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19『大嘘』

 初日。とんとんと額を優しく叩かれ目を覚ます。

 瞼を開くと目の前に柊の顔があった。艶っぽい唇に瞳を吸われる。


 「おはよう。奏斗くん」

 「なんだよ……」


 柊が静寂を切り裂いてくれたおかげで冷静さを取り戻すことができた。危ない、危ない。冷静さを取り戻せれば良いのですが……って言われちゃうところだった。


 「恋人だったら起こすのは当然ですよね。全裸になって隣で寝ているふりするのも考えていたんですよ。それに比べればマシじゃないですか」


 比較対象がおかしいが、まぁ朝チュンよりはマシか。桜とか楓に見つかったらぶん殴られちゃうし。


 「てか、そこまで忠実にやるんだな」

 「当然じゃないですか。恋人のフリをするんですから。やるなら忠実にしなくちゃですよ」

 「そうか」


 俺に出来ることならやるよと言ってしまった以上、やっぱり嫌なんだけどとは言えないし。


 「じゃあ、下行きましょう」


 柊は俺の手首を掴み、グイっと引っ張り部屋を出る。


 「お姉ちゃんたちにも言わないとですね。私たち付き合いましたって」


 どうやらそこまで騙すらしい。俺、大丈夫かな。生きてられるかな。不安でしかないんだけど。神様。どうか守ってください……。


 「わかった」


 意気消沈しながら俺は頷いた。

 リビングへ顔を出すと、桜と楓は朝食を取っていた。


 「お、二人ともおはよう」


 桜は食パンを手に持ちながら振り返る。そして、食パンを加えて手をひらひらさせる。


 「今日の朝はパンだから。食べるだけオーブンで焼いて」


 楓はキッチンに置いてある食パンを指差す。


 「了解。柊は何枚食べる?」

 「二枚あれば十分です」

 「オッケー、オッケー。それじゃあ焼いてくるわ」


 一応ね、彼氏としてこれぐらいはしてあげないと。

 柊は楓の隣に座る。

 食パン二枚をオーブンに入れて一旦焼く。


 「お姉ちゃん。話さないといけないことがあるの」

 「話さないといけないこと?」


 リビングの方から会話が聞こえてくる。早速報告するんだな。あぁ、食パンすら食べられずに死ぬのかもしれない。

 せめて、死ぬ前に食事したかったな。


 「私、奏斗くんと付き合うことになったから」

 「そっかー。おめでと……えっ!?」


 楓はどこから出てくるんだみたいな声を出す。人間って想定外のことが起こるとあんな声出るんだなとか呑気なことを考える。


 「柊。奏斗にもっと気軽な感じでって言われてたけど、流石にその冗談はきついかなぁ。もっと可愛い冗談じゃないと」

 「冗談じゃないよ」


 桜の説教じみた言葉に柊はしっかりと否定する。


 「本当なの?」

 「嘘吐く必要もないし、嘘なら奏斗くんが否定しに来るじゃん。でも否定しないってことはそういうことなんだよ。ですよね、奏斗くん」


 来るんじゃないかなと思っていたら案の定やってきた。今回は覚悟していたので焦りはない。


 「まぁ、そういうことだ」


 俺の口からは付き合っているとは言わない。言ったら本気で殺される気がする。チラッとリビングの方見たら楓が殺気放っていたし。焦げ目が付き始めている食パンを眺め、そっちは見られないですよ~みたいなスタンスをとる。

 だって、可愛い妹を俺が奪った形になるんでしょ? そんなの殺されるに決まっているんだよなぁ。


 「奏斗! 奏斗!」


 桜は食パンを口に加えながら器用に俺の名前を呼ぶ。無視していたら、バタバタと大きな足音を立ててこちらにやってきた。

 むぎゅっと抱き着かれる。ちょっ、色々突っ込みたい気持ちはあるんですけど、ジャム身体に付きそうなんですけど。


 「なんだよ」


 俺はくっついてくる桜を剥す。


 「本当に付き合ったの? 柊と?」


 それでも桜は俺の肩に手を置き、信じられないというような目で問う。


 「悪いかよ」

 「本当なの?」


 濁して回答すると、桜は食い気味に追及してくる。これあれだな。ちゃんと言わないと終わらないパターンだな。RPGかよ。


 「付き合ってるよ。でも、待ってほしい。多分、桜も楓も誤解してる。絶対に誤解しまくってる。だから落ち着こう」


 獰猛な肉食動物を落ち着かせるように刺激しないような言葉を慎重に選ぶ。だって、殺されたくないもん。

 桜と楓の視線を一気に浴びる。ヤバい、張り付けで公開処刑されているような気持ちだ。もう思いっきり俺の首を討ち取ってくれ。


 「告白は俺からじゃない。柊からだ。そう。決して、俺から手出したわけじゃないんだ。ほら、お前ら姉として心配になるのはわかる。でもさ、妹の幸せを願うのが姉というものだと思わないか? 俺は少なくともそう思うぞ」


 保身に次ぐ保身。ビックリするくらい饒舌になる。


 「奏斗くん……」


 声だけ聞けば感動しているようにも感じるが、顔を見れば引いているのが理解できる。なんでだよ。少なくとも俺は告白してないだろ。えぇ、男気くらい見せろよって目された。


 「別にそういうんじゃないんだけどなぁ……」


 桜はぽつりとつぶやく。何がそういうんじゃないのだろう。桜も楓もこれ以上追及してくることはなく、結局何が何なのか理解できなかった。

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