2『両親』
葬式や相続、友田家の親族の対応、戸籍等の変更等を行い、落ち着きを取り戻す。と思った矢先に両親の海外赴任が正式に決定する。
家は会社が用意してくれるらしい。
だから、後は準備して行くだけだそう。やっぱり長いこと親と離れるのは寂しいなと思う。自分で言うのもなんだが、親大好きっ子な自覚はある。
でも、友田家三姉妹が近くに居ると素直に悲しむことが出来ない。どうしても、俺はまた会えるし、声聞きたくなったら聞けるもんなと過ぎってしまう。
空港まで着いてきた。友田家三姉妹は留守番だ。桜が「私たちは留守番してるね」と気遣ってくれた。流石年長だ。
「奏斗。大丈夫だと思うけど、何かあったら連絡してね」
母さんは心配そうに俺の肩に手を乗せる。
どうやら信用されていないようだ。面と向かって言われると悲しい。
「手出すなよ? うーん、違うな。俺が言っても説得力ねぇか」
一方で父さんはあらぬ方向の心配をしている。言われなくても手なんか出さないし、出せないんだよなぁ。度胸の欠片もないから。
「とにかく……あの子たちを泣かせるなよ?」
父さんは困ったように笑う。色々な言葉が含まれているように思えるが、とりあえず素直な言葉の受け取り方をする。
「余計なこと言ったりしないから大丈夫」
ポンっと胸を叩く。ポロッとデリカシーのないことを言ってしまう気もするが、両親関係の話だけは絶対にしないでおこう。改めて引き締める。
「っと、そろそろ時間ね。あっちの仕事落ち着いたら一旦帰ってくるわ」
母さんはチラッとスマートフォンの画面に目線を落とす。
「そうなんだ。いつごろになりそう?」
「そうね。半年とか一年になるかな」
「結構先だな」
てっきり一ヶ月とか二ヶ月で一度帰ってくるもんだと思っていた。
「大きな会社だもの。すぐには帰って来れないわ」
「その分金はもらえるからな。お前はその辺心配しなくて良いぞ」
父さんは俺の頭を撫でる。セットした髪形がクシャクシャになるほどに。「ほどほどにね」と母さんは父さんに伝えて先にゲートへと入る。
母さんの背中が見えなくなったのを確認して、父さんは小さな茶封筒を俺に手渡す。渡すってよりも押し付けるの方が正解だろうか。
「なにこれ」
「そうだな。御守りとでも言っておこうか」
「なんだそれ」
ただの茶封筒なのにと苦笑する。
「そのくらいなら財布の中に忍ばせられるだろ?」
「まぁ、入るけど」
その場で入れてみせる。父さんはおぉと何故か感銘を受けている。
「三姉妹に欲情しそうになったらそれ開けちゃえ。多分だけどお前の助けになるぞ」
何を言うかと思ったらまたそんなことかよ。
「しねぇーよ。幼馴染でもしないのに、姉妹になったんだぞ」
「念には念をってやつだ。リスクヘッジって知ってるか? 起こりうるリスクの程度を予測して、リスクに対応できるように対策しておくんだよ。俺とお前には同じ遺伝子が通ってる。ってことはだな、俺が想定しうるリスクはお前にも同じ程度あるってわけだ。まぁ、使わないなら使わないで構わないさ」
父さんはそれだけ言うとケラケラと笑いながら、ゲートの方に歩き出す。ヒラヒラと手を振る姿がどことなくカッコイイなと思ってしまった。言っていることは最低だったのに。半年か一年会えなくなるのか。寂しいなぁ。
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