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第二十二話 真逆の家族

「えっと、これは……?」


 レオ様と庭での散歩を楽しんだ後、使用人に呼ばれてついていくと、そこは食堂だった。


 それは良いのだけど……用意されている料理の数が凄い。十人以上いても食べきれない量はあるだろう。一体何をどうすればこんなことになるのか、皆目見当もつかないわ。


「さすがに作り過ぎじゃないか……? なるべく多くの種類をお願いしたけど、ここまでしろとは言ってないぞ?」

「え、レオ様が指示したことじゃないんですか?」

「したはしたけど……こんな量を作れとは……」

「それは私が指示したことですわ」


 目の前の光景に二人して唖然としていると、突然背後から女性の声が聞こえてきた。それに反応して振り返ると、そこには青い髪の女性が立っていた。


 なんて綺麗な人……佇まいも凛としていて、見惚れてしまうくらい美しい。


「初めまして、私はレイカ・フィリス。レオの母ですわ」

「レオ様のお母様!? は、初めまして。アメリア・スフォルツィと申します」


 レイカと名乗った彼女は、スカートに裾を持って優雅にお辞儀をする。それに続いて、私も同じように頭を下げた。


 レオ様のお母様だとは思ってもなくて、ぎこちない挨拶になってしまった……情けない。


「レオから話は聞いているわ。本当に愛らしい子ですこと!」

「え、えぇ……?」


 出会ってから間もないというのに、レイカ様は私の頭をワシャワシャと撫でてきた。


 なんというか、距離の詰め方が独特というか、既視感があるというか……ああそうか、レオ様に似ているんだ。レオ様はこんな風に頭を撫でてはこないけど、愛想の良さがよく似ている。


「この子と付き合ってくれてありがとう!」

「え?」

「レオと付き合ってるのでしょう?」

「いえ、級友です」

「まあそうだったの? レオを見ていた感じだと、もう付き合ってるとばかり。でもレオは全然諦めるつもりは――」

「わぁぁぁぁ!!」


 レオ様は、レイカ様の声を遮るように、彼女の口を抑えながら大きな声を出した。


 一体何を言おうとしたのだろうか? 今の感じからして、レオ様としては言ってほしくないことだったみたいだし……そっとしておくのが良いわね。


「もう、急にびっくりしてしまいますわ。なんにせよ、その関係がいつか良い方向に改善されることを、心の底から願ってるわ」

「改善?」

「ええ。だって……私、あなたの可愛さを気に入ってしまいましたの! 是非うちの娘に!」


 レイカ様は私に抱きつくと、ナデナデと頬ずりの二段構えで攻めてきた。


 ほ、本当の親にだってこんなに愛されたことないのに、どうしてこうなったの!?


 あ、でも……なんかこうしてレイカ様に触れていると、安心できる……これが母親の温もり? こんなのすっかり忘れていたわ。だって、お母様にまともに触れたのって、十年くらい前の話だもの。


「母上! 少し落ち着いてください!」

「あら、私としたことが……お恥ずかしいことをしてしまいましたわ。さてと、楽しいお喋りはちょっとだけお休みしましょう。もうすぐ彼も来ますから、そうしたら食事にしましょう」

「彼って……?」

「俺の父上さ。普段は仕事で屋敷を空けていることが多いんだけど、今日は屋敷にいるから、顔を出せるんだよ」


 レオ様の説明を聞いていると、再び食堂の扉が開かれた。そこには燕尾服を着た男性が立っていた。鼻の少し下に髭を蓄え、キリッとした黒い目元は、見てると少々委縮してしまう。綺麗にセットされたツンツンのオールバックは、若さを演出している。


「父上! 彼女が前に話した、アメリアだよ!」

「そうか。ローガンだ。よろしく」

「は、はい! アメリア・スフォルツィと申しますわ!」


 レオ様のお父上であるローガン様は、険しい顔つきのまま、私に手を差し伸べる。それに対して、私は恐る恐るではあったけど、彼の手を握った。


「……これは、なんだ?」

「レオが初めて彼女……ごほん、友人を連れてくると聞いて、急いで作らせたものですわ」

「…………」

「あ、あの! 多少は残ってしまうと思うんですが、頑張って食べますので……!」


 テーブルの上に置かれた大量の料理を見たローガン様は、特に何か怒ったり、笑ったりもせず、ただ静かにテーブルについた。


 さっき話した時も思ったけど、この人って凄く寡黙な方なのかしら? 私の父親も、仕事のこと以外は喋らない人だから、ちょっとだけ親近感がわく


「無理をする必要は無い。好きなだけ食べれば良い」

「で、でも……」

「気にするな。残ったら、妻が全て食べる」

「この量を!?」

「まああなたったら、酷いんですから! この程度じゃ全然足りませんことよ?」

「た、食べ切れるどころか足りないんですか……??」

「母上なら、これの五倍は行けるんじゃないかい?」

「母なら十倍は行けますことよ!」


 なんだかわからないけど、親子でいかにレイカ様が食べられるかの論争が始まった。その隣では、ローガン様が食べはじめる声かけをしようと、静かに待っていた。


「あの、その話はまた後日にしましょう。ローガン様がお待ちですので」

「あ、そうだったね……申し訳ない、父上」

「ごめんなさい、あなた」

「気にしていない。さあ、今日もこの料理の準備に関わった者や動植物全てに感謝を込めて、いただこう」


 ローガン様の音頭の後、各々で好きな物を食べ始める。そんな中、私は一体何から食べれば良いのかわからず、ただ料理の山を見ることしか出来なかった。


「あら、食べませんの?」

「おいしいよ?」

「食べたいんですけど……こんな凄い料理を見たのが久しぶり過ぎて……どれから食べればいいか……」


 私の家での食事なんて、硬くなったパンを見繕って回収し、残飯として捨てられる運命のものを横から取って食事にしている。言ってしまえば、とても貴族の食事とは言えない。


 だから、こんな美味しそうな料理を数えきれないほど出されたら、混乱してしまうに決まってる。


「…………」


 どうするべきか考えていると、突然私のお皿やナイフとスプーンが浮かび上がった。そして、浮かんだ食器を使って、料理を適当に皿に乗せて戻ってきた。


「今のは、ローガン様ですか?」

「ああ。食えそうなものがあったら食うと良い。駄目ならまたよそる」

「そんな、申し訳ないです!」

「お前は……息子の友人だ。そして、息子が初めて友人を連れてきた。それを歓迎しないのは、末代までの恥になる」


 それだけ言って満足したのか、ローガン様はゆっくりとスープを口元に持っていった。


 レイカ様もだったけど、ローガン様も過保護な感じがするわ。この二人がいたからこそ、レオ様が誕生したと思うと、なんだか納得してしまう。


「ほらアメリア! 甘いものを持ってきたよ!」

「私は美味しいぶどうジュースを持ってきたわよ!」

「お二人共、お気持ちは嬉しいですが、自分でやりますから……って、そのぶどうジュース、ワインじゃないですか!」

「あら、立派なぶどうジュースよ? あなたは私の酒が飲めないんですか!!」

「え、えぇ~……」

「母上、ドン引きしてますよ……」

「冗談ですよ。こっちのは本当に大丈夫ですから。一緒にのんびり、楽しい食事にしましょう」


 全てを包み込んでくれるような、優しい笑みを浮かべるレイカ様に、いつもの様に明るく接してくれるレオ様。そして厳格ながらも、私のことを考えてくれて手を差し伸べてくれるローガン様。


 この家族は、とても温かい家族なんだろう。それは、本当に素晴らしいことで……羨ましくもある。


 私も、こんな温かい家庭で育ってみたかった。暮らしてみたかった。そんなの、何度思って、何度無理だと諦めて涙を流して……いつか涙が枯れ、心も消えかけていき、いじめっ子や家族に立ち向かう意思すらも無くなっていった……。


 ……そう、レオ様に会うまでは。


 レオ様に会ってから、私の冷え切った心に温かい日差しが入るようになった。枯れ果てた涙も、彼の優しさで潤ったのがよくわかる。


 それと同時に……今までよりも、感情をもっと強く表現できるようになった気がする。


「……ふふっ……」

「っ!? アメリア、今笑ったよね!? しかも凄く!!」

「……わ、笑ってません」


 本当に久しぶりの笑顔が見られたのが、ちょっと恥ずかしくて……プイっと顔を背けてしまった。


「そんなことはない! 父上も母上も見ていたでしょう?」

「すまないが、見ていない」

「あなたったら、あんな愛らしい顔を見てないなんて! まるで生まれたての天使のような愛らしさだったわ! 絵画にして残したいくらい……そうだわ! 記憶が鮮明に残ってる間に、画家を呼んで描かせましょう!」

「えぇ!? それは大げさですよ!」

「客人を困らせるな」

「むぅ……あなたの意地悪」


 ……私が思ってた以上に、レイカ様には可愛い一面もあるのかもしれないわね……ギャップって凄い。


 あれ、何か忘れているような……そうだわ!! 皆様と話すのに夢中で、せっかく作っていただいた料理にほとんど手を付けられてない! 頑張って食べなきゃ!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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