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第二十三話 父親の不器用な愛情

「苦しい……お腹がはち切れそう……」


 客間へと案内された私は、使用人に手伝ってもらいながら着替えた後、重くなったお腹をさすりながら椅子に座った。


 なんだか、最近食べ過ぎで苦しくなることが増えてる気がする。ほんの少し前は、まともな食事すらしてなかった私がこんなふうになるなんて、想像もしてなかったわ。


「アメリア、今日はこの部屋を自由に使っていいよ。それと、なにかあったら枕元のベルを鳴らしてくれ。そうすれば、使用人がこの部屋に来るから」

「わかりました。それで、その……本当に今日はよかったのでしょうか?」

「うん。父上と母上にちゃんと了承してもらってるから、気にしないで大丈夫。それじゃあ、俺は部屋に戻るよ」


 え、もう帰ってしまうの? レオ様のことだから、てっきり寝る間際まで私と一緒にいると思い込んでたから、少し意外だ。


「おや、随分と寂しそうな顔をしているね」

「し、してません」

「俺も本当はずっと一緒にいたいけど、明日も平日だから、そろそろ休まないと。それに、アメリアがうちに来るのは今日限りってわけじゃないしね。それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 レオ様は小さく手を振りながら、客間を後にした。


 ……ん? さっきのレオ様は、私がまたここに来る前提で話していたような? お呼ばれしたらまたお邪魔するかもしれないけど、何度もお邪魔したら絶対に迷惑だと思うのだけど……。


「……とりあえず少し勉強をしてから、休もうかしら……あら?」


 椅子から立ち上がったとほぼ同時に、部屋の扉がノックされた。もしかして、レオ様が戻ってきた?


「はーいって……え?」

「失礼する」


 部屋にやって来たのは、まさかのローガン様だった。先程と全く変わらず、無表情で部屋の中に入ってきた。


 い、一体何の用だろう。もしかして、知らないうちに何か失礼なことをしてしまっていたとか?


「座りたまえ」

「はい」


 ローガン様に促されて、再び椅子に座ると、ローガン様も同じように椅子に座った。


「…………」

「…………」


 ――沈黙がつらい。私、何を言われるのだろうか? 何か言われる前に、私から話を振った方が良いのだろうか? うぅ、何が正解なのか全くわからない……。


「アメリアといったな」

「は、はい」

「レオとはどういう関係なのだ?」

「どういうと仰られても……」

「レオからは、とても親しい女性だと聞いている。やはりそういう関係なのか?」

「いえ。先程レイカ様にもお伝えしましたが、私とレオ様は級友です」


 ローガン様がどういう回答を期待してるのかわからない以上、正直に答えるしかなかった。これでもし怒られたとしても、仕方ないと割り切るしかない。


「そうか」


 あれ……怒らなかった。それどころか、何となく安心したような雰囲気に見えるのは、私の気のせいだろうか。


「新しい環境で、周りに馴染めるか心配をしていたが……君のような級友がいて安心した」

「ローガン様は、レオ様が心配で私に直接聞きに?」

「それもある。だが、息子が選んだ友がどのような人間か、二人きりで話してみたかったのもある」


 さっきレオ様が、ローガン様はいつも家にいないと仰っていた。それくらい忙しい方なのに、わざわざレオ様のために私に会いに来たなんて……やっぱりこの方も、レオ様のことを心配し、愛しているのね。


「そうだ、まだ感謝のお言葉をお伝えしてませんでした」

「感謝?」

「はい。今日は突然のことだったのに招待していただき、ありがとうございました。そして、急にお邪魔して申し訳ございませんでした。それを、言いそびれてしまっていたので」

「なんだ、そんなことか。先程も伝えたが、息子が初めて友人を連れてきたいと言って、歓迎しない親はいないだろう」


 それはあくまでローガン様達が、レオ様を愛しているから出来ることだ。同じ状況がうちで起こったら、体裁を保つためだけに歓迎した後、面倒なことをさせるなと怒鳴るだろう。


「レオは普段学園でどんな感じだ?」

「とても明るくて社交的で、クラスの人気者ですよ。転校初日から、多くの人に囲まれていたのに、嫌な顔一つしてませんでした」

「そうか」

「ご本人から聞いてないんですか?」

「仕事の関係で会える機会があまり無くて、詳しく聞けていなくてな。それに、父である私から根掘り葉掘り聞くのは、気恥ずかしさがある」


 恥ずかしいって……厳格そうな見た目だけど、可愛らしい一面も持ち合わせているのね。レイカ様もそうだったけど、そういうギャップを知ると親しみやすくなる。


「葉巻、良いかね?」

「あ、はい。どうぞ」


 ローガン様は懐から葉巻を取り出すと、指先から小さな炎を出し、葉巻に火をつけた。


 今のは、簡易的な炎魔法ね。簡易的とは言っても、普通ならあるはずの魔法陣も詠唱も無かったから、知らない人から見たら、突然指先から炎が出たように見えるわ。


「君だから話すが……息子は昔、気難しい子だった。そのせいで、友は一人も出来なかった。多少大きくなってから、今のようになったが……今度は突然アドミラル学園に入学したいと言い出し、勉強に明け暮れるようになった」

「そうだったんですね」


 あんなに気さくに話しかけてくれる方が、昔は気難しいだなんて信じられないけど、ローガン様が言うのだからそうなんだろう。


 ……あれ、よくよく考えると、私達ってなんとなく逆の道を辿っているのね。幼い頃の私は明るく元気で、今は大人しくなってるけど、レオ様は気難しい性格から、明るくて元気な性格になっている。


 まったく、変なめぐりあわせもあるものだわ。


「無理にとは言わん。関係を変えろとも言わん。ただ……もし君が良ければ、これからも息子と仲良くしてくれると嬉しい」

「私なんかでよろしいのでしょうか? 自分で言うのもなんですが、私はこれといった取り柄がない、ただ勉強を……特に魔法薬学をたくさん勉強をしてるだけの、落ちこぼれです。そんな私が、侯爵家のご子息様の友人をこれからも続けるのを許してくれるのですか?」

「大切なのは気持ちだ。取り柄など関係ない」


 気持ちか……うん、最初はなんで話しかけてくるのかわからなくて困惑したけど、今はもう友人として、彼と一緒にいたいと思うようになっている。この気持ちが大切ってことよね。


「わかりました。私、これからもレオ様と一緒にいたいので」

「そうか、ありがとう。これからも末永くよろしく頼むよ」

「話は聞きましたわー!!」


 バンッ!! と大きな音と共に、扉が勢いよく開くと、そこには右手をビシッと前に突き出したレイカ様が立っていた。


 来られるのは良いんだけど、登場の仕方が独特すぎて、ついていけないのだけれど??


「レイカ、どうした」

「あなたの姿が見えないから探してましたのよ。そうしたら、ここからあなたの匂いがしましたのよ」

「匂いで探したんですか!?」

「それくらい余裕ですことよ?」


 そんな芸当が出来るのは、犬くらいだと思うんだけれど……あとは嗅覚強化の魔法

とか? 聞いたことはないけど、存在しないという保証はない。


「それで邪魔しないように立ち聞きをしておりましたが、末永くと聞いて、居ても立っても居られなくて!」

「盛大な勘違いです!!」

「えー!?」

「はぁ……すまない。妻は少々変わっている。それに、走りだしたら止まらないタイプでな……悪人ではないのだ。許してやってほしい」

「大丈夫です。彼女もとても優しさに満ち溢れた、素晴らしい方だと思ってますので」

「まあ優しい子っ! うちの子になりますか?」

「……ふひゅう……」


 レイカ様の問いに答えを返したくても、私は今、レイカ様に強く抱きしめられてしまった。これでは息を吸うのも一苦労だわ。


「ぶはっ! そんな、なりませんよ……ご迷惑になってしまいます」

「別に迷惑じゃありせんことよ?」

「さて、少し話もできたし、我々は休むよ。君もあまり夜更かしはしないようにな」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」

「おやすみなさ~い。あ、アメリアちゃん。今度は私達だけで話しましょうね」

「わ、わかりました」


 去っていく二人を見送りながら、私は深々と頭を下げた。


 あの方、愛情表現が独特だから、事前に構えてないと心臓に悪そうね……。


「……はぁ……こんな沢山話したのって、いつぶりだろう」


 ここに来る前も話したし、散歩や食事でも沢山話した。そしてここでも話して……話すだけでも体力を使ったのか、眠くなってきた。


 久しぶりに温かくて良い一日で終われるから、たまには良い夢を見たいわね――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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