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第四十話 思わぬ事故

「やっと終わった……」


 全てのテストを終えた私は、少しぐったりしながら、ルーク様に答案用紙を渡した。外はいつの間にか暗くなっていた。


 ふー……まさか出題範囲が、今授業でやっている内容よりも、はるか先に行ってるとは思ってなかった。予習をしてなかったら、確実にダメだったでしょうね。


「お疲れ様でした。明日までにチェックをするので、今日はもう休んでください」

「わかりました。ありがとうございます。それと……出来が悪いですけど、これからもよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いいたします」


 丁寧なあいさつを残して、ルーク様は私の部屋を去っていった。


 なんだか、こうして誰かに勉強を教えてもらうってことが、違和感しかない。今まで勉強というのは、一人で黙々とやるのが基本で、授業中だけは他の人とやるって程度だったからね。


「休めって言われたけど、なんだか落ち着かないわね……せっかくだし、さっきのテストの範囲の復習でもしよう」


 私は本棚から参考書を取り出すと、早速復習を始める。


 昔から勉強をして育ったから、休めと言われても自然と勉強をしてしまう。だって、体に染みつきすぎて、やってないと落ち着かないんだもの。


「ここの計算、さっきのテストで似たようなのが出てたわね。公式もちゃんと使えたし、大丈夫そう……あっ、この図形の問題は間違った解き方をしちゃったな」


 うん、やっぱり勉強をしてると落ち着くわ。なんていうか、安心感があるというか……習慣もあるけど、私は勉強するのが好きなのかもしれない。


 好きなら好きで、もっと学力も伸びればいいのにね。せめてシャーロットと肩を並べられるくらいになればいいのに……はぁ、もっと色々と才能を持っていればと思うのは、欲張りなのだろうか?



 ****



■レオ視点■


「これをこうして……これでいいのか?」


 アメリアと一緒に過ごせない苦しい時間に耐えながら、俺は自室に籠って魔法の練習に励んでいた。


 俺は書物で学んだ魔法陣を展開する。すると、魔法陣の中心から、あの時のような虫が出てきた。


「やっと出てきた! あとはこいつを操って――」


 父上に取り寄せてもらった、目的の魔法について書かれた書物を見ながら練習を初めてから、初めて進歩して気が緩んだのか、魔法陣から出た虫は、縦横無尽に飛び回り始めた。


「おい、どこに行くんだ! 止まれ!」


 必死に制止を促すが、虫は全く言うことを聞かない。放っておいても害は無いだろうけど、だからといって無視するわけにもいかない。


 ……こうなったら仕方がない。俺が責任を取って、虫を止めるしかない!


「こっちには、狩りから学んだ術がある。虫一匹捕まえる程度、何の問題もない!」


 俺は自分の足元に魔法陣を展開し、魔法を発動する。その魔法が、アメリアの前でも使ったことがある、自分の足の速さが上がる魔法だ。


 これであの飛び回る素早い虫に対抗できる。あとはよく狙って……。


「そこだっ!!」


 虫の速さが一瞬遅くなった隙を突くように、俺は虫に向かって飛び込むと、その勢いのまま両手でバチンッと叩いた。


「よし、捕まえ――」


 虫を捕まえて潰し、ホッと一安心したのも束の間。俺は飛び込んだ勢いのまま止まることが出来ず、そのまま頭から本棚に突っ込んでしまった。


「ふげぇ!?」


 何とも間抜けな声を出して倒れる俺の上に、本棚にぶつかった衝撃で本が大量に落ちてきた。もちろん俺は動くことが出来ず、本の下敷きになった。


 な、なんて情けないんだ。こんなことを野生でしていたら、一発で食われてしまうだろう。拾ってもらって野生から離れた期間が長いせいで、勘が鈍ったか……。


「レオ坊ちゃま、どうかなさいましたか!?」

「だ、大丈夫だ。申し訳ないが、本を退かしてくれないか?」

「えっ……本の中から声が……す、すぐに退かします!」


 本の向こうから、使用人の声が聞こえてきた。どうやら俺が暴れたせいで、近くにいた使用人が来てくれたようだ。


 とりあえず助かった。特にケガはしていなさそうだけど、この状態では動けないからね。まったく、何とも情けない姿を見られてしまったものだ。


 こんな醜態を、アメリアに見られなくてよかった。もし見られてたらと思うと……恥ずかしすぎて、当分の間は顔を合わせられないだろうな。


 ……なんてことを思っていたら、廊下の方から大きな足音が聞こえてきた。


「レオ様!!」

「え、この声は……」


 間違いない、アメリアの声だ。本の向こう側にいるせいで姿は見えないけど、俺がアメリアの声を聞き間違えるはずがない。


 直前にアメリアに見られたら恥ずかしいみたいなことを思っていたのに、早速見られてしまうだなんて……最悪だ。


 いや、待て。今は本の山が崩れてるだけだから、俺の姿は見えないはずだ。それなら、来てくれた使用人が、ただ本が崩れただけだから心配するなって言ってくれれば、バレないんじゃないか!?


 頼む、俺がここで声を出したらバレてしまうから、なんとか俺の意志を汲み取ってくれ!


「アメリア様、どうしてここに?」

「テストが終わってのんびり勉強していたら、凄い音が聞こえてきたので! なにがあったのですか?」

「どうやら、この本の下にレオ坊ちゃまがいるみたいで!」

「レオ様が!? 私も退かすのを手伝います!」


 うん、さすがに無理があるよな! 俺は誰とでも意思疎通が出来る魔法が使えるわけじゃないし、俺の考えを汲み取れっていう方が無茶があった!


 仕方がない……このまま本の中に埋もれていたいくらい恥ずかしいけど、こうなってしまった以上、助けてもらうしかない……静かに待つとしよう。


「あ、レオ様の姿が見えました!」

「レオ坊ちゃま、すぐにお助けいたしますから!」

「あ、うん……ありがとうね」


 さすがに助けてくれているのに、俺の考えをーって怒るわけにもいかない俺は、なんとも微妙な返事を返すことしか出来なかった。


「レオ様、大丈夫ですか!? ケガしてませんか!?」

「ああ、大丈夫。これでも昔は危険な森にいたんだから、これくらいなんてことないさ」

「そういう問題じゃありません! 埋まってるって聞いた時、心臓が止まるかと思うくらい心配したんですよ!」


 アメリアは、目尻に涙を溜めながら、大きな声で俺の心配をしてくれた。


 こんなに心配をかけてしまうなんてね……俺はアメリアの恋人失格だな。もっとしっかりしないと、これから復讐をして、アメリアと共に生きるだなんて、無理な話だ。


「アメリアは優しいね。ありがとう」

「あっ……」


 俺は思わず、アメリアのことを優しく抱きしめながら、頭を撫でてしまった。周りにはまだ人がいるのに……って、あれ? いつの間にかいない。気を利かせて退出したのかもしれない。


「魔法の書物……これの勉強を?」

「あ、ああ。思った以上に難しくてね。だから、アメリアと一緒に過ごせなくてね」


 事情を説明すると、一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、すぐに微笑みに戻したアメリアは、小さく頷いた。その姿が愛おしくて、また抱きしめてしまった。


「本当は、ずっとこうしていたいんだけどね」

「ずっとは無理ですけど、少しくらいなら良いと思います」


 アメリアの視線の先には、大きなソファが置いてあった。そこに俺が座ると、アメリアも座――らずに、寝転がって俺の膝に頭を乗せてきた。


「最近、レオ様と一緒にいられなくて、触れあいたいと思ってたら、膝枕をしてもらいたいって思って……嫌でしたか……?」

「そんなことはない。互いに忙しい身だけど、今はとてもいい機会だ。少し休憩しようか」


 休息の提案をしてからすぐに。俺はアメリアの頭をゆっくりと撫でる。すると、気持ちいいのか、アメリアの目がトロンとしてきた。


 このまま撫でていたら、多分寝てしまうだろう。だが、それも計算したうえで、俺は更に撫で続けた。


 結果は――


「すぅ……すう……」


 俺の予想通りだった。アメリアの寝顔、可愛すぎるだろ!! このままずっと見ていたいんだが!!


 ……いや、冷静になれ俺。流石に寝顔をずっと見られたら、アメリアだって嫌がるだろう。彼女が嫌がることをするなんて、もってのほかだ。


「よし、それじゃあ俺は勉強に戻るよ。アメリアも無理しないようにね」

「んみゅ……すーすー……レオ様ぁ……すき……」

「俺も好きだよ。おやすみ、アメリア」


 俺は起こさないようにそっとアメリアを膝から下ろしてから、お休みのキスをアメリアの頬にしようとしたが、タイミング悪くアメリアが動いた影響で、本当なら頬があった所に唇が来た。


 そして、俺は避けることが出来ず……そのまま唇を重ねてしまった。


「っっっっ!?!?」


 思わずとんでもない声を出しそうになってしまった。だって、俺は今……寝ているアメリアにキスをしてしまったんだ。


 最悪だ、とんでもないハプニングだ。俺はキスをするの自体は嫌じゃない。でも、せっかく清純なお付き合いのためにキスもしないと決めていたのに……!


「お、俺は……明日からどんな顔をしてアメリアと話せばいいんだ……」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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