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第三十七話 レオ様のいない日々

「アメリア、君に話がある」


 学園に行こうと準備をしていると、レオ様が突然私のいる部屋にやって来て、静かにそう言った。


 急にどうかしたのかしら? 随分と重々しい雰囲気だけど……悪いことでもあったのだろうか?


「しばらくの間、俺はとある魔法を習得するために勉強することになってね。屋敷で一緒にいられる時間が取れなさそうなんだ」


 ……急に魔法を習得するだなんて、どうしたんだろう? レオ様がそんなことを言いだすなんて、初めてのことだわ。


「それと、しらばく学園では一緒にいられない」

「ど、どうしてですか?」

「俺達が仲良くしていたら、変にシャーロット達を煽ることになる。しばらく勉強で忙しい状態でそんなことをして、取り返しがつかないことになるのは避けたいんだ」


 レオ様は、気まずそうに顔を逸らしながら目を閉じる。


 本音を言わせてもらえるなら、一緒にいられる時間が減ってしまうのは寂しいし、心細いけど……レオ様の邪魔はしたくない。あの時みたいにずっと離ればなれになるわけじゃないし、頑張って我慢しよう。


「でも、これだけは信じてほしい。俺は君を裏切るつもりはない。魔法を習得したら、必ず一緒にまた過ごすと約束する!」

「はい、わかってます。レオ様は嘘をつかないって信じてますから」

「ありがとう。なるべく早く終わらせてくるから……」


 レオ様は私のことを抱きしめながら、申し訳なさそうに謝罪をした。


 レオ様が私を裏切らないなんて、言われなくてもちゃんとわかっている。でもそういうことをちゃんと口にして伝えてくれるのが、レオ様の良い所でもあり、信頼を寄せられる点でもあるわ。


「その魔法って、どんな魔法なんですか?」

「それは……ちょっと言えないんだ。ごめん」

「言えない魔法……凄く危険なのですか?」

「それは大丈夫。心配してくれてありがとう。アメリアは今も昔も優しいね」

「そんなことはありません。レオ様の方が優しいですよ」

「いや、アメリアの方が優しい!」

「レオ様の方が優しいです!」

「アメリアの方だ!」

「レオ様ですっ!」


 体を密着させながら、顔を見合わせてよくわからない言い合いをしていると、どちらからともなく笑いだしてしまい、それ以上言い争いはしなかった。


「こんな言い争いなんてしてても、仕方がないね」

「そうですね。あぁ面白い」

「そうだ、最後に伝えておくことがあった。俺達の関係は絶対に他人に言ってはいけないよ。特に彼女達には」

「わかってます」


 大丈夫、ちゃんとそこに関してはわかっているつもりだ。私とレオ様が親しい関係になったとバレてしまえば、それをよく思わないシャーロット達に、なにをされるかわかったものじゃないもの。


 わかってるけど……気を抜いてたら、普通にレオ様に話しかけてしまいそうだ。気をつけておかないとね……。




 ****



 レオ様からしばらく一緒にいられないと聞いてから一週間後。私は本当にレオ様と一緒にいられない時間を過ごしていた。


 学園では、昼休みも放課後もレオ様と一緒にいたのに、あの日から一度も一緒になっていない。住んでいる所が一緒なのに、登下校も別という徹底っぷりだ。


 屋敷でもレオ様はとても忙しそうで、中々一緒にいられないが、少しだけ時間が取れた時は、私とお茶をしてくれたり、おしゃべりをしてくれる。


 とはいえ、寂しくないと言ったら嘘になる。せっかく一緒に住むようになったのだから、もっと一緒に過ごしたいのだけどね。


「ワガママを言っても仕方ないか……さっさと帰ろう」

「あらあら、今日も一人で寂しそうですこと」


 荷物を纏めて帰ろうとしたところに、フローラが取り巻きを連れて私に話しかけてきた。私が一人でいるのがよほど愉快なのか、とても良い笑顔だ。


 実はこの一週間の間、私が一人でいるところに、フローラやシャーロットがわざわざ話しかけて来て、私を馬鹿にしてくる日々が続いている。


 でも、レオ様と一緒にいた時みたいな、強硬手段に出ることは無くなった。これでもし一緒にいたら、レオ様の危惧していた状態になっていたかもしれない。


「シャーロットが言っていた、新しい惨めな生活には、慣れましたか?」

「いえ、まだまだね。本当に苦労が絶えないわ。出て行ったことを後悔しているくらい」

「それは大変ですわね! 陰ながら応援しておりますわ!」

「ええ、ありがとう」


 なるべく酷く疲れたような雰囲気を出しながら答えると、フローラ達はとても満足したようで、笑顔でその場を後にした。


 ああやって人の不幸をわざと煽るようなことをして笑うなんて、本当に理解したくないし、できれば関わりたくない相手ね。


 ……私の場合は、関わり合いたくないと心の底から思っていても、向こうから来るからどうしようもない。


 まあ今は彼女達のことはどうでもいいわね。レオ様も授業が終わってすぐに出て行ったようだし、私もいつもの所に行きましょう。


「こんにちはー」


 いつも通り、旧別館のいつもの教室に入る。返事は帰ってこないけど、シャフト先生は今日も隣の部屋で実験かしら? ちょっと質問したいことがあったんだけど……。


「シャフト先生……って」


 いつもシャフト先生がいる準備室へと入ると、机に突っ伏して倒れていた。


 もしかして、なにか実験に失敗して苦しんでるとかじゃないわよね!? は、早く状況を確かめないと!


「先生! しっかりしてください!」

「……ふごっ」

「ふご?」

「ごー……ぐー……」

「寝てるだけじゃないのっ!!」


 もう、心配して損したわ! 普段から寝る間も惜しんで実験ばかりしてるから、限界が来て寝落ちしたって、わかってるのかしら!


「……すまなかった……ワシは……一緒……」

「シャフト先生?」

「……あ? あぁ……アメリアか。ワシは何をしていた?」

「疲れて眠ってましたよ」


 寝ぼけ眼を擦りながら問うシャフト先生に簡潔に答えると、チッと舌打ちをしながら、葉巻に火をつけた。


「寝てただぁ? ワシとしたことが居眠りとは、歳は取りたくねえもんだ。んで、今日も青二才は不在か」

「はい」

「そうか。来なくなってからそれなりに経つが……静かすぎるのが、変に思う体質になっちまった。お前は騒げないんだから、さっさと戻るように伝えておけ」

「あの……聞かないんですか?」

「何をだ?」

「レオ様がここに来なくなった理由」


 シャフト先生は、ああ……と、吐息に近い声を漏らしてから、鼻から沢山の煙を吐き出した。


「別に興味が無いからな。ほれ、お前はさっさと勉強でもしてこい。本棚に、お前が欲しがってた魔法の本も届いてたぞ」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 随分前からシャフト先生に取り寄せてもらっていた本が、ようやく届いたのね! ふふっ、この著者の方が書く本は、とてもわかりやすくて勉強に最適なの!


 よーっし、レオ様がいない寂しさを勉強する力に変えて、今日も頑張るわよ!!


 って……あれ、シャフト先生に何を質問したかったんだっけ……驚いた衝撃で、完全に忘れちゃったわ……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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