャーロットの婚約が破棄されてしまった以上、私の方でどうにかしないと話にならないものね。


「ちょっとお母様!? あんな奴のことよりも、セシル様の説得をしてよ!」

「うるさいわね、この役立たずが! 私の役に立てないあんたなんて、もういらないのよ!」

「きゃあ!?」


 シャーロットの悲鳴と共に、部屋の中に乾いた音が鳴り響く。振り上げたお母様の手が、シャーロットの頬を思い切り叩いた音だ。


 ……さすがと言うべきか、予想通りとも言うべきか。お母様にとって、私だけではなく、シャーロットもただの道具でしかなくて、いつでも簡単に切り捨てることが出来るのね。


「ああ、それには及びません。結婚式はこちらで勝手に進めますから。それに、アメリアは既に家を出ているじゃありませんか。もうあなた達とは関係が無い以上、仮に結婚しても、フィリス家はあなた達と関係を持つことも、支援することも絶対にありえません」

「なっ……あの子はうちの子――」

「……冗談も休み休み言え。アメリアを散々罵り、迫害してきたのは、全て知っているんだ。これ以上俺を怒らせるな……!」

「ひぃ……!?」


 外野で見ている私ですら背筋が冷たくなるほど、冷たくも怒気が含まれた声で威圧されたお母様は、その場で尻餅をついてしまった。


「こほん。まあ色々見てもらいましたが、俺の要望は……アメリアへの謝罪と、今後二度と関わらないこと。そして学園側はアメリアに限らず、体裁よりも生徒を重んじる学園にしてほしいんです。約束できなければ……今の記録を、貴族や報道機関に流します」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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