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第三十九話 あなたは良き先生

■レオ視点■


 妹が死んだ――簡単に言っているけど、その一言にどれだけの気持ちが込められているのだろう。所詮他人の俺には、それがわからなかった。


「ワシと弟は、魔法使いが腕を競い合う大会に出場するつもりでな。ワシは魔法薬で、弟は魔法剣で腕を振るう予定だった。元々ワシは、そんなものに出るつもりは全く無かった」

「でも、出たんですよね?」

「うむ。弟と妹が、ワシは優勝も狙えるくらい凄い人なんだから、大会に出ていじめてきた連中を見返そうと提案してきてな。ワシもあの頃は青かったからな……今に見てろと思って、話に乗ってしまった」


 吸い終わった葉巻を、何かの液体が入った試験管の中に放り投げられる。すると、葉巻はみるみると溶けて、煙になって消えていった。


「妹は急用で少し遅れていてな。急いで応援に駆け付ける途中、馬車にぶつかって……」

「…………」

「話を聞いて、ワシと弟はすぐに駆け付けた。まだ息があったとはいえ、当時のワシの実力では、今にも死にそうな妹をすぐには治せず……他の医者や魔法薬師の到着も間に合わず、妹はこの世を去った」


 基本的にいつも何に対しても面倒くさがり、あまり感情を表に出さないシャフト先生が、強く握り拳を作っていた。


 初めて聞いている俺でさえ悲しいのだから、当事者であるシャフト先生や、弟さんの悲しみは耐え難いものだっただろう。俺も本当の母を亡くしているから、よくわかる。


「ワシの魔法薬を作る力がもっとあれば、助けられたはずだと。それは弟も思ったようで、その頃から弟も魔法薬学の勉強をするようになった。だが、進む道は少し違った。弟は、誰でも治せる万能な魔法薬師を目指して開発をする研究者になったが、ワシは……今も死者を蘇らせる薬を作ろうとしてる」


 使者を蘇らせるだって? そんなことは不可能だ! 太古の昔から、魔法というのは存在しているが、その長い歴史の中でも死者の蘇生が出来る魔法も薬も存在しないんだぞ!


「出来るはずがない、だろう? だがそこで諦め切れる程、ワシは諦めがよくなくてな。あの日からワシは研究に没頭した。研究ができるなら、なんだってした。そんなワシに、この施設を使わせる代わりに、教師をしろと持ち掛けられ、教師をしている。ワシには世界一似合わない職だがな」


 ……なるほど、シャフト先生のような人が教師をしているのがずっと疑問だったけど、まさかそんな事情があっただなんて、思いもしてなかった。


 こんな話を聞いてしまった俺は……なんて言葉をかければいいのだろうか。言葉が……見つからない。


「とにかくワシは、安息の地が大切なことを学んだのだ。そして思った。いじめられながらも、必死に勉強している奴にだって、安息の地があっていいじゃねえかと。羽を休める止まり木があっていいじゃねえか、やりたいことをやってる奴を応援してもいいじゃねえか、とな」

「だから、アメリアをここに来られるように……」

「うむ。もちろん、困った時のワシの助手にもなるから、研究の役に立つというのも大きいがな」


 シャフト先生は、憎まれ口を叩きながら、フンッと不敵に笑う。それが、暗くなっていた俺のことを考えて、わざと言っているのは容易にわかった。


「……お前は間違えるなよ、青二才。ようやくアメリアが心を許し、羽を休められる大木……つまりお前を手に入れたんだ。絶対に失望させんじゃねえぞ。じゃなきゃ、ワシの二の舞か、もっと酷い結末が待ってるぞ」

「はい、胸に刻んでおきます」


 人生の大先輩の言葉は、俺の胸に深く刻み込まれた。


 大丈夫、俺はもう間違えない。あの時、変にアメリアのことを心配してしまい、彼女の元を離れてしまった。でも、俺はもう絶対にアメリアと離れることは無い。


「お話を聞かせてくれてありがとうございました。その……それと、申し訳ない」

「何がだ?」

「俺はこの学園を巻き込もうとしている。そうすれば、もしかしたら先生にも影響が出るかもしれないと思って……」

「はっ、今までそれに気づいてない辺りが、まだまだ青二才だって言ってるんだよ。それに、なにを一丁前に老いぼれを気にしてやがる」

「いてっ」


 顔を俯かせて謝罪を述べると、仏頂面のシャフト先生にデコピンをされた。


「確かにここは研究をするのに良い環境だ。だからワシは、面倒な教師の仕事をしてまでここにいる。だが、研究をするの自体は、どこでも出来るだろう?」

「そうかもしれませんが……」

「それに、いい加減教師の仕事も面倒だからな」

「……本当に、ありがとうございます。では、その薬はいただいてもよろしいですか?」

「それはダメだ。薬はどんな反応するかわからない。対応できない人間しかいない所に持ち運びは厳禁だ」


 それは、薬の副反応みたいなことだろうか。作った本人がそういうのなら、素人の俺が持ち出したら、危険なのは明らかだ。ここは素直に従っておこう。


「わかりました。ではこのまま失礼します」

「ああ、さっさと帰れ」

「そうだ、最後に……シャフト先生は、誰よりも一番生徒のことを考えている、素晴らしい先生ですよ」


 俺は、今までアメリアの居場所を作ってくれたことに対して、感謝と敬意を込めた言葉とお辞儀を残して、部屋を後にした。


 シャフト先生、今までアメリアのためにありがとうございました。これからもアメリアの良き師としていてくれることを願っています。





「青二才が、わかったようなことを言いおって……素晴らしい先生か……けっ、ワシには世界一似合わん言葉だな」



 ****



 レオ様と一緒に過ごせない日々を過ごしていたある日、珍しく私はいつもの教室には行かず、まっすぐ屋敷に帰ってきた。


 実は、ローガン様に今日は用事があるから、すぐに帰ってくるように言われているの。だから、こうして言われた通りに帰ってきたのだけど……一体どうしたのだろう?


「失礼します」


 ローガン様とレイカ様の私室に入ると、そこには部屋の主である二人に、知らない男の人、そしてレオ様が出迎えてくれた。


「やあアメリア! 調子はどうかな?」

「特に変わりないですよ。教室でも屋敷でも見ているんですから、ご存じでしょう?」

「そうなんだけど、こうしてゆっくり話すのは久しぶりな気がするからね」

「そうですね」


 どうしよう、レオ様といると顔がにやけてしまう。レオ様も同じ気持ちなのか、私を見つける前と、見つけた後の表情が全然違う気がする。


 はあ、早くレオ様とこうやって一緒にまた過ごせる日々が来てくれないかしら……結ばれたのもあるけれど、いなくなってから、レオ様の偉大さが更に良くわかったわ。


 こういうのが、恋ってものなのかしら。今までの人生の中で、勉強ばかりしていて、恋なんてしたことなかったから、知らなかったわ。セシル様に婚約を申し込まれたことがあったけど、あれは私から好きになったわけじゃない。


 そもそも、私はセシル様のことを異性として想ったことは無い。一方的と言ったら、言い方がきつくなってしまうけど、正直そんな感じだった。


「あらあら~私達の前でイチャイチャしちゃって! これは孫も早く見れるかしら?」

「れ、レイカ様! 恥ずかしいからやめてください……!」

「もう、家族なんだから、よそよそしい呼び方は悲しいわ。そうねぇ……お母さんとか、母上とか、ママとか! うん、ママが良いわね!」

「せ、せめて母上で……」

「えー!?」

「そこまでにしなさい。お客人が来ているのだぞ」

「はーい……」


 さすがに怒られてしまった私とレイカ様は、その場でしゅんとなりながら謝罪をした。


 うぅ、レオ様の前で格好悪いことをしてしまった。失望されてたりしないわよね……?


「ああ、落ち込んでいる表情も可愛い……!」


 喜んでた!? ちょっとレオ様の趣味嗜好がよくわかりません! とにかく、怒られていなかっただけ良しとしよう!


「ところで、そちらの方は?」

「前に話していただろう? 家庭教師だ」

「あ、例の話の!」


 私の魔法薬学の勉強を見てくれる人が見つかったのね! あれから全然音沙汰が無いから、ちょっと心配していたの。


「初めまして。私はルーク・ライアンと申します。以後お見知りおきを」


 真っ白な髪を緩く後ろに流しているのと、眼鏡をかけた長身が特徴的な男性である、ルークと名乗った男性は、お辞儀をしてから、私と握手を交わした。


 若く見えるけど、歳はそれなりにいってそうだ。私の両親と同じか、それ以上……?


 それとこの人、どこかで見たことがあるような気がするんだけど……きっと気のせいよね。


「今日から家庭教師を務めます。魔法薬学はもちろん、他の教科も行う予定です。では、さっそく授業なので、自室に移動しましょう」

「あ、ちょっとだけ時間をください。あの、ローガン様、レイカ様、準備をしてくれてありがとうございます! 私、絶対に凄い魔法薬師になります! そしてレオ様も、一緒に頑張りましょう」

「ああ! 全ては俺達の幸せのためだ! まだまだ一緒にいられないけど、グッと耐えてくれ!」

「はいっ!」


 話したいことを話した私は、ルーク様と一緒に私が使っている客間へと入った。


「ルーク様、早速なにをされるんですか?」

「私のことは、先生で良いですよ。さて、まずはあなたの学力チェックを行うので、このテストをしてください」


 私の前に出されたテストは、魔法薬学だけではなく、国語や数学といった、魔法薬学に関係するものではない教科が混じっている。


 きっと全体的な学力を見たいのね。よーし、頑張って高得点を取ってみせるわ!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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