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第十一話 豪快な昼食

「やあ、アメリア!」

「…………」


 同日の昼休み。私はこっそりと、でも急いでいつもの教室へとやってきたのに、到着から数分ほどで、笑顔のレオ様がやってきた。


「まったく、俺を置いていくなんて酷いじゃないか!」

「他の方から沢山お誘いを受けてたので、邪魔をしてはいけないと思って」

「あれ、初日は随分と理解されてるなと思ったのに、今度は急に理解されなくなってしまったな。朝も言ったけど、俺はアメリア以外の人なんかどうでもいいんだよ」


 少し呆れ気味に息を吐きながら、いつものように私の対面に腰を降ろす。


 確かに言っていたのは覚えているけど、それが本気で言ってるとは思ってなかった。てっきり、あの場を切り抜けるために言ったとばかり……。


「私と一緒にいても、良いことは無いですよ」

「それはどうしてだい?」

「私はクラスで浮いている存在で、いつも一人です。そんな私と一緒にいたら、周りからレオ様まで変な目で見られてしまいます」


 端的にわかりやすく説明をしたつもりだったが、レオ様は私の言葉の意味を理解してないのか、怪訝な顔をしながら、首を傾げた。


「一人だったアメリアと一緒にいるのを悪いと思われる筋合いは無いし、他人にどう見られても俺は気にしないから問題ないね」

「は、はあ……そうですか」

「俺はアメリアと一緒にいたいからいる。それに、一人ぼっちというのは、とても寂しいものだって俺は知っている。だからアメリアに心の底から嫌われない限りは、一緒にいるつもりだよ」

「レオ様……」


 微笑むレオ様のことを、ジッと見つめる。


 なんだろう、心の奥底がじんわりと熱を熱を持っているかのような、この感覚……頬も少し熱い気がするわ。


「さてと、そろそろ昼食を食べないと休み時間が終わってしまうね」

「そ、そうですね」


 レオ様は持ってきた鞄から、大きな弁当箱を取り出す。中に入っていたのは……巨大な骨付きのお肉だった。それも一つだけ。


 なんていうか……言い方はあれだけど、ただお肉を丸焼きにしただけの料理って感じで……侯爵子息様が食べるような料理には見えない。


「そんなにジッと見て、どうかしたのかな? 俺の顔に何かついてる?」

「いえ、そういうわけでは」

「わかった、この肉を食べてみたいんだね! いやーアメリアにはこの肉の美味さが見ただけでわかるなんてね! よければ一口食べるかい?」

「お気持ちだけいただきます。私にもちゃんと昼食はあるので」


 私はそう答えながら、持ってきた鞄から昼食を取り出す。それは、布に包まれたパンだ。


 でも、そのパンはガチガチに固くて食べにくいうえ、誰かに踏まれたのか、ぺっちゃんこになっている。ご丁寧に、包んでいた布に足跡までついている始末だ。


 これは私が自分でしているわけではない。おそらく、私が知らない間に誰かがパンを踏みつけたのだろう。こういう経験は今まで何度もしているから、特に驚いたりはしないけどね。


「え、えっと? 随分と個性的なパンだね……? 俺が知らないだけで、最近のパンは踏まれるのが流行ってるとか?」

「そんな流行りはありませんよ。その……持ってくる時に誤って落として、踏みつけてしまったんです」

「……誤って、ね……それで、他に食べるものは?」

「ありませんよ」

「無い!? そ、そんなパンを一つだけで済ませるのかい!?」


 驚くのも無理はない。でも、私にとってはこれが普通だ。昼食なんて家で用意されてるわけがないし、元々食に強い欲求が無いから、自分で作ってまで昼食を充実させたいと思わないのよ。


「そんなんじゃ、次の授業を乗り越えられないよ!」

「大丈夫ですよ。それに、レオ様だってお肉しかないじゃないですか」

「俺は良いけど、アメリアはダメだ! もし君が倒れたらと思うと、俺は……! ほら、好きなだけ肉を食べるといい!」


 レオ様は力任せにお肉の一部を千切ると、私に差し出した。


 あまりお肉って好きじゃないのだが、差し出されたからには頂かないと失礼に当たる。そう思ってゆっくりと口に運んだ。


「どうだい?」

「思った以上に野性味がないですね。お肉の脂も上品で……美味しいです。お肉ってあまり得意じゃなかったのに……」

「そうだろうそうだろう! 以前、これを食べてるのを見た人に、海賊の飯とか言われたんだよ? 酷い連中だと思わないか?」


 それは仕方がないことのような気がするわね。こんな大きなお肉に豪快にかぶりついていたら、そう思ってしまう人も出てくるだろう。


「でもそれが好きな食べ物ならいいじゃないですか。レオ様は誰かに迷惑をかけたりせず、一人で美味しい物を食べているだけに過ぎない……悪く言われる筋合いはありません」

「アメリア……うう……」

「え、どうしたんですか?」


 急に顔を俯かせてしまったレオ様。体が小刻みに震えているし、目からも大粒の涙が溢れている。


「レオ様、どうかされたのですか!? 私、何か変なことを……!?」

「いや、君の言葉が嬉しくてね……えへへ……ぐすっ」


 笑いながら泣いて、そしてお肉も食べて……レオ様は器用な方なのね。私にはそんな器用なことはできそうもないわ。


「ほら、これで涙を拭いてください」

「うん、ありがとう。それじゃあお礼に……それっ!!」

「もぐっ!?」


 不意打ち気味に、私の口の中に、先程のお肉が強引に侵入してきた。お肉の柔らかさとジューシーさが口の中で蕩け合い、最高のハーモニーを奏でている。やっぱり何回食べても美味しいわ。


「不意打ち肉の味はいかがかな?」

「もちろん美味しいですけど……急に落ち込んだり、お肉を突っ込んだり……脅かさないでください」

「はは、ごめんごめん。それじゃあ今度こそちゃんと昼食を食べようか。これがアメリアの分ね。あ、フォークとナイフはあるから安心してね」


 なんだか知らないうちに、このお肉を私も食べることになってしまったようだ。まあ、このお肉なら食べられそうだし、レオ様も楽しそうだしいいかな。


 問題は……小食の私が、この肉のブロックを食べきれるかどうか。せっかくの好意を無下にするわけにもいかないし……が、頑張ってみましょう!



 ****



「アメリア、大丈夫かい?」

「……うっぷ……」


 レオ様が心配する中、私は大きく膨れ上がったお腹をさすっていた。


 途中から完全に無理をしてしまったけど、なんとかレオ様が分けてくれた分のお肉を完食できた。


 とても美味しかったけど、食べ過ぎてお腹がはち切れそうだわ……こ、こんな状態で午後の授業を受けられるかしら……?


「そんなに無理して食べなくてもよかったんだよ?」

「い、いえ……せっかくレオ様が自分の昼食を分けてくれたのに……残すわけには……」

「……アメリアは、本当に優しいね」


 ……レオ様は私を優しいと言うけど、そんなことは無いと思う。人間として、最低限のことをしているだけにすぎないというのに。


「そうだ、よければ明日から俺がアメリアの昼食を持ってこようか!」

「え? 急にどうしたんですか?」

「だって、俺達のような育ち盛りが、あんなパン一個で済ませるなんて、体に良くないじゃないか」

「そうかもしれませんけど……レオ様にいらない負担をかけてしまいます」

「そんなの気にしなくていいよ! まあ、作るのはうちのコックだから、俺が偉そうに言える立場じゃないけどね」


 あははっと自嘲気味に笑うレオ様は、更に言葉を続ける。


「俺はさ、アメリアのことが心配なんだよ」

「……友達だからですか?」

「友達……そ、そうだね」


 友達というのは、そういう心配もしてくれるものなのね。今まで経験が無かったから知らなかったけど……その優しさのおかげか、胸の奥が暖かくなるのを感じた。


「お気持ちは大変嬉しいです。ですが、やはり無償で提供していただくというのは……」

「アメリアは真面目だなぁ。それじゃあ交換条件として、俺に勉強を教えてくれないかな?」

「勉強、ですか」

「前も話したけど、俺は勉強が苦手でね。せっかくアドミラル学園に入れたのに、成績が悪くて退学なんてなったら、笑い話にもならないからね」


 それは確かにその通りだ。私も復習になるし、恩返しにもなるし、良い提案かもしれない。


「私もそんなに得意ではありませんが……わかりました」

「ありがとう! ふふっ……よしっ」

「……?」


 レオ様は、何故か握り拳を作って喜んでいた。それは、まるで欲しかった物を買ってもらい、喜びを噛みしめている子供の様だった。


 ……よっぽど勉強で不安に思うところがかしら……? この学園に入れているのだから、そんなに不安に思うことは無いと思うのは、私だけだろうか?


「それじゃあ、今度の休日に教えてもらっていいかな?」

「休日ですか」

「あ、もしかして何か予定でも?」

「いえ、特には。貴族の身ではありますが、社交界やお茶会などには出席する必要が無いので」

「そうなのかい? 俺も社交界なんて出たことないから、仲間だね」

「え、出たことないんですか?」

「ああ。まあ色々事情があってね」


 貴族で社交界に出ないなんて珍しいわ。私は、昔はそういった類のものにも出席していたけど、今の扱いを受けるようになってから、行かなくてもいいようにされていた。私としては気が楽だからいいんだけどね。


「では次の休日に……どこでやりましょうか? 私はいつも、図書館で勉強をしているのですが……」

「うーん、図書館だと少し喋りにくいよね?」

「そうですね」

「よし、それじゃあ俺の方でいい所を見つけてみるよ! デートだっていえば、協力してくれるだろうし!」

「え、デート!? そんなんじゃ……!」


 レオ様を呼び止める前に、彼は勢いよく教室を出て行ってしまった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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