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20『柊パート2』

 二日目。今日も昨日と同様で柊に起こされた。これずっとやるんだね。

 昨日は慣らしということで、付き合っていると騙すのは桜と楓に留めた。楓曰く「最初から全員に言ったら奏斗くんパンクしちゃいますよね?」ということらしい。一応配慮してくれたそうだ。配慮する余裕があるなら順序しっかり考えて欲しかったですね、本当に。

 ちなみに今日は一緒に学校へ登校している。今までも時折こういうことはあった。周囲も幼馴染だからと気にしていなかったが今日ばかりは注目を集めている。

 周りからの視線が痛い。痛すぎて嫌になっちゃうくらい痛い。


 「えへへ。皆私たちを見ていますね。かなり注目浴びていますよ」


 柊は隣で楽しそうに微笑む。


 「気にしてなさそうだな」

 「こんなに浴びることはあまりないですけど、普段から視線は浴びているので。ほら、私というかお姉ちゃんたちもですけど、可愛いじゃないですか。だから、歩いているだけでも注目浴びちゃうんですよね」

 「結構大変なんだな」


 思わず同情してしまう。


 「慣れればどうってことないですよ。気を抜いたりできないのは辛いですけど」


 達観しているというか、ずっとそういう視線を向けられてきたから慣れてしまったのだろう。なんというか気の毒だ。


 「で、いつ手離してくれるんだ。多分……というか、絶対にこのせいで周囲から視線集めてるよな」

 「気のせいですよ。私たちが手を繋いだくらいで視線なんて集めませんよ」


 柊はえへへと笑う。

 なんか可愛くてどうでも良いかなと思ってしまう。そう思った矢先に視線を感じ正気に戻る。何にも良くないんだよなぁ。

 というか自意識過剰ですよみたいな顔してこっち見ないでよ。


 「俺にはハードルが高いんだ。とりあえず今日は勘弁してくれ」

 「えー」


 柊は唇を尖らせる。


 「じゃあ、あそこまでで勘弁してあげます。高くつきますからね?」


 むふんとなぜかどや顔をしている。まだ距離あるんですけど、そこまで手は繋いだままなんですかね。

 懇願するように柊を見つめるが、柊はニヤニヤするだけ。


 「我慢してください。私としてはこのまま奏斗くんの教室までお邪魔することもやぶさかでないんですよ」

 「わかりました。すみません。柊さんの寛大なるご配慮、誠に感謝します」


 食い気味に謝罪と感謝をする。クラスにまで着いて来られた暁にはどう説明すれば良いのか。慎に煽られるのは確定だし……。最悪じゃん。


 「ふふ、それで良いんですよ。物分かりの良い彼氏で嬉しいです」


 柊はあろうことか指を絡ませてくる。目だけでなんでと訴えると、さっき以上に小悪魔的な笑みを浮かべ始める。やばいこのままだと教室まで着いてくるぞ。俺は慌てて首を横に振り、その後微笑む。

 最初こそ、柊と手を繋いで歩くという行為に緊張していたのだが、もう今は緊張という感情は一切ない。

 代わりにこの後どうしようという焦燥感が俺を襲う。

 どうすんだよ、これ。

 俺は心の中で嘆いた。

 それと同時にこんな美少女と手を繋いで、どうしようと悩めるなんて贅沢すぎる悩みだよなぁと何だか感慨深くなった。


*


 三日目。今日も今日とて手を繋いで登校してきた。昨日よりは注目度が下がっているようだ。まぁ、登校時間は同じだし、昨日会った人達としか会っていない。初見じゃビックリするだろうが、二度も三度も驚くようなことではない。


 「今日は教室に行きます」


 柊は躊躇することなく宣言する。


 「なんで」

 「やっぱり真実味持たせることを考えると、クラスに行くべきかなーって思うんですよ。普通の恋人ってそういうことするじゃないですか」

 「それは進んだ恋人だろ」


 柊はむくぅと頬を丸める。不満だったらしい。


 「そういうこと言うんですね。分かりました。分かりましたとも。それならこっちにも考えがあります」


 柊はそう言うと、俺の腕にしがみつく。腕を絡ませるとかそのレベルじゃない。おっぱいが腕に当たっている。

 貧相な胸だが、それでもしっかりと柔らかさを感じることが出来る。ここに花園があったんだ。我々の花園はここにあったんだ。


 「なっ……」

 「えへへ、真面目な顔してたり、言ったりしてますけど、やっぱり奏斗くんも男の子なんですね。安心しました」


 柊は嬉々とした様子で体勢を戻して、また指を絡ませる。あ、手を繋ぐのは続行なんですね。そうですか……。


 「安心されても……むしろ襲われたりするかもって怖くならないのか」

 「怖い? そんなのないですよ。だって、奏斗くんにそんな度胸もないじゃないですか。長い付き合いなんですからそれくらいは分かりますよ」


 褒めてくれるのかなと期待していたら滅茶苦茶馬鹿にされていた。それはもう悲しくなるくらいに馬鹿にされていた。


 「そうですか」


 虚しさに押し潰されそうになりながらなんとか反応する。


 「それに奏斗くんなら良いですよ。一人になるくらいだったら、奏斗くんとそういう関係になった方がマシなので」

 「柊ならもっと良い子捕まえられるからな。俺で妥協しようなんて思うなよ」


 俺は彼女の頭を撫でる。前回は逃げずに素直に受け入れていたのに、今回は手を離して、距離をとる。さっきまでのセリフと矛盾していませんかね。していますよね。


 「そういうことを外でするのはやめてください。その……えーっと、やめてください」


 柊はそう言うと、逃げるように俺の元から立ち去った。

 なるほど、頭を撫でると解放される可能性があるのか。ふむふむ、勉強になった。

 昼休みになると、ガラガラと教室の扉が開き、柊がやって来る。俺と目を合わせると今日の朝の流れを忘れたかのような笑顔を見せる。


 「柊ちゃんじゃん。珍しいな。楓に用なのかな」


 向かいでおにぎりを食べようとしていた慎は柊を見て呟く。


 「多分俺だな」

 「ふーん、何したんだお前」


 慎から軽蔑交じりの目線を浴びる。とりあえずなにかした事にしておけば良いって思考本当にやめてほしい。何にもしてないのに。泣いちゃうよ。


 「奏斗くん」


 柊は躊躇することなく俺の元へとやってくる。クラスからの視線など気にしない。一番楓からの視線が辛い。せめて柊見てよ。なんで俺を睨むんだよ。おかしいだろ。


 「あ、初めましてです。奏斗くんの彼女をしてます、友田柊って言います」

 「えーっと、あぁ……藤橋慎だ」

 「ちょっと奏斗くんお借りしても良いですか? 一緒にお昼食べたいので」


 柊はキラキラした瞳で慎を見つめる。断ってくれと願いながら、慎を見つめるが慎はコクリと頷く。まぁ、コイツは断る理由ないしな。


 「わー、ありがとうございます。それじゃあ、奏斗くん行きましょうか」


 柊は俺の弁当を手際良く纏めると、空いている片手で俺の手を握り、そのまま引き摺り出すようにして教室を退室させられる。


 「なんか思ってた雰囲気と違ったなぁ。もっと大人しい感じかと思ってたわ……ってか、アイツ付き合ってるのかよ」


 という慎の声が聞こえてきた。反応する間もなく教室がどんどんと遠くなる。せめて反応させてくれ〜。

 連れて来られたのはラウンジ。机が何個か設置されており、カップル御用達の専用スペースとなっている。うーん、俺とは無縁の世界だと思っていたんだけどなぁ。

 ちなみに付き合っているのを見せびらかすかのように、三年生の教室前を無意味に通過した。階段を降りて、三年生の教室前を横切って、反対側の階段を登っている。本当に無意味過ぎる。


 「お弁当お揃いですね」


 柊は自分の弁当をあけて、見比べて微笑む。


 「どっちも楓が作ってるんだから当たり前なんだよなぁ」


 むしろ、それぞれ違う方がヤバい。有り得るなら柊はおかずだけで、俺は白米だけだな。


 「夢のないこと言いますね。そういうこと言うからモテないんですよ」

 「モテるつもりもないからそれで良いんだよ」

 「むー、つまらないですね」


 そんなことを言われながら、弁当を食べたのだった。

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