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7『三姉妹の態度』

 帰宅すると、楓が出迎えてくれる。っと、思ったがどうやら出迎えてくれているわけじゃなさそうだ。鬼の形相で……そうだな。えーっと、睨まれているのかな。うん、これ完全に睨まれていますね。


 「ごめんなさい」


 ひとまず謝っておく。

 悪い事をしたとか、何かやらかしたかなとか考えるのは二の次だ。なんか良く分からないけど相手が怒っているよぉ……って時は大体謝っておけばどうにかなる。

 コンビニでバイトしているクラスのやつがそう口にしていた。盗み聞きも時には役に立つ

 「別にまだ何も言ってないんだけど」


 うおー、明らかに逆効果なんですけど。どうやら身内には適用されないらしい。客には無条件に謝罪して、身内にはまずどうしたのか訊ねる。ふむ、勉強になった。

 あれか、どしたん? 話聞こうか? か。案外あれも馬鹿に出来ないってことだな。


 「なんか怒ってるし」

 「怒ってはないよ。問い詰めようと思ってただけ」

 「それを世間一般的には怒ってるというの――」

 「ん」

 「なんでもないです」


 楓の圧に押し負けて、俺は思わず家の外に出ようとしてしまう。


 「とりあえず上がっても良い? 玄関で立ちっぱなしなのすっげぇ違和感なんだけど」


 自分の家なのに靴を履いた状態で立ちっぱなし。でもって、向かいには楓が靴下の状態で仁王立ちしている。状況として有り得るものではあるが、脳みそが追いついていない。


 「じゃあ上がって」

 「えーっと。おじゃましまーす」


 なんとなくそう言わなきゃいけない雰囲気な気がして、ぼそっと謎に挨拶をしてしまった。どっちかっていうとお邪魔されている立場なんだけどな。

 リビングに入ると、柊は眠そうに欠伸をしており、桜はなんか机に突っ伏せている。


 「おかえりなさい。私もう寝ますね。おやすみなさい」


 柊は通算二度目の欠伸をして、そのままリビングから姿を消した。


 「この人は一体何をしているのでしょうか」


 俺は桜に目線を向け、機械っぽく喋る。


 「いや、それこっちが聞きたいんだけど」


 苦笑しながら、眉間を抑える。

 良く見ると悶絶するように足を震わせる。どかどかと大きな音を立てているわけじゃない。恥ずかしさを打ち消すように貧乏揺すりをしているだけ。両腕を下に敷いて机に顔を伏せているのだが、隙間から見える頬や耳、首でさえほんのりと紅く染まっており、辛いことや苦しいことがあって萎えているのではなく、ただただ恥ずかしくて顔すら上げられないというような状況であると理解できた。

 まさに穴があったら入りたい状態だろう。ないから、顔を隠すように伏せている。

 寝ているわけでも、気絶している訳でもない。意識ははっきりとしているはずだ。つまり、今の会話もバッチリ聞こえているわけで。それでも反応しないとなると相当顔真っ赤にしているんだろうな。


 「なに恥ずかしがってんだよ。楓か柊に何か言われたのか?」


 桜が妹たちに何か言われて悶絶するほど恥ずかしがるとは思えない。適当にごまかしたり、むしろ堂々としたりしそうだ。

 じゃあ他に何が考えられるか。少なくとも家まではなんてことなかった。慎とだべっていた十数分の間に、何かがあったのだろう。ってなると、外で恥をかいたってことはなさそうだ。


 「奏斗のせいじゃん」

 「は? 俺? 何したんだよ俺」


 他人事だと思っていたら俺の名前が飛び出してくる。出席番号順に指名していたのに、突然関係ない番号の俺に指名してくるみたいな恐怖と驚きが混ざる。


 「やっぱそうじゃん」


 一方で隣に立っている楓は怪訝そうに見つめている。なんなら軽蔑の眼差しまで混ざっている。なんでよ。俺本当に知らないんだって。


 「知らないし。だって、本当に知らないし……」


 思い当たる節がないので反論することすらできない。なので、弱々しい言葉を返すだけになってしまう。


 「奏斗……嘘下手」

 「違う。嘘じゃないんだって。ほら、桜も何か弁明してよ。可愛い可愛い弟が妹にいじめられてんだよ?」

 「奏斗に辱めを受けちゃった……もうお嫁に行けないかも」

 桜はそんな冗談を口にする。

 「記憶にございません。」


 国会議員みたいなセリフを口にする。だって、本当に記憶ねぇーんだもん。仕方ないじゃん。

 楓は俺のこめかみを両手でぐりぐり押し込む。痛い痛い。やめてよ。暴力反対。


 「好きな人のタイプとか……ほとんど答え言ってるようなもんじゃん。多分バレてたし」


 桜は顔を上げたと思えば、声を尻すぼみにして、最後にはボッという効果音でも聞こえてきそうなほど顔を真っ赤にする。今、桜のつむじにヤカンを乗せれば沸騰するんじゃないかってくらい真っ赤だ。


 「なんだそんなことか」


 楓はつまらなさそうに口を尖らせて、リビングを後にする。いや、うん。分かるよ。俺もなんなんだよって思ったもん。


 「俺は知らんよ」

 「奏斗にバレてないのは知ってるから」


 桜はむぅっと頬を丸める。なにそれ、お前には友達が少ないからバレるわけないだろってことか? えぇ、そうですよ。その通りでございます。


 「ちなみに誰なの? 俺が知ってる人?」

 「言うわけないでしょ」


 ツンデレキャラ顔負けのバッカじゃないのーが聞こえたような気がする。幻聴だったけど。


 「でも慎くんにはバレてたなぁ。あれ絶対バレてた……」


 桜は頬に手を当て、また悶絶する。恋する乙女は大変だな。


 「……慎が知ってて、桜とも知り合いだろ――」

 「だぁぁぁ! ダメダメ」


 結構絞れるんじゃねぇーかなと考えようとしたら、桜が俺の口に両手を当てる。ほんのり甘い匂いが鼻腔を擽る。


 「ずるいよ。ってか、考えても絶対わかんないし。ぜーったいにわかんないし」

 「そうかよ。じゃあ良いじゃん」

 「それはダメなの」


 何はともあれ大分自然な笑顔が戻ってきた。楓と柊は何だかんだでまだ固めだが、長女の桜が柔らかくなったのは大きな収穫と言えるだろう。彼女たちに心の拠り所を作る。経路は違くても結果として成功しているのだから喜ぶべきだ。

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