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3『同級生の頼み事』

 高校。

 三姉妹と同じ高校に通っているが、同じクラスなのは楓だけ。他はそもそも学年が違うのでどうしようもない。

 ちなみに「友田」のまま生活している。家族になったとバレるのは色々面倒だ。何よりも周囲に気遣われるのが嫌なのだそう。気遣う方の気持ちは痛いほど分かるし、気遣われて居心地が悪くなる彼女たちの気持ちも分かる。それなら隠しておこうっていう判断は正解だろう。


 「おい、そろそろ紹介してくれよ」


 俺の机に両手を置いたと思えば、まるで自分の机かのようにだらーんと頬を机にくっつける。


 「やだよ」

 「そこをなんとかさー。頼むって」


 パンッと手を叩き、せがむような表情を浮かべる。


 「(しん)なら紹介しなくても仲良くなれるだろ」

 「それが出来たら苦労しねぇーんだよ。ってか、仲良くなれてもその先にいけないんだよ」


  不満気に文句を垂れる。そんなこと言われたってなぁ。


 「大体いつも断ってるんだからお前も学べよな」

 「それだけ俺の想いが強いってことだな」


 ムフンという効果音が聞こえてきそうなほど胸を張る。そんな胸を張るような事じゃないような……。

 いや、待てよ。今、彼女たちに必要なのは心の拠り所だ。信頼出来て、素直に心情を吐露出来て、その上で包み込んでくれる人。

 慎は見た目こそチャラチャラしているが、信用出来ない人かと問われればそうでもない。むしろ、信頼に値する人間だと言えるだろう。


 「ちなみに紹介してほしいんなら誰が良いんだ?」

 「そうだな。楓は俺のこと興味なさそうだし、柊ちゃんは俺のこと怖がりそうだよな。ってなると桜先輩かな」


 慎はこてんと首を捻る。


 「かなって、好きとかそういうのはないのかよ」

 「全員好きだから選ぶの難しいんだよ」


 どや顔でそんなことを口にする。なにカッコつけているんだか。


 「じゃあ桜のこと紹介してやろうか?」

 「だからなぁ……って、は? マジか?」


 慎は俺の肩をガッチリ掴み、これでもかってほどに俺を揺らす。普段断り続けていたし驚くなという方が無理か。にしても驚き過ぎだろ感は否めない。


 「マジだけど」

 「奏斗……お前神だな! 頼んだぞ。絶対だからな、絶対!」


 慎は嬉々とした様子で飛び上がるように立ち上がるとそのまま流れるように教室から出て行った。


 「何あいつ」


 入れ違いで入ってきた楓は慎の背中を蔑むような目で見つめる。


 「まぁ、そんな目してやんなよ」

 「男ってなんであんなに彼女欲しがるんだろ」


 楓は心底不思議そうに首を捻る。人間誰しも心を許せる人って欲しくなる。恋人とか親友とか形は様々だろうが。


 「彼女じゃないんだよ。心の拠り所がほしいんだよ」


 多分誰だったらいらないとかそう言う話ではない。

 現代日本において、承認欲求は嫌でも満たしたくなってしまう。

 例えば一つツイートしただけでもどれだけいいねが付くか気になるし、インスタに写真を載せたってどれだけいいねが付くか気になる。返信で反応してほしい、褒めてほしいって人はそれを構ってほしいアピールをした内容を載せる。返信する人間もまた相手に反応されたいという欲から当たり障りのないことを返信する。この世の中は承認欲求だけで動いている。大袈裟に表現したが、あながち間違っていないだろう。


 承認欲求がそれで満たされるのであればそれに越したことはない。問題は満たされなかった時だ。いいねを稼ごう、見られた回数を稼ごう……評価されたい。なのに、現実問題として上手くいかなかった。現代日本はこっちの方が多い。


 荒んだ心を癒してくれる存在。それが心の拠り所であり、恋人であり、親友である。

 周りから見て必要とされている存在なんだと認識し、枯渇した承認欲求を満たす。

 だから、恋人が欲しいとかそういうことを否定するつもりはさらさらない。その気持ちはなんとなく分かるし。慎ほど必死になって欲しているかと問われれば明らかにそうじゃないんだけどね。


 「ふーん」


 楓は理解しているのか、していないのか、微妙な反応を見せる。


 「そういう楓は彼氏欲しくないの?」


 純粋な疑問だった。恋人そんなに欲しがって気持ち悪いみたいな雰囲気を醸し出す彼女はどう思っているのか。知ったところでどうするのかと言われると困る。まぁ、慎経由で良い男でも見繕ってもらうのが良さそうかな。


 「今はいらない。それよりもやりたいことあるし」

 「やりたいこと?」


 俺が首を捻ると、楓はクルッと体を反転させ、歩き出す。


 「教えないけどね」


 言葉を残すようにそう口にすると、自分の席へと戻った。いつも見ている楓の背中なのに、今日は何故か一段と神々しさが増していた。

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