9『軽い相談』
月曜日。
憂鬱とはまさにこのこと。
月曜日なんて来なければ良いのにと思うのに、呼んでもいないのにやってくる。来んなよ。
一歩歩く度に帰りたくなるし、ここで発狂したら問答無用で家に帰してくれるかなとか考えながら学校へ向かう。
そうだ、あと五回学校行けば二日休める。あと五回。案外楽勝じゃね。
「どーんっ!」
「ぐへぇ」
背中に加わる物凄い衝撃。バイクにでも突っ込まれたかと思うほどだ。
「おはよう」
振り返ると慎がニコッと白い歯を見せ立っていた。すぐに俺の隣に並んで、歩く。
「おはよう……ってな、お前な、朝から暴れるなよ。こういうのは可愛い女の子がやるから許されるんであって、お前がやったらただのストレスだ」
「桜先輩に好きな人がいるの知っててあの場を作ったお前にはそのくらいの仕打ちがあって当然だ」
「ひっど。お前が紹介しろって言ったんだろ。俺はただ約束果たしただけだ。そもそも慎『神だ』って俺の事崇めてたじゃん」
「残念でしたー。俺は都合の悪いことは忘れる主義なんですー」
ダチョウか? ダチョウなのか? クルミ程しか脳みそがなくて、発作のように走り出したと思えば、家族の顔すら忘れてしまう奇跡的な頭の悪さを持つダチョウなのか? いや、優れた回復力と免疫力がないからダチョウ以下だな。バチクソ凶暴なところも似ているな。さっきカバンで俺の背中殴ってきたし。
「なんだよその目」
「ダチョウみたいだなぁって」
「ペリカンじゃないだけマシだな」
「ペリカンの方がマシなんだよなぁ」
生産性の欠片もない会話でゲラゲラと笑う。ザ、男同士の会話って感じでかなり気が楽だ。なんだかんだで家だと気遣わなきゃならないし。同じようなくだらない会話を続け、学校へ到着する。
「そうだ」
教室へ向かう最中、ふと思い出し慎に声をかける。しょうもない話題をぶった切る形になったが、互いにどうでも良い話であると認識しているので気にしない。
「どうした?」
不思議そうに首を捻る。
「楓に告白した男見たんだけど、名前知ってたりする?」
例の男だ。人脈の広い慎なら知っているかと思い問うが、はてという顔をしている。
「そもそも楓って告白されてたの? あの楓が?」
「あの楓が、だ」
俺も大概だが、慎からの評価も低いらしい。俺らには特に凶暴だし致し方ない。あれ、もしかして楓の方がダチョウだったりする?
「その様子じゃ知らなそうだなぁ」
「知らねぇーな。初耳だから。ってか、それいつの事だよ」
「金曜日」
「うお、最近じゃねぇーか。じゃあ知らねぇーよ。今日噂で流れてくるかもしれないけどな。ああいう告白って案外誰か見ていたりするし。まぁ、楓は人に言いふらすような奴じゃないからそこから漏れることはないと思うけど」
流石陽キャだ。そういうところしっかりと分析出来るんだな。楓は言いふらしたりしなさそうってのも同感だ。アイツは表で面白がるよりも、裏でこっそり楽しむタイプだ。
「ちなみに目撃者俺な」
「奏斗かよ。楓から聞いたんじゃなくて?」
「アイツは言わねぇよ。隠れて見てたのはバレてたけど」
そういえば、家で何も言われなかったな。怒られたりするかなってら思っていたけど杞憂で終わった。まぁ、良かったのかな。
「てか、顔見た事あるなら手っ取り早いな。同級生? 顔みたことある人だった?」
「同級生かどうかは知らないし、見たことある顔でもなかった。っていうか、見たことあるかもしれないが記憶はないな」
「お前他人に興味ねぇーしな。あまり期待はしてなかったよ」
「悪かったな」
自分と深く関わる人間以外どうだって良いと思うのは自然なことだ。だって、覚えたって意味ないのに。可愛い子だったら覚えられるけど。この前、渋谷ですれ違ったバチクソ可愛い女の子の顔とか一生脳みそにこびり付いているし。
「でも、おもろそうだな。楓に告白する変わり者が誰なのか俺も知りたい。ってか、そもそも結果どうなったんだ。振られた前提で話してたけど付き合ったの?」
「しっかり目に振られてたよ」
「だよなー。アイツも恋する乙女だしな」
「好きな人知ってるのか?」
「知ってるかって言われたら微妙だけどな」
慎はなんか濁している。教えてくれたって良いのに。
「俺はな、こう見えて女の見極めは得意なんだ」
「桜には振られてたけどな」
「時には当たって砕けろも大事なんだよ」
慎はケラケラ笑う。もう気にしていないらしい。ほんとコイツメンタル強いよな。
「それよりも、行こうぜ」
慎は立ち上がると、俺の手首を掴む。そして、そのままグイッと引っ張り俺を教室から引きずり出す。
「なんだよ」
「探しに行こうぜ。変わり者をさ」
俺たちは捜し物を探しに行くために教室を旅立った。