第十八話 二度目の密着!?
「アメリア! 昨日は心配かけてごめん!!」
翌日の昼休み。先にいつもの教室にやってきていた私だったが、後から来たレオ様に勢いよく頭を下げられた。
昨日って、調子が悪そうにしていた時のことよね? 別に謝る必要はないと思うのだけれど……レオ様は律儀な方だわ。
「頭を上げてください。心配はしましたが、それを怒るようなことはしませんから」
「アメリア……君は本当に優しいな」
「そんなことはありませんよ。さあ、早く食事を済ませて少しでも勉強しましょう」
「ま、まさか昼休みまでするのかい?」
「当然です。レオ様が嫌と仰るなら、無理にとは言いませんが」
「いや、やるよ! 俺が頼んだことだしね! そうと決まれば、早く食べちゃおうか!」
レオ様の持ってきてくれた美味しいお弁当と、いつもの固くなったパンを食べている途中、突然ボンッ! と、小さな爆発音が聞こえた。
「ば、爆発!? アメリア、伏せろ!」
「ひゃあ!?」
目にも止まらぬ速さで私の所に来たレオ様は、私の体を守るために、覆い被さるような形で倒れた。
び、ビックリした……まさかレオ様が急に覆い被さってくるなんて思ってもなかった……。
「もう爆発音はしてないな……アメリア、ケガはないか?」
「大丈夫です、けど……さすがに恥ずかしいので、退いてもらえると……」
「えっ? あっ……!」
私は少し顔を逸らしながらレオ様に伝えると、レオ様も現状に気づいたのか、少し慌てながら離れた。
こんなに慌てるレオ様も珍しいけど、それも仕方がないだろう。だって……私に覆い被さっていたレオ様は、私と密着した状態で、顔も目と鼻の先にあったのだから。
「ご、ごめん! 咄嗟のことだったからつい……!」
「い、いえ……お気になさらず」
さすがに今のは恥ずかしかったわね……お姫様抱っこをされた時も恥ずかしかったけど、今のはあの時と同じか、それ以上に恥ずかしかった。
「とにかくアメリアが無事で良かった。それで……さっきの爆発は何だったんだろうか?」
「ああ、それは……」
私は視線をとある場所へと向ける。それは、隣にある準備室へと繋がる扉だ。
「まさか……」
やや警戒しながらレオ様と一緒に準備室へと向かうと、そこには体を煤で真っ黒にして、髪もチリチリになったシャフト先生の姿があった。
「しゃ、シャフト先生……? 一体何があったんですか?」
「あ? なんだお前らか……何かワシに用か?」
「さっきの爆発音は、シャフト先生ですか?」
「爆発? ああそうだ。少々魔力に誤差が発生したみたいでな」
「言ってませんでしたけど……これ、いつものことなんです」
「な、なるほど。だからアメリアは落ち着いていたんだね」
実はシャフト先生は、しょっちゅう実験に失敗している。その結果、この前みたいな煙だらけになることもあるし、爆発したりしている。
普通の人なら驚くのも無理は無いと思う。慣れてしまっている私の方が異端なのだろう。
「はぁ、せっかく手に入れた素材を無駄にしてしまった。お前ら、放課後は暇か?」
「私はいつも通りですが……レオ様は?」
「俺も特に用事は無いよ」
「なら、放課後に町に行ってこれを買ってこい」
シャフト先生はそう言うと、小さな紙切れを私に渡した。その紙には、魔法薬に使う素材の名前が書かれていた。
「……一つ素朴な疑問があるんですが」
「なんだ?」
「俺達に頼まないで、自分で行けばいいんじゃないですか?」
「ワシは研究で忙しい」
「忙しいだけ!? もっと正当な理由があると思ったら、まさかの子供顔負けな理由じゃないか! しかも自分が失敗したのが原因なのでは!?」
「シャフト先生はこういう方なので」
私はシャフト先生のこういう突然のお使いには慣れてるけど、初めてのレオ様には驚きよね。でも大丈夫、きっとすぐに慣れるだろうから……。
「ほれ、代金。これだけあれば余るくらいだろうよ」
「きょ、拒否権は無い感じなのか……?」
「ワシは研究の時間が取れる。お前らはお使いという名のデートに行ける。互いに利益があるだろう? そうそう、余った金で好きな菓子でも買って構わんからな」
「は、はあ……」
「断っても時間の無駄ですよ。じゃあ放課後に行ってきます」
「任せた」
デートという発言に少し引っかかりはしたけど、とりあえず引き受けた私とレオ様は、教室に戻って椅子に腰を下ろした。
レオ様、ちょっと不服なのかしら? 唇を尖らせて、まるで拗ねてる子供みたいだわ。
「まったく、アメリアにお使いを頼むなんて……」
「あ、不満点ってそこなんですね。てっきりお使いを頼まれたことだと思ってました」
「別にそれに関しては驚きはしたけど、不満ではないよ。それよりも、アメリアに面倒事を押し付けたのが引っかかってるだけさ」
「これが初めてじゃないので大丈夫ですよ。それに、シャフト先生の好意でこの教室に来ることが出来たのですから、こういう時に恩返しをしないと」
「……アメリア!」
思っていたことを伝えただけなのに、なぜかレオ様は勢いよく立ち上がると、私の隣に立った。そして、その勢いのまま私の両手を握った。
「えっと……?」
「アメリアが優しくて心の美しい人間なのはとっくにわかっていたが、俺の見立てはまだ甘かったようだ! 俺は今、とても感動している! それと同時に、自分の心の狭さを嘆いている!」
「そ、そうなんですか……」
私の手を握ったまま、レオ様は滝のような涙を流す。
褒めるのか、感動するのか、はたまた嘆くのか……とりあえずどれか一個にした方が良いんじゃないかしら……?
「とりあえず落ち着いてください。ほら、早く食べないと昼休みが終わってしまいますよ」
「そうだ、まだ食べてすらいなかったんだった! 早く食べてしまわないと、勉強の時間が取れないな!」
「ちょっとゴタゴタして時間が経ってしまいましたし、勉強はまた今度にしてゆっくり食事をしましょう」
「……それもそうだね。それじゃあゆっくり食べようか」
引き続き、レオ様が持ってきてくれた色とりどりの料理に舌鼓を打ちながら、私は放課後のことをぼんやりと考える。
なりゆきとはいえ、この前レオ様と一緒に出掛けてばかりなのに、また一緒に出掛ける機会が来るだなんて思ってなかった。
まあ、今回はお使いだから、前回の時と少し状況が違っているけどね。
『お前らはお使いという名のデートに行ける』
さっきのシャフト先生の言葉が脳裏に蘇る。特にその中でも、デートという単語がやたらと頭の中で強調されていた。
私、なんでこんなことを思い出してるのかしら? それに……なんとなくだけど、胸が弾んでるような……きっと気のせいよね。
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