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第四話 私の至福の時間

 特に代わり映えの無い始業式を終え、教室に戻ってきた。すると、席に座ったレオ様の周りに、一気に人だかりができた。


 転校生なんて、めったに来るものじゃないから、物珍しく思う気持ちはわからなくもない。私はそんなことよりも、読書をする方が重要だから、あの輪に入りはしないけど。


 そもそも、フローラ達にいじめられて、他のクラスメイトにも煙たがられている私が行ったところで、悪いことは起こるかもしれないけど、良いことなんて絶対に無い。


「レオ様はどこから来たんですか!?」

「ここからかなり南にある町に、フィリス家の別荘がその町にあって、そこで暮らしていたんだ。だから、みんなとは社交界とかで会ったことはないよね」

「レオさんの好みの異性のタイプってどんな人!?」

「うーんそうだなぁ。明るくて元気な子かな! あと、人助けが出来る優しい人も良いね!」


 ……随分と盛り上がってるわね。住んでた所は世間話としていいかもしれないけど、好みの異性を聞いてどうするのかしら。私にはよくわからない。


 そんなことを思っていると、スッと私の前に細い腕が出て来て、読んでいた本を無理やり閉じさせた。


「……フローラ様? なにか?」

「みんなレオ様に話しかけに行ってるのだから、あなたも何か話せば? って助言をしに来てさしあげましたの」


 助言? それ、世間一般では余計なお世話って言うと思うのだけど?


「お気遣いありがとうございます。ですが、遠慮しておきます」

「まあそう言わずに! ほら立って!」


 断ったのに、フローラは私の手を掴むと、無理やり私を立たせた。その際に、一瞬だけ嫌な笑みを浮かべたのを、私は見逃さなかった。


 フローラのことだから、私がレオ様と話した内容を聞いて、からかう手段の一つにしたいのだろう。本当に……暇人というか、性根が腐っているというか……。


「アメリア? 君が来てくれるなんて、嬉しいな! そうだ、さっきは始業式の会場まで案内してくれてありがとう!」

「いえ……」

「あ、呼び捨てにしちゃったけどいいかな? 君とは仲良くしたいから、呼び捨ての方が良いかなって思って! 嫌だったらやめるけど!」

「レオ様のお好きにしてくださって構いませんわ」


 本当に明るくて、よく喋る方だわ。もし犬のしっぽが彼にあったら、凄い勢いでブンブンしているでしょうね。


「えっと、レオ様とアメリア様はお知り合いなのかしら? さっきも話していたけど……」

「知り合い? あー……うん、初対面……だよ?」


 ……今の間はなにかしら? 明らかに言葉を選んでいたし、視線も不自然に逸らしていた。


「はい、全員席に着いて。連絡事項をお伝えするので」


 担任の一声で、賑やかだった教室の中が静かになる。そして、全員自分の席に素直に座った。


 ふぅ、助かったわ。あのまま話していたら、何を言わされるかわかったものじゃないもの。



 ****



 連絡事項の共有が終わり、クラスメイト達が談笑を楽しんだり、帰宅したりする中、レオ様はまた多くの人に囲まれていた。


 十人以上に囲まれているのに、堂々と受け答えしているレオ様の姿は、見ていて尊敬の念を覚えるくらいだ。


 昔の私なら、もしかしたら出来たかもしれないけど、今の私があんな状況になったら、ただ返事を返すだけしか出来なさそうだ。


 まあいいわ。別に自分を変えるつもりは、現状では持ち合わせていない。それよりも、またフローラ達に絡まれたら面倒だし、早くあそこに行きましょう。


「あっ……アメリア!」


 ……? 私の名前が聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいね。早くこんな場所は立ち去らないと。


 そう思った私は、足早に教室を出てとある場所へと向かう。そこは、旧別館と呼ばれる校舎から離れた場所にある建物だ。


 別館とは、主に専門的な魔法の実験や研究をするための施設だ。しかし、数年前に新別館が建設され、旧別館は今ではほとんど使われていない。


 だからなのか、旧別館にはほとんど人がいない。私のような人間には、とても適した場所だと言える。どうせ帰っても良いことがないからね。


「こんにちは」


 旧別館の最上階の角部屋にある部屋に入りながら挨拶をするが、何も返事は返ってこない。いつものことだから、特別何か思ったりはしない。


 ちなみにここは、魔法薬学の研究をする教室だ。手入れがされてなくて埃をかぶってはいるけど、部屋には多くの試験管やビーカー、魔法薬学に関する書物が置いてある。


「ふぅ……」


 小さく息を漏らしながら、私は鞄から一冊の本を取り出して開く。ここなら私に酷いことを言う人も、いじめたりする人もいない。静かで……至福の一時だ。


 しかし、その静かで至福の時は、一瞬で破壊された。


「あ、いたいた! いやー探したよ!」

「えっ?」


 私とは正反対の、ハキハキとした元気のある声。その声の主は、教室の入口でにこやかに手を振っていた。


「レオ様……? 何かご用ですか?」

「いや、用とかは特にないよ。強いて言うなら、アメリアとおしゃべりをしたいなって思ってね。それと、さすがにあの人数に質問攻めされるのは、ちょっと疲れちゃってさ」


 苦笑いを浮かべながら、レオ様は私の向かい側に椅子を持ってきて腰を下ろした。


 さすがにあれだけ質問をされていたら、誰だって疲れるだろう。だからといって、私の所に来る必要性は感じないけど。


「ああ、もう一つ理由があったよ。アメリアが一人ぼっちで寂しそうだったから、一緒にいてあげたいって思って」

「…………」

「別に哀れんでるとか、そんな安っぽい考えじゃないよ! 俺もさ、一人の寂しさとか苦しさってよく知ってるから……放っておけなくてね」


 これでも私は、人を見る目はそれなりにある方だと自負している。だから、私を馬鹿にしているとか、哀れんでいるとか、見てると何となくわかる。


 今までもそういう人達を見てきて、みんな自分の利益や自尊心を満たすような人間ばかりだった。だから、私は他人を信頼しなくなり、避けるようになった。


 でも……この方の言葉や仕草、そして寂しそうな表情を見ていると、嘘をついているようには思えなかった。むしろ、幼い頃……まだ優しかったお母様から感じていた、安心感と似たような感覚を覚えるような……?


「アメリア? ボーっとしてどうかしたのかい?」

「いえ……レオ様は優しい方なのですね」

「優しい? うーんそれはどうだろう? おせっかい焼きとかは、家の人間によく言われるけどね。使用人まで同じ様なことを言うんだよ? まったく、酷い家だって思わない?」


 憎まれ口を叩きながらも、表情はとても楽しそうだ。きっと私と違って、とても良い環境なのだろう。少しだけ羨ましい。


「まあそういうわけだからさ、ちょっとここで休ませてくれないかな? アメリアの邪魔はしないからさ」

「……駄目だとお伝えしても、帰らないのでしょう?」

「おっと、出会って間もないというのに、随分と理解されてるな俺! 嬉しくなっちゃうな!」


 こう言ってはなんだけど、レオ様は自分の気持ちや考えをストレートに話す人のようだから、理解するのはそれほど大変ではない。


 とりあえず、邪魔をしないのならここにいてもらっても大丈夫そうね。今のレオ様なら、私をいじめたりしないだろうし。それに、一緒にいて不快感も無い。


 そんなことを思っていると、隣にある準備室に繋がっている扉が開いた。そこには、ボロボロの白衣を着た、一人の初老の男性が立っていた。


「ったく……でけぇ話し声が聞こえてると思ったら、アメリアが誰かを連れてくるとはな」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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