第三十三話 告白
レオ様の胸の中でしばらく泣いた私は、ようやく少し落ち着くことが出来た。今はレオ様が使用人に頼んで持ってきてもらった紅茶を飲みながら、一息入れているところだ。
「アメリアが落ち着いてくれてよかった」
「ごめんなさい、酷く取り乱してしまって」
「いろいろあったのだから、取り乱さない方が不思議だよ」
突然泣いて来たというのに、レオ様はいつもの様に優しく笑っていた。その笑顔を見ていると、心の底から安心できて、私も笑顔になれる。
「いろいろ聞きたいことがあるんですけど」
「なにかな? アメリアの頼みなら、俺は何でも答えるよ」
「ありがとうございます。えっと、レオ様は転校初日から、私のことに気づいていたんですか?」
「初対面の時はわからなかったよ。ただ、とても寂しそうだったから、声をかけた。昔の君なら、そうしていただろう?」
レオ様の問いに、私は小さく頷いて見せる。
確かに幼い頃の私は正義感に溢れていたから、一人ぼっちでいるところを見たら、声をかけていたに違いない。
「今の俺の振る舞い方は、幼い頃の君のような姿を目指したものなんだよ」
「なんだかそう言われると、照れてしまいます」
「照れるアメリア……とても貴重な顔を見てしまった! これは俺の心に永久保存だな!」
「保存しなくていいですから!!」
さっきまでとは打って変わり、いつものような会話になりつつある。それが何よりもかけがえのないものだって今更気づくなんて、私は本当に馬鹿ね。
「それで声をかけて、名前を聞いた時……まさかと思ったよ。それで、あの栞を見て確信したというわけさ」
「そうだったんですね。それじゃあ、本当に偶然が重なりに重なったんですね」
「うーん、少しだけ俺の努力があったおかげかな? あはは」
努力? 私と会うために、なにかしてくれたのだろうか?
「疑問に思わなかったかい? 勉強嫌いな俺が、どうしてアドミラル学園に入学できたのか」
「それは……ちょっと思いました」
「だろう? 俺がアドミラル学園に入ろうとした動機が、君に会うためだ」
「でも、私がアドミラル学園にいるなんてご存じではなかったですよね?」
「もちろんそうだ。でも、幼い頃に君が身分が高いのは服装でわかってたし、勉強を頑張ってるのも聞いていたからね。よほどのことが無い限り、アドミラル学園にいると思ったのさ。気持ち悪いだろう? ははっ」
自嘲気味に笑うレオ様に、私はそんなことはないと即座に否定をしながら、首を何度も横に振った。
「でも、凄いですね……私なんかに会うために、名門のアドミラル学園に入るなんて」
「君が俺との一件で魔法薬学を勉強していたように、俺も心に深く刻まれていたんだよ。短い間だったけど、俺を支えてくれた愛する君と再会して、恩返しをするってね」
「そうだったんですね……え? 愛する?」
その言葉は、普通は恋人や想い人に言ったり、大切な家族に言う言葉だろう。友達である私には、相応しくない言葉だ。
相応しくない……そのはずなのに、言われて凄く胸がドキドキしている。
「も、もうレオ様ってば。友達相手にその表現は少し重いですよ?」
「あー……その件も謝らないといけないね。俺……実はアメリアと友達になんてなりたくなかったし、今もその関係を続けたくない」
「え?」
「あの時……友達と言ってしまった時の俺は、君に気づいてもらいたかった俺だ。だから、咄嗟に友達と言って誤魔化してしまった。でも本当は……幼かった頃から、君のことを愛していた。もちろん、異性としてね」
予想もしていなかった愛の告白。それは、私から思考をごっそりと奪っていくのに、あまりにも十分すぎた。
「つまり俺は、好きな人にただ会いたくて、恩返しをしたくて、支えたかっただけなんだ。それはあの頃も今も、そしてこれからも変わらない気持ちなんだ」
「…………」
「自分でも重いと思うけどね。引いちゃっただろう?」
「そんなことはないです!」
すぐにレオ様の言葉を否定してから、私の頭に嫌な考えが過ぎった。
私なんて、所詮は無能で見捨てられた人間。そんな私が、レオ様に会いの告白なんてしてもらう資格なんてないんじゃないかと。
「そんな暗い顔をしないでくれ」
「…………」
「君のことだから、私なんてって思ってるってところかな」
「すごい、なんでわかったんですか?」
「アメリアのことなら、大体はわかるさ」
にっこりと笑ってみせてから、すぐに真剣な表情に戻しながら立ち上がったレオ様は、まっすぐ私を向いた。
「俺は……アメリアのことを愛している。だからこの手を取ってほしい。そして、これからもずっと傍で支えさせてほしい」
「…………」
私は自分の手が震えているのを感じていた。それは恐れからではない。嬉しさや、告白への緊張のせいで、手がとても震えてしまっている。
「最近、レオ様といると凄く楽しくて、もっともっと一緒にいたいって思うようになってました。その気持ちが、先程の言葉でわかりました。私も……あなたを愛しています。幼い頃の可愛いあなたも、大きくなったカッコいいあなたも、大好きです」
「アメリア……!」
レオ様の手を取りながら、生まれて初めての愛の告白をする。自分でも、この告白は幼稚でヘタクソなものだと思う。
でも……私の想いが少しでもレオ様に伝われば良いと思うの。
「ありがとう、アメリア。俺も大好きだよ」
「レオ様……」
「俺と、結婚を前提に付き合ってくれないか?」
「はいっ!」
即答だった。それくらい、私ははしゃいでしまっていた。こんな気分になったのは、幼い頃でもあったかどうかってくらいだ。
「レオ様……」
「アメリア……」
一人ではしゃぐ私の肩を掴んだレオ様は真っ直ぐ私の方を向いたまま、少しずつ顔を近づいてくる。
さすがに馬鹿な私でも、今しようとしていることはさすがに理解できる。まだ緊張しているけど、レオ様となら全然良いと思える。
だから……私は静かに目を閉じて、少しだけ顔を前に出した。
「…………」
「…………」
「……ぶはぁ!!」
「え、レオ様??」
てっきりキスをすると思って身構えていたのに、レオ様は大きく息を吐きだしながら、私に背中を向けた。
「あの……もしかして私とじゃ……嫌ですか?」
「違う! 俺は君しか見えない!」
「そ、そうなんですね。でも、今の流れでは、むしろキスする流れだったのでは?」
「それはそうだ。でも、いくら俺達の気持ちがわかり合えたとはいえ、まだ結婚もしていない身でキスだなんて早すぎる。俺はこれまで以上に、アメリアを大切にしたいからね」
レオ様の持論が、なんていうか……とても真面目で可愛らしいなと思ってしまった。そう思ってしまったら最後、私はおかしくて笑いが止まらなくなってしまった。
「な、そんな笑うことないだろ!」
「だ、だって……レオ様が可愛らしくて……うふふ……!」
笑ってはいけないのはわかってるのに、可愛いレオ様のギャップがすごくて……面白いし可愛いしで、顔のにやけが止まらないわ!
「それじゃあ、これくらいならどうですか?」
「ん? あっ……」
ちょっとだけふくれっ面のレオ様の頬に、優しく唇でチョンッとした。
うぅ、咄嗟にしてしまったことだけど、結構恥ずかしいわね……って、レオ様の顔が真っ赤になってるわ!
「ふっ……ふふふ……俺、もう死んでもいいかもしれない……」
「まだ死ぬには早すぎますから!」
「もう十分だ。愛も確かめ合えたし、もう満足……がくり」
「レオ様ーーー!! って、そんなんで死ぬわけないんですから、しっかりしてください!」
「もう、アメリアはノリが悪いな。それではモテないぞ?」
「どうでもいいですよ、そんなの。私にはレオ様がいらっしゃるので」
「嬉しいことを言ってくれるなぁ!!」
「きゃあ!? 抱きつかないでください! あと頬ずりも!」
今まで散々私への愛情を溜めていた分を爆発させたのか、なんだかコミュニケーションが激しい気がするわ! 私も人のこと言えないけど!
……でも、たまにはそういうレオ様を見るのもいいかもしれないわね。
「そうだ、このことを両親に伝えなくては!」
「えぇ!?」
まだレオ様のご両親と話すのに緊張するのに、もうプロポーズの報告だなんて……さすがにハードルが高すぎないかしら!?
「大丈夫! 俺の気持ちや君については、両親は既に知っているから!」
「知ってるんですか!?」
あ、もしかしてご両親が私に良くしてくれたのは、私のことを知っていたから……!?
「君がいない時に、母上がいつお嫁さんに貰うんだって散々聞いてきてさ! 父上も、彼女なら俺を任せられるって、とても乗り気で困ったものさ!」
「言われてみれば、レイカ様はレオ様に嫁ぐような言い回しだったような……でも、ローガン様は私のことをレオ様の友達だと……」
「そりゃあ、父上の口から真実が語られたら、元も子もないだろう? だから友達ってことにしてくれたんだよ、きっとね」
そうだったのね……ということは、あの時には既に私の身定めが始まっていて、奇跡的に合格が出来たということね。本当に運が良かったわ。
「というわけで、行こうか!」
「まだ心の準備が……!」
「大丈夫、俺が支えるし、俺が何とかするから! さあ!」
「……はいっ!」
私はレオ様と恋人繋ぎで部屋を出て、ご両親の寝室へと向かって歩き出す。その途中、使用人達から黄色い声援が飛んだり、祝福の声が聞こえてきた。
きっと皆様も、レオ様の気持ちや目標を知っていたのだろう。それをこの恋人繋ぎを見て、達成されたと判断したのだろう。
本当に暖かい家だ。私の家とは真逆と言ってもいい。そんな家の方々に歓迎され、祝福してもらえるなんて、幸せだ――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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