第十二話 初デート……?
「これで大丈夫かしら……?」
休日の朝。私は珍しく自分の格好で頭を悩ませていた。
いつもは面倒だから、休日は制服で出かけたり、適当な服で出かけていたけど……今日はそういうわけにはいかない。
だって、少し一方的だったとはいえ……今日はレオ様とお出かけだ。それがわかってて適当にするなんて、絶対に出来ない。
これがシャーロットみたいな人間が相手なら、完全に適当で済ませるんだけどね……。
「こっちの服の方が……それともこっち……」
……ちょっと待って。これでは私もレオ様とのデートを楽しみにしてるみたいじゃない! って、そもそもデートじゃないわ! あくまでレオ様がデートだって言ってるだけよ!
あくまで勉強をしに行くだけ……自分にそう言い聞かせながら、私はなんとか身支度と持っていく物の準備を済ませて、屋敷を出発した。
あの後に言われた約束の場所は、アドミラル学園がある町の中央広場。そこにある、大きな噴水で待ち合わせようと言われている。
時間は正午と言われているけど、私の計算ではそれよりかは早く着く。ギリギリの行動は、何かあった時に対処ができないでしょう?
「少し駆け足気味に準備を済ませてしまったけど……忘れ物とか大丈夫よね?」
なんだか急に不安になってきてしまった私は、手に持った鞄の中身を確認する。
忘れ物は……特に無さそうね。せっかく勉強を教えるというのに、忘れ物のせいで教えられなかったら、意味がないものね。
「……思ったより早く着いてしまったわ」
いつも持ち歩いている懐中時計を見ながら、ぽつりと呟く。
予定していたよりも、三十分も早く集合場所へと着いてしまった。私としたことが、完全に計算を見誤ってしまったわね。
「仕方がない、ベンチにでも座って……あれ?」
何気なく噴水を見てみると、見覚えのある後ろ姿が見えた。どうやら噴水の水面で自分の身だしなみをチェックしているようだ。
まさか、私よりも早く来ているだなんて、思ってもなかったわ。
「レオ様」
「ん……アメリア!?」
「どうして驚いているんですか?」
「いや、まさかこんなに早く来てくれると思ってなくてね! 嬉しい誤算だよ!」
一瞬驚いたような表情を浮かべたレオ様は、すぐに満面の笑みに変えてから、私の手を取った。
「少し時間の逆算を間違えてしまって。レオ様こそ、こんなに早くから来ているなんて思ってもなかったです。もしかして、お待たせしてしまいましたか?」
「っ……! 今こそあれを……ごほんっ。いや、俺も今来たところだよ! ふっ……よし、決まった……!」
「……? そうでしたか」
何が決まったのかはよくわからないけど、そんなに待たせてないのなら良かった。実は一時間とか二時間も待たせていたとかだったら、申し訳ないもの。
「レオ様、今日はどこで勉強をするのですか?」
「あ、ああ! ここから少し離れてるけど、とあるカフェに行こうと思ってね!」
「カフェですか?」
「そう。うちでコックをやっている人がいるんだけどね。そのコックの親戚が開いているカフェなんだ。静かでとても良い所だから、勉強にはもってこいだと思うよ」
静かなカフェか……確かにそこなら勉強するのに良さそうな環境だ。ぜひ案内してもらおう。
「どうやって向かうのですか?」
「もちろん馬車さ。これ以上君に歩かせるわけにはいかないからね」
レオ様がそう言った矢先、私達の近くに馬車が一台止まった。
「それじゃあ行こうか。捕まって」
「ありがとうございます」
レオ様の手を借りて、ゆっくりと馬車に乗り込む。中は綺麗に装飾されていて、居心地がとても良い。
「馬車に乗るなんて、本当に久しぶりです」
「君の家も貴族だろう? 馬車に乗るのなんて、日常な気がするんだけど……もしかして、家族のことが関係しているのかな?」
「さあ、なんのことでしょうか」
危うく核心を突かれる所だったわ。咄嗟に誤魔化したけど……なんとか話を逸らさないと。
「では出発いたします」
「はい」
「少し時間がかかるから、ゆっくりしていようか。ん? 俺のことをジッと見て、どうかした?」
「レオ様の服、とてもお似合いですね」
「そうかな? ありがとう!」
レオ様の服を褒めたら、想像以上に喜んでくれた。ちなみに今日の彼は、白のシャツに黒のボトムス。全体的にスッキリと纏まっていて、清潔感がある。とても素晴らしいと思う。
「アメリアこそ、素敵な服だね。薄桃色のドレスかな?」
「正しくはエプロンドレスですね。一応他のドレスはあるんですけど、外出には不向きかと思い、動きやすいドレスにしたんです」
「なるほど、それは素晴らしい判断だね! そんな君に……」
レオ様は懐から小さな箱を取り出すと、箱を開けた。そこには、ネックレスが入っていた。チャームとしてつけられている、赤とピンクの花がとても可愛い。
この花はバラね。もう一つは……カランコエね。両方共、素晴らしい出来だわ。
「これ、どうしたんですか?」
「さっき待ってる時に、時間があったからブラブラしてたら、それを見つけちゃってさ! 即決で買っちゃったんだよ!」
「即決!? それに……レオ様、私が来るよりもずっと前に来ていたんですか?」
「ギクッ……そんなことないぞー!」
完全に棒読みになってるわよ……もう、レオ様ったら。それならあんなよくわからない嘘なんてつかないで、結構待ったって言えばいいのに。
……でも、これが逆の立場だったら……相手に待たせちゃったって思われないように、今来たって言っちゃうかも……やっぱりレオ様の選択が正しかったのかもしれない。
「つけてみてもいいですか?」
「もちろん。つけてあげるから背中向けて」
「自分でやりますよ」
「まあそう言わずに」
私の話を聞かずに、レオ様は私の首にネックレスをつけてくれた。
その付け方がすごく優しくて繊細で、レオ様の優しさが垣間見えた瞬間だった。
「うん、よく似合っている! 俺の見立てに狂いはなかったな!」
「ありがとうございます。でも、本当にいただいてしまって良いのでしょうか? 本のお返しもまだ出来てないというのに……」
「俺が好きでやってることだから、気にしないでほしいな」
そうかもしれないけど、だからといってわかりましたと頷くのは、少し難しい。
「レオ様、今日の勉強はビシバシいきます。それが今の私にできるお返しですから」
「お返しなんて気にしなくていいのに……お手柔らかにお願いするよ」
有無を言わさずにジッと見つめていると、レオ様の方が先に折れた。
こんな程度で全て返せるわけが無いし、今後の勉強で少しずつ返していこうかしら。
「到着いたしました」
「わかった。アメリア、降りようか」
「はい」
しばらく馬車に乗っていると、目的地に到着した。
レオ様の手を借りて外に出ると、そこは広大な湖が広がっていた。その湖畔には、一軒の木造の小屋が建てられている。
湖の水面は、宝石のようにキラキラと輝いていて、少し眩しいくらい。でも、その眩しさを我慢してでも見たいくらい、美しい湖だ。
もちろん周りも負けていない。湖の周りは森となっていて、そよそよと爽やかな風が草の香りを運んできてくれる。
この場所を表現するなら……心の底からリラックスできる、最高の場所ってところね……。
「良い所だろう?」
「ええ、とても。凄くリラックス出来ますね」
「それはよかった! あそこの小屋が、目的地のカフェだよ。この近くにある村の人や、町を行き来する人達の休憩所として利用されることが多いって聞いているよ」
「そうなんですね。こんな綺麗な所で休憩したら、疲れなんて簡単に飛んでいきそうだわ」
二人で楽しく会話をしながら、目的地のカフェへと足を運びだした――
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