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24『幸せへの一歩』

 桜と付き合い始めて一ヶ月。最初は何をするにしてもドキドキしていた。慎からはなんか疑われていたけど、仕方ないか。騙していたし。ただ、日が経つにつれ、この関係が真実であると理解したのか、普通に祝福された。くすぐったい。

 一緒に住んでいるからか、付き合い始めた時の妙な高揚感や胸の高鳴りは静けさを保っていた。一ヶ月もすると慣れるんだよね。

 桜と手を繋ぎ、指を絡ませ、リビングでのんびりと幸せを噛み締めていると、ドカンと玄関が開き、足音が聞こえ直ぐにリビングの扉が開かれる。


 「よぉ、元気にしてたか? サプライズだ」

 「と、父さん!?」


 突然父親が入ってきた。意味が分からない。

 ニヤニヤと楽しそうに笑う父さんと、その後ろから呆れたように父さんを見つめる母さん。安心感が湧くのと同時にどうしようもない羞恥心に襲われ、今すぐこの場から逃げたくなる。


 「海外で仕事してたんだろ!?」

 「そうだな」


 俺の反応に父さんはうんうんと首肯する。


 「半年くらいは帰って来れないって」

 「おぉ、そうだな」


 俺の反応を楽しんでいるかのようにニヤつく。


 「まだ二ヶ月くらいしか経ってないけど」

 「そうだな。でもな、奏斗。仕事よりも優先しなきゃいけないことも時にはあるんだよ。なにか知ってるか?」

 「なに……」


 嬉々としている父さん。その反応に嫌らしさしか感じず、俺は思わず苦笑してしまう。

 それでも父さんは楽しそうに続ける。多分だが、俺が嫌がっていることに気づいた上でやっている。


 「冠婚葬祭は仕事よりも優先しなきゃならない。でだ、奏斗。なにか俺に言うことはないか? あるよな」


 父さんはなにか言葉を待っているらしい。なんだよ、わかんねぇーよ。顔を顰めていると、桜は手を繋いでいない方の手で、俺の肩に手を置く。桜の顔を見つめると、彼女はニコッと優しく微笑んだ。まるで、私に任せてとでも言っているかのようで、俺は押し黙って、父さんの方に目線を戻す。


 「お義父さん。お久しぶりです」

 「桜ちゃんも元気にしてたか?」

 「はい。お陰様で」


 父さんと桜の会話。なんとなく緊張する。特にどっちかがポロッと余計なことを言うんじゃないかという緊張だ。


 「お義父さん。聞いてほしいことがあります」

 「桜ちゃんは俺たちの娘だ。なんだって言ってくれ。出来ることなら叶えてやろう」


 父さんは腕を組み、どや顔をする。


 「ありがとうございます」


 桜はぺこりと頭を下げる。その時に髪の毛が揺れ、シャンプーの良い香りが俺の鼻腔を擽る。同じものを使っているはずなのに何故こうも違うのだろうかと、場違いなことが頭の中を巡ってしまう。


 「奏斗くんとお付き合いさせて頂くことになりました。拙い私ではありますが、奏斗くんを一生幸せにしてみせます。だから……どうか、優しく見守っててくださいませんか」


 真剣な眼差しの桜。思わず俺がドキッとしてしまう。そうか、桜はもう幼馴染でも義姉でもないのだ。

 桜は俺の彼女なんだ。そう、痛感する。

 一方で父さんは楽しそうに笑い声を上げる。そして、ひとしきり楽しんだ後にゆっくりと口を開き、桜を見つめ、何度か頷く。


 「拙いのは奏斗の方だよ。桜ちゃんは完璧過ぎる」


 と、当然のように俺を見下す。血の繋がった親子なだけあって、その分析は非常に正しい。だから、反論することすらできない。俺が言葉に詰まっていると、父さんはこちらに視線を向ける。


 「おぉ、いいな。奏斗め。可愛い女の子とイチャイチャしやがって。流石俺の息子だ。で、あの御守りは使ったのか?」


 父さんは嬉々とした様子でニヤニヤし続ける。父親というよりも、恋沙汰を楽しむ同級生という感じだ。


 「使ってないし、そもそもあれ何が入ってるんだよ」

 「使ってないなら秘密だ。良い雰囲気になったら開けてくれ」


 俺は首を捻るが、父さんはそれ以上何言わない。ただ、見守るように終始ニヤニヤしているだけ。


 「桜ちゃん。まだ遅くないわ。本当にこんな子で良いの? 貴方ならもっと良い男捕まえられるはずなのに」


 母さんはソファーの裏側に回ったと思えば、そんなことを桜に耳打ちする。聞こえてないとでも思っているのだろうか。もうそりゃ、バリバリに聞こえているんだよなぁ。仮にも俺貴方の息子ですよね。酷くないですか。


 「お義母さん。私は奏斗が良いんです。優しくて、馬鹿みたいに笑い合えて、気心許せて、あとは私のために色々頑張ってくれる奏斗が良いんです」


 桜は母さんに向かってそう言い切る。それはもう爽やかな笑顔だ。母さんも虫の居所が悪くなったのか、微苦笑を浮かべる。


 「すみません。違いますね」


 桜は照れくさそうに頬を触る。


 「奏斗が良いんじゃないんです。奏斗じゃないと嫌なんです。だって、私……奏斗が大好きですから……」


 桜は耳まで真っ赤にする。そのまま蕩けて蒸発してしまうんじゃないかと心配になるほど、頬も耳も首裏も真っ赤にする。それでも、目を逸らしたり、俯いたり、その場から逃げたりすることなく、母さんに面を向ける。

 緊張していないわけじゃない。『大好き』という言葉と共に彼女の握力がグッと強くなったのが何よりの証拠だ。

 目の前で愛を叫ばれた俺も恥ずかしくなる。頬が火照り、体が冷たさを求める。多分今、桜に負けないほど顔が真っ赤なはずだ。顔を隠したいが、彼女は俺の手を逃がしてくれない。片手で隠せるほど顔は小さくない。諦めるように俺は俯いて、最低限顔を隠す。無意味に等しいのは重々承知なのだが。


 「奏斗。母さんの娘を泣かしたら許さないからね」


 母さんは俺にとんでもない圧をかけてくる。本当の息子に向かって言うことじゃないでしょそれ。泣きそうだ。


 「わ、わかりました」


 怯えながら頷く。


 「桜ちゃんも奏斗のことよろしくね。時々頭おかしくなったり、変なこと言ったり、桜ちゃんのこと機嫌損ねさせたりすると思うけど。見捨てないであげてほしいな」


 とりあえず母さんからの評価は底ついていることだけは理解出来た。この前から思っていたけど、俺なにかしたっけ。違うな。何もしていないからこんな低評価なのか。父さんは援護してくれないし。なんなら、こえぇ〜って顔して母さんのこと見ているし。


 「アハハ、大丈夫ですよ。奏斗の良いところも悪いところもちゃんと知ってるので。これでも十何年って一緒に居るんですから。ね?」


 桜は首をコテっと捻りながら、微笑む。

 助け舟なのかどうか分からないが、とりあえず全力で縋る。


 「全部理解した上で付き合ってますから。全部理解した上で好きになっちゃったんですから」


 桜は恥ずかしそうにはにかむ。


 「お前本当に幸せ者だな。桜ちゃん泣かすようなことあったら、父さんも怒るからな」


 さっきまで離れたところで他人事みたいに見ていたのに。なんでよ、援護射撃するところか敵になるのやめてくれ!


 「息子と娘の幸せな光景見れて俺は幸せだ。教えてくれた楓ちゃんと柊ちゃんには感謝してもしきれないな」


 もしかしてこの人たちこの為にわざわざ帰ってきたのかよ。正気か? ってか、裏でアイツら手回していたのかよ。ふざけんなよ、マジで。


 「っし、お前らまだ報告しに行かなきゃいけないところあるだろ。車用意してっから行くぞ」

 「報告しに行かなきゃいけないところ?」


 俺は首を捻る。父さんは呆れたように頷く。

 半強制という形で車に乗せられる。後部座席に俺と桜は並ぶ。どこへ連れて行かれるのだろうか。一抹の不安を抱えながら、俺たちは車に揺られたのだった。

 連れて来られたのは木々に囲まれた林の中。道中とてつもなく狭い砂利道を抜けた。ガタゴトと車とは思えない揺れを体感した。あれを帰りも体感するのかと考えるだけで、乗り物酔いしそうだ。

 車から降りる。独特な雰囲気が俺を包み込む。桜はハッとした表情を浮かべたと思えば、困惑したように時には恥ずかしそうな表情へところころ変わる。

 父さんは車から降りてこない。


 「俺が挨拶したってしゃーないからな。二人で行ってくると良いよ。父さんはここで待ってるから」


 窓から俺にそう告げると、さっさと窓をしめた。


 「ここって」


 駐車場らしきこのスペースから続く一本道。奥にチラッと見えるのは墓石だ。


 「ママとパパのお墓……」

 「やっぱりそうか」


 なんとなくそうなんじゃないかなぁとは思っていた。挨拶をしろってのはそういうことか。だから、桜もどことなく緊張しているのか。


 「これも持たされたし」


 そう言って手に持つのはお線香とライター、後は造花。


 「準備万端だな。最初から連れてくる気だったのかな」

 「そうじゃない? なんか流れるように連れて来られたし」


 桜に着いていき、桜の両親の墓石の前までやってくる。かなり綺麗な墓石だ。多分新しく買ったんだろう。

 彫られている『友田家』という文字を見て、あぁ……本当に亡くなったんだと実感する。葬式の時は、なんか非日常過ぎて実感出来なかった。こうやって、色々落ち着いたタイミングだからこそ感じることが出来るのだろう。

 あの優しかったおばさんもおじさんももう居ないんだ。

 あ、おばさんとおじさんって言うといつも起こっていたな。お義母さんとお義父さんだ。今までは何を言っているんだと思っていたが、今なら分かる。

 桜の好意に両親は気付いていたのだろう。いつか付き合い始めると分かっていたからこそ、お義母さんお義父さんと呼ばせて桜をからかっていたのだ。

 当時の俺はまだ若いのにおばさんおじさん呼びされるのが解せないのかなぁとか思っていたが、ズレてたんだなぁ。慎の言葉を借りるのなら、鈍感クソ野郎だと思う。

 本来はお墓を拭いたり、周囲を掃除したりするべきなのだろう。


 「綺麗だな」


 汚れ一つない綺麗な墓石。季節柄もあってか、周囲に落ち葉なども落ちていない。桜の木も周囲にないので、花びらすら落ちていない。


 「とりあえず軽く拭くだけ拭こうか」

 「そうだね」


 やらなくて良さそうだから放置するってわけにもいかない。道中で用意した水入りバケツに雑巾を突っ込んで、濡らし、墓石を拭きあげる。果たして綺麗になっているのか。もっと汚くなっているのではないか。

 色々な不安が過ぎるが、初めてしまった以上止めるわけにもいかない。

 拭き終える。後ろで、桜は新聞紙を丸め、ライターの火を移していた。軽く燃え上がる火。そこに線香の先っぽを入れ、息を吹きかける。独特な香りが鼻腔を刺激する。

 線香を入れ、造花を刺す。そして、一歩下がり、合掌する。

 お義母さん、お義父さん。お久しぶりです。お葬式振りでしょうか。私たちは元気に過ごしています。色々紆余曲折ありましたが、この度あなた方の娘さんである桜とお付き合いさせて頂くことになりました。母親に言われましたが、私はダメな人間です。とてもじゃないですが、桜に見合う相手ではないと思っています。ですが、彼女は私を選んでくれました。お二方も生前の反応から推測するに喜んでくれていることだろうと思います。まだ高校生です。ここから自分自身の魅力を上げることはいくらでも出来ると思います。桜とお似合いだねと言って貰えるようなそんな男に、そんな人間になろうと思います。今日はお付き合いしました……というご報告をしに来ました。どうか、私たちを見守っていてほしいです。次来た時にまた良い報告が出来るように頑張ろうと思います。では……。


 「終わった?」


 桜はふいっと下から顔を覗く。


 「終わったよ。桜は早くない?」

 「早いも何も手合わせるだけだし」

 「んな、淡白な。俺心の中で挨拶しちゃったじゃん」

 「ほら、ママとパパは血繋がってるから。言葉交わさなくても伝わるんだよ」


 ポンっと胸を叩く。

 そういうものなのかぁ。


 「そんな顔しないで。恋人は血よりもずーっと深く結ばれる大切な絆なんだから」


 桜はちょこっとだけ恥ずかしそうに微笑む。そして、ごまかすように数歩先へ進む。


 「じゃっ、帰ろっか」

 「そうだな」


 諸々の片付けをして、歩き出す。桜はクルッと墓石の方を向く。


 「ママ、パパ。またね」


 桜がそう手を振った時に心地良い風がやってきた。根拠はないが、近くで見てくれているんだな。そんな気がした。

これで終わりです。ここまでご覧いただきありがとうございました。ストックはあれど、投稿するのを忘れる……というパターンが多く、遂に予約投稿へ手を出してしまいました。かなり便利な機能なので次作以降も上手いこと活用できたらなと思っています。

今後の予定としましては、本日の21時-21時30分の間に新しいラブコメを投稿する予定です。

今回も幼馴染系の作品ですので、またお付き合い頂ければと思います。見切り発車作品ではないので、完結させられるはずです……!


ここからは今作品に関してお話します。

というか、こっちかあとがきの本題ですね。

ネタバレあります。

ここまで読んでる人は最後まで読んだ人だとは思いますが……笑



◇◇◇

◇◇◇

◇◇◇




桜ゴールは最初から決めていました。改めて読んでいただけるとなんとなく理解できるかと思います。また、妹二人に関してはそもそも恋愛感情を抱いていません。桜が主人公に恋愛感情を抱いていないことを知っているが故に主人公に恋をすることができないのです。設定上、桜をゴールにする他選択肢がないんですよね。

楓と柊は報われていないじゃないかっていう意見はごもっともだと思います。まぁ、私個人的には成就して欲しいと願った恋が叶っているので報われているとは思うんですけど。ラブコメという観点で考えた時に、恋愛できていない……恋心にすら気付いていない二人は報われていないっていうのは理解できます。

実際、彼女たちは恋愛感情を抱いていたいだけであって、男として見れないとかってわけじゃないですからね。


色々と乱雑に書いてしまいましたが、言いたいことをまとめると一つにまとめられます。


――結構細かく書いたので気付いてくれてたら嬉しいな。


ってことです。



あとがきのここまで読んでくださる皆様とまたお会いできることを楽しみにしております。では。


Twitter⇒@urushidan

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