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第二十八話 お姉様の弱点

 数日後の朝、私はフカフカのベッドの上で目を覚ますと、大きく体を伸ばした。


 私が寝ている部屋は、レオ様の家の客間……以前にも使わせてもらった部屋だ。


 どうしてこんな所にいるのかって? あの後、保健室でレオ様とお話をしたのだけど……。


『今回のことで、シャーロットはまた君に嫌がらせをしてくる可能性がある。数日は家に帰らない方が良いと思うよ』


 というアドバイスに従って、フィリス家でお世話になっているというわけだ。


 ただ、お世話になりっぱなしなのも申し訳ないので、少し早めに起床をして、使わせてもらっている部屋を毎日掃除して綺麗にしているの。


 私にはこれくらいのことしか出来ないけど、しないよりは良いと思う。


「さてと、着替えを済ませてしまおう」


 いつもなら、使用人が来て手伝ってくれるんだけど、今日はもうすることが無くて暇だし、待ってる時間がもったいないからね。


「んしょっ……」


 借りてきている薄いピンク色のネグリジェを脱いで、下着姿になった瞬間に、部屋のノックが聞こえてきた。


 もしかして、いつもの使用人のお手伝いかしら。やってもらうのはもうしわけないけど、好意を無駄にするのも気が引けるわ……。


「どうぞ」

「失礼するよアメリア!」

「え、レオ様!?」


 入ってきたのは、使用人じゃなくてレオ様だった。いつもの笑顔で入ってくるレオ様を出迎えたのは……ネグリジェを脱いで下着姿の私……。


「あ、あのあの……あわわわ……」

「ご、ごめん!! 決してわざととかじゃなくてだね!」


 レオ様は背中を向けてから、必死に言葉を並べようとする。


 しかし、とんでもないハプニング発生で、私の頭の中は真っ白になってしまっていた。その影響で、何も出来ずにただその場でペタンと座ることしか出来なかった。


「アメリア? なんかペタンって音がしたけど大丈夫かい?」

「だ、大丈夫……です」

「そうか。と、とりあえず何か着てくれると助かるかな……」


 着る……そ、そうよね。ここでこうしていても仕方ないし、何でもいいから着ればいいのよ。混乱し過ぎよ私。しっかりしなさい。


「もう大丈夫です」


 簡単に着替えが出来ると思い、さっきまで着ていたネグリジェに再び袖を通した。それから間もなく、顔を真っ赤にしたレオ様が、こちらを向いたと思ったら――


「本当にごめん!!」


 ――土下座をしてきた。それも、美術のデッサンでも使われそうなくらい、綺麗な土下座だわ。


「俺はまだ未婚のうら若き乙女の肌を見てしまった……かくなるうえは、死んで償いを……!」

「重い! 重すぎますから! 全然気にしてませんから! そもそも、私が使用人が来たって勘違いしたのが原因ですし!」

「俺が気にするんだ!!」

「もう、変なところで頑固なんですから!」


 結局その後、私達は朝から賑やかに過ごし、アドミラル学園へと登校した。


 最初は私がレオ様と一緒に登校――しかも同じ馬車だったから、注目を浴びていたけど、今では特にそういったことはないみたい。みんな順応が早いわね……。


「みんなおはよう!」

「おはようございます」


 教室に入るや否や、レオ様は大きな声でクラスメイト達に挨拶をする。それに続いて、私も挨拶をするけど……レオ様の時にあった返事が、私の時には無かった。


 そうよね、前からクラスメイト達にも好かれていないのに、挨拶をしたって返ってくるわけないわよね。私ったら、なに馬鹿なことを期待してたんだろう。


「…………」


 嫌なことって重なるものね。自分の机に行ったら、何かでズタズタにされてるし、ビチョビチョに濡れていた。


 またくだらない嫌がらせね。レオ様と出会ってから、こういった類のものが無くなっていたから、久しぶりに感じるわ。


「アメリア、それは……」

「いつものことよ。犯人が誰かもわからないし」

「わからない? それは冗談で言っているのかな?」

「想像にお任せします。でも、大事にするのは控えてください」

「うっ……わかってるって」

「……?」


 どこからか、視線を感じる。その方向を向くと、そこな教室の入口だった。そこに立っていたシャーロットとフローラが、私のことを見ながらニヤニヤと笑っていた。


 あそこまで隠す気ゼロだと、むしろ清々しい。それに、いつも以上に嬉しそうだ。


 実はここ数日、またあの二人に嫌がらせをされないように、レオ様がいつにも増して、ずっと私と一緒にいてくれた。


 どうしても男女別の授業で離れる時は、なるべく先生の近くにいるようにした。ほんの少しでも牽制になればと思ってね。


 その甲斐があってか、嫌がらせを受けない日々が少し続いた。まあ……今日こんな感じにされてしまったけどね。


「アメリア、先生に机を変えるようにお願いしてきたよ」

「ありがとうございます。それじゃあ一時間目は美術ですから、美術室に行きましょう」

「うん、わかった」


 レオ様は、シャーロット達のことを、視線だけで殺す勢いで睨みつけてから、私と一緒に美術室へと向かっていった――



 ****



■シャーロット視点■


「久しぶりに嫌がらせをしてやれたけど、全く物足りないわ!」


 お姉様に久しぶりに嫌がらせをした日の昼休み。あたしはフローラと一緒に、学園の中にあるカフェテラスで昼食をとっていた。


 あの生意気なお姉様が、もっと悔しがったり悲しんだりしたりする姿を見たいのだけど、元々お姉様は嫌がらせを受け入れている節があって、あまり感情を表に出さない。


 それに、あの男……レオ様がお姉様にべったりなせいで、この前みたいに直接何かをしたくても、そのチャンスが全然巡ってこない。男女別の授業でも、全然隙が無いし、あのペンダントも厄介だ。


 ああもう、あたしはお姉様で気持ちよくなりたいだけなのに、どうしてあたしの思い通りにならないのかしら!


「なにか新しい方法を考えないとダメかもしれないですわね」

「新しい方法って?」

「それはわかりませんわ。でも、今の方法では私達の目的は達成出来ません。なにか決定的な弱点を見つけないと」

「それはそうだけど……」


 別の方法って言われても、どうすれば良いのかな? あたしの思いつく方法だと、お姉様が傷つくイメージが湧かないし、レオ様に邪魔される気しかしない。


「私達は、彼女のことをあまりよく知らないのが原因かもしれませんわ」

「え? あたし、一応妹だよ? お姉様のことなら大体知ってるけど……」

「それでも、知らない弱点があるかもしれません。だから、少し時間はかかるかもしれませんが、彼女の弱点を探してみましょう」


 フローラはそう言うと、掌に小さな魔法陣を展開させる。それから間もなく、小指の先よりも小さい生き物が現れた。その姿は、まるで小さな虫の様だった。


 これ、フローラの魔法なの? フローラとは友達をして結構経つけど、こんな魔法を使えるなんて知らなかった!


「この虫みたいなのはなんなの?」

「実際に見てもらうのが早いですね。行きなさい!」


 虫のようなものは、フローラの命令に従って何処かへと飛んでいった。ああやって飛んでいると、本当に虫にしか見えない。


「これを見てください」

「どれどれ?」


 フローラがテーブルの上に魔法陣を出現させた魔法陣を覗くと、中心の部分がテーブルではなくなっていた。


 なんて言えばいいのかな? 景色が反射してる水を見てるって感じ? でも、その景色はここではなく、アドミラル学園の中央広場だった。


「これは偵察用の魔法ですの。さっきの虫が見た光景、聞いた音を魔法陣を通してみることが出来ますの」

「へぇ……なんでそんな魔法が使えるの? こんなの、授業で教わってないよね?」

「お父様から教わりましたの。理由は……秘密ということで」


 フローラは、あたしに意味深にウィンクをしてみせる。


 秘密って言われると、聞きたくなっちゃうのが人間というものだけど、友達を困らせるわけにはいかないよね! でも気になるから、今度バレないように聞きだしてみよっと!


「わかったわ! これを使って、お姉様のことを調べ上げるってことね!」

「その通りでございますわ」

「良い案ね! なんか最近家にいないことも多いみたいだし、丁度良い!」


 ふふっ、フローラったら最高の方法を出してくれるじゃない! 本当に良い子と友達になれたものね!


 さあ見てなさいお姉様! 調子に乗った罰をすぐに与えてあげるんだから!

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