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第十七話 クローバーに立てた誓い

■レオ視点■


「はぁ……はぁ……」


 アメリアに校門まで送ってもらった後、待機していた馬車に乗り込んでなんとか帰宅した俺は、自室に入ると、壁に寄りかかりながら座り込んだ。


 ああ、最悪の気分だ。油断すると吐きそうだし、体がふわふわしてるみたいで気持ちが悪い。


 鏡で自分の姿を見てないからわからないが、顔色も相当酷いらしく、屋敷についてから使用人達に何度も心配をかけてしまった。


 本当に俺は情けない。俺は馬鹿だ。使用人達に心配をかけるのも許せないが……それ以上に、俺はアメリアにしたことが何よりも許せない。今にも自分の顔を殴りたくなるくらいだ。


「まさか、あの時のことがアメリアにとって辛い思い出になっていたなんて……」


 あの思い出に出てきた男の子は……幼い頃の俺だ。


 俺が幼い頃は、ごく普通の農家の家の子だった。しかし、母親が病気でこの世を去り、父親は俺を置いて知らない女と消えた。


 さすがに父親がそんなことをしたなんて、恥ずかしくて言えなかったから、両方共病気で死んだことにしたんだ。


 そしてあの事件……クマに襲われた後、俺を助けるためにアメリアは助けを呼びに行った。


 その時の俺は、これ以上アメリアに迷惑と心配をかけないように、そして俺のような人間がアメリアの人生の邪魔をしてはいけないと思い、あの場を離れたんだ。


 でも、俺はあのメッセージを残してしまった……その時には、俺は既にアメリアに心を奪われていて、彼女にまた会いたい、短い間でも俺の支えになってくれていた彼女に、恩返しをしたいと思っていたんだ。


 まったく、別れたいのか一緒にいたいのか、はっきりしないな俺は。中途半端に生きていたから、こうしてアメリアに迷惑をかけてしまって……情けない。


「はぁ……やっぱりあの時の子供は俺だったと言うべきか……? 気づいてもらいたいとか、子供みたいなワガママを言ってる場合じゃないし……だが、もし言ってアメリアが責任を感じたらどうする……?」

「レオ!!」

「うおわっ!?」


 ベッドに仰向けに倒れていると、突然俺を呼ぶ声と共に、勢いよく扉が開かれた。そこに立っていたのは、青い髪と緑の瞳がとても美しい女性だった。


 彼女はレイカ・フィリス。俺の義理の母親だ。普段は父上と一緒に各地を飛び回っているのだが、最近は屋敷で仕事をしていることが多い。


 とても心の優しい女性で、本当の子供ではない俺を深く愛してくれているんだが……一つ欠点がある。


「は、母上? どうしたんですか、そんな慌てて」

「あなたの調子が悪そうと聞いて、飛んできたんですのよ! ああ、あなたに何かあったら私は……!」

「お、大げさですよ母上……あと放してください……苦しい……」


 母上は俺のことを強く抱きしめながら、頭を痛いくらいに撫でまわす。


 見ての通り……母上は過保護というか、愛情表現が凄い。過剰と言っても差し支えないくらいに。


「やっぱり苦しいのですね! 安心なさい、すぐに各地の最高の医者を呼びますから!」

「苦しいのは母上のせいです!」


 母上の力強い抱擁から、命からがら抜け出した俺は、少し呆れ気味に溜息を吐いた。


「体調が悪くないのなら、どうしてそんなに元気が無いのでしょう? はっ……もしかして、アドミラル学園で誰かにいじめられているの!? 大丈夫よレオ、全て母に任せなさい。そんな愚か者達は、この世に一片たりとも残さずに灰に――」

「だから少し落ち着いてください! いじめられたりしてるわけじゃありませんから!」


 このままでは埒が明かない。そう思った俺は、先ほどアメリアから聞いた話を母上に話したした。ちなみにアメリアのことは、両親は知っているよ。


「俺がアメリアに心配をかけないようにした行為が……今も彼女の心の傷になっていたと知ってしまって……」

「それで元気が無かったのですね。あなたは本当に優しい子だわ。あなたを保護して、本当に良かった」

「その節は、本当に感謝しております」

「何を言っているの。あなたがいなかったら、私達も危なかったのよ?」


 先程とは打って変わり、慈愛に満ちた声で俺の頭を頭を撫でる。


 俺はあの時、痛みに耐えながら、なんとかあの場を離れた。その後、かなり歩いた俺は、段々と薄れる意識の中、一台の馬車を見つけた。その馬車は、車輪がぬかるみに嵌って動けなくなっていた。


 馬車には従者と思われる人間と使用人、そして綺麗な服を着ていた男女がいた。その男女が、後の俺の父上と母上となる人物だった。


 彼らは車輪をどうするか話をしていた。そんな彼らに近づこうとしている人間がいるのを、俺はいち早く気づいた。


 俺は彼らに危ないと叫びながら、最後の力を振り絞って襲撃者を一人倒した。しかし襲撃者は何人もいた上に、ケガのせいでその場で意識を失ってしまった。


 何とも情けない話だが、あの時の俺にはそれが精一杯だったんだ。笑ってくれても構わないよ。


 その後、目を覚ましたら俺はベッドの上だった。ケガの治療もされていたんだ。俺が目を覚ました時の、ベッドの近くに座って看病をしていた父上と母上の嬉しそうな顔は、今でも覚えている。


 彼らは助けてくれたことへの礼を述べた後、俺の事情を聞いてきた。本当は話したくなかったけど、治療をしてくれた人には聞く権利があると思い、事情を説明すると、二人は俺をこの家に住むように提案してきた。


 もちろん俺は断った……が、全く引く様子の無い二人に押し負けて、ここに住むようになった。


 彼らには子供がいなかったからなのか、俺を本当の子供のように育て、愛してくれた。使用人達も俺を受け入れて、優しくしてくれた。そのおかげで、俺が心を開くようになるまで、さほど時間はかからなかった。


 ……まあそんな経緯があって、俺は正式のこの家の養子として引き取られ、今に至る。


「それで、あなたはどうしたいの? 責任を感じて、あの子の元を離れる?」

「離れる? 冗談じゃない! 俺はアメリアに会えるかもしれないと思って、アドミラル学園に転校したのに!」

「ええ、そうね。勉強が苦手なあなたが、それだけのために必死に勉強していたわね」


 ……実は俺がアドミラル学園に転校してきた理由は、アメリアに再会するためだ。


 この家に住むようになってからしばらく経ったある日、俺はあることを考えた。


 この国で多くの貴族の子供が通うアドミラル学園に入れば、もしかしたらアメリアに会えるかもしれない、と。


 あまりにも馬鹿げた考えだと思うだろう? 大丈夫、俺もそう思うから! でも、俺にはその考えにすがらなければ、アメリアを探せなかったんだ。


 当時のアメリアに関する情報といえば、その名前とたくさん勉強をしているということ、そして身なりが良かったという情報だけだった。


 身なりが良いということは、それなりの地位を持つ家か、裕福な家の子供だろうと思った。とは言っても、可能性を全て考えたら、当てはまる人間は多いだろうから、アメリア自体を探すことは出来なかった。


 森の場所がわかれば、近くを探せたのかもしれないけど、あの森がどこの森かなんて、当時あてもなく彷徨っていた俺がわかるはずもない。


 それに、両親と出会った場所も、あの森から旅立ってから結構移動した場所だったから、そこから導くことも出来ない。


 だから、こんな馬鹿げた考えにすがり、猛勉強を始めた。まあ受験に一回失敗しちゃったけどね……何とか転校出来て、本当に良かったよ。


 それに、まさか本当に再会できるだなんて夢にも思ってなかったよ。アメリアが持つクローバーを見て、あの時の子だと確信したした時は、思わず昔みたいな感じになるくらい嬉しかったんだ。


「その、なんていうか……母上。俺の馬鹿みたいなワガママを聞いてくれて、本当にありがとうございます」

「何を言っているの? 当然のことですわ」

「当然ではありません。俺のことを想って社交界に出なくて良いと言ってくださったり、勉強に集中できるように、別荘に送り出してくれたり……感謝してもしたりません」


 実は俺の両親は、俺が元々平民の子であることを考えて、社交界には出なくて良いと言ってくれた。それが理由で、俺が会ったことがある貴族は、数える程度しかいない。その人物も、最近は会っていない。


「大切な息子を想うのも、頑張ろうとしているのを応援するのも、母として当たり前です」

「母上……」

「顔をお上げなさい。あなたは間違っていないわ」


 間違っていない……果たしてそうなのだろうか? 過去の俺は、誤った選択をしてしまった結果、アメリアの心に傷を残してしまった……。


 いや……間違ってしまったのなら、次こそ正しい選択をして取り戻せばいいじゃないか。


 俺はもう間違えない。今度こそアメリアの側にいて、彼女を守る!


「もう大丈夫そうですわね」

「はい。ありがとうございます、母上」

「せっかく努力が報われたのだから、もう一踏ん張りですよ。あのクローバーに誓ったことを、しっかりと実現させなさい」

「っ……! はいっ!」

「ではそろそろ失礼しますわ」


 母上は最後にもう一度俺の頭を撫でてから、静かに部屋を後にした。それを見送った俺は、机の引き出しを開けると、そこには、アメリアの持っているものと同じような、クローバーの栞があった。


 俺はこのクローバーに誓ったんだ。またアメリアに……大好きな彼女に再会する。そして、アメリアを守り、幸せにすると!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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