第二十一話 あまりの美しさに
レオ様の家に招待。それは、私にとって全くの想定外で、未知の塊だった。
レオ様の家に行くの自体もそうだけど、お茶会とかパーティーとか、あくまで貴族として人の家に行くことはあっても、誰かの好意でお邪魔するのは、初めての経験だ。
それに、友達として家に行くというのも初めてだし……本当に私みたいな人間がお邪魔しても良いのかしら。
「急に伺ったら、ご迷惑では?」
「大丈夫、既に連絡したら了承してくれたから!」
「え、いつのまに?」
「伝声魔法さ。俺は家族限定だけど、伝声魔法を使えるんだ。厳密に言うと、母上の魔法なんだけどね!」
伝声魔法――確か、離れていても他の人と話せる魔法だったわね。かなり難しい魔法のはずなのに使えるなんて、レオ様のお母様は凄い方なのね。
初歩的な魔法ですら、まともに使えない私なんかとは、大違いね……。
「さあ早く行こう! 校門に馬車が待っているそうだからね!」
「そ、そんなに慌てなくても……」
「だって、初めてアメリアを家に招待できるんだよ? 気分が高揚して、抑えきれないんだよ! それに、両親も早く連れてこいってさっきからうるさくて、思わず魔法を切断しちゃったよ! さあ、行こう!」
もしかしたら、まだ残ってる学生や教師がいるかもしれないのに、レオ様は私の手を握って走りだした。
もう、どれだけ楽しみにしているのだろうか。私も……正直に言うと楽しみだし、こんなに歓迎してもらえると、いくら私でも嬉しくなる。
こんな気持ちになるなんて、本当に久しぶりだわ。レオ様と出会ってから、少し前の私と比べて、劇的に感情の変化が起きているのがよくわかるわね。
****
レオ様の家の馬車に乗りこんでから、さほど時間がかからずに、私達は大きな屋敷の前へとやってきた。
私の家も、一応男爵家だからそれなりに大きな屋敷と土地があるけど、さすが侯爵家……広さはもちろんだけど、装飾品や庭の美しさ、他にも多くの物が高水準で……私の家では足元にも及ばないだろう。
男爵と侯爵では差が大きいのは当然と言えば当然だけど、それを改めて突きつけられた気がする。
「おかえりなさいませ、レオ坊ちゃま。そしてようこそおいでくださいました、アメリア様」
「わわっ……」
レオ様に連れられて玄関から入ると、ズラッと並んだ使用人の方々に、一斉に頭を下げられた。
私も貴族ではあるけど、こんな全員が集まってお出迎えなんて、経験が無い。これが侯爵家のお迎えなのかしら……!?
「みんな、出迎えありがとう! 今日は突然だけど、俺の最愛の友達を連れて来たんだよ!」
「さ、最愛って……」
とても仲が良いとか、親友とか、他にも言いようがあると思う。今のでは、もしかしたら私が恋人なんじゃないかと勘違いされるかもしれない。
……不思議と嫌に思わないのは、何故だろうか……?
「お話は旦那様からお伺いしております」
「父上と母上は?」
「今は書斎で仕事をされているようです」
「旦那様って……レオ様のお父様ですか?」
「はい。現当主でございます」
若い女性の使用人が、私の質問に笑顔で答えてくれた。
仕事がキャンセルになったのに、結局仕事をしているだなんて、やっぱり侯爵家の当主となると、忙しいのね。
……うちはどうだったかしら? 元々お父様は仕事一筋だったけど、仕事の話を家族にしない人だったから、どれくらい忙しいのか、全く知らない。
「そうだったんだね。それじゃあ邪魔はしないようにしないとね。夕食の仕込みはどうだい? 何か必要なら手伝うよ!」
「いえいえ、せっかく初めてお友達を連れてきたのですから、ゆっくりしていてください。それが我々の総意ですので」
「……みんな」
出迎えてくれた人達を、順番に見ていくレオ様。そんな彼に、皆様は笑顔で頷いて見せていた。
こうして見ているだけでわかる。レオ様はとても愛情たっぷりに育てられて、とても幸せなんだと。だから、あんなに明るくて優しくて、正義感が強いのね。
本当に……私とは全然違う。家族に見限られてからいつも一人ぼっちで、幸せって思えなくて。根暗で、正義感なんてとうの昔に全て捨てた私が……こんな所にいていいのだろうか……。
「何を考えているんだい?」
「え?」
「良くないことを考えてるって、顔に書いてあるよ」
「はい……私がここにいて良いのかって思って……」
「良いに決まってる。むしろ、君以外の人間を、僕は招待したくない。さあ、食事まで少し時間があるようだから、少々散歩をしないかい? さっきみたいな賑やかな場所じゃなく、静かに二人きりで……さ」
「っ……」
手を差し伸べられながら言われた言葉と、レオ様の微笑みのせいか、やけに顔が熱くなっているのがわかる。胸の鼓動も早いし……急にどうしちゃったの、私?
「……行ってみたいです」
「よしきた! こっちだよ! 俺は庭園に行ってくるから、なにかあったらすぐに呼んでくれ!」
「かしこまりました」
出迎えてくれた使用人達に言葉を残したレオ様は、私の手を取って歩きだす。
手を繋いで歩いたの、今日だけで何回かしら? 最初はちょっと変な感じだったけど、段々適応している自分がちょっと怖い。
「ほら、ここだよ」
「わぁ……綺麗……」
レオ様に連れて行ってもらった先には、色とりどりのバラが美しい庭園だった。近くにいるだけで、鼻の甘くて良い香りが鼻の奥をくすぐってきた。
「マオカのカフェから見える湖も美しいが、ここの庭園も良いと思わないかい?」
「はい、とても……花の所が明るいのは。魔光なんですか?」
「そうだよ! あれで夜でも花を鮮やかに見えるようにしてるのさ!」
魔光とは、その名の通り魔法で作られた光のことだ。それを専用のランタンに入れておけば、夜でも明るくすることが出来る、便利な魔道具だ。
比較的簡単で誰でも作れるので、一般家庭にも普及されている……のだけど、私は作れない。一度作ったことがあるけど、大失敗して爆発してしまったの。それ以来何度も作ってみたけど、結局ダメで諦めてしまったわ。
「アメリア、ちょっとそこに立ってもらえないかな?」
「え? はい」
レオ様の指差す先――バラ達をバックにするように立つ。これに何の意味があるのかわからないけど、別に断る理由もない。
そんなことを思っていたら、レオ様は突然膝から崩れ落ちた。
「れ、レオ様??」
「……うっ……」
「どうされたんですか? もしかして苦しいのですか!?」
「美しすぎるっ!!」
「……はい?」
崩れ落ちたと思ったら、今度は周りに大きな声を響かせながら立ち上がった。そして、私の両手を強く掴んだ。
「バラをバックにしたアメリアが、あまりにも美しすぎる! バラだけでも十分なのに、魔光が後光のようになって、神々しさまで加わっている! なんだこれは、俺はいつの間にか天国に来てしまっていたのか!? もしや、アメリアは天使だった!?」
「レオ様、とりあえず落ち着いてください」
……正直、こういう時にどう返すのが正解なのかしら。褒めてくれるのは嬉しいけど、ここまで過剰だと反応に困ってしまう。
「あ、ああ……ごめん、アメリアの美しさにやられて、つい我を忘れてしまったよ」
「急に大きな声を出すから、ビックリしましたよ」
「本当にごめんよ。でも、それくらいアメリアが美しいってことだよ」
「そんなことは……」
私は魔法や勉強だけじゃなく、見た目でもシャーロットに負けているという自覚がある。だから、こんなに美しいと言われると嬉しい反面、戸惑いも感じてしまう。
「それなら、俺の両親や使用人に聞いてみるかい?」
「そ、それはさすがに」
「冗談だよ。まあ、仮に聞いたとしても、みんな素晴らしい回答を返してくれると思うけどね」
「レオ様っ!」
「ごめんごめん。不機嫌な顔も綺麗だけど、せっかくのデートなんだから笑顔でいてほしいな」
「だからデートじゃありませんっ!」
もう、レオ様ってば私をからかって遊んでるんじゃないかしら! そんなレオ様なんて知らないんだからっ! 私一人で夕食まで散歩をしてくるわ!
「アメリア! しばらくは言わないから、一緒に散歩をしようよ!」
「しばらくしたら、また言うんじゃないですか!」
「はっ、しまったつい本音が! 今のは間違えただけ……って、間違ってはいないんだが! とにかく機嫌を直してくれー!」
急いで私の後をついてくるレオ様の姿が、あまりにも必死過ぎて……なんだかおかしくなってしまった私は、すぐに機嫌を直し、夕食の時間までレオ様と一緒に庭園を散歩して過ごした。
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