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12『問い』

 放課後。閑静な教室。吹奏楽部も軽音楽部も今日は休みなのか、はたまたミーティングか何かで演奏していないだけなのか。いつも聞こえてくる軽快な音楽は聞こえてこない。これはこれで味があるし良いとは思うけど。


 「で、話って?」


 楓の机の周りに椅子を持ってきて俺たちは座る。楓はとんとんと指で机を叩きながら、首を傾げる。


 「最近悩みとかないか? 別に些細なことでも構わん」


 慎と顔を見合わせると、あっちが先に話を切り出してくれた。俺は慎の言葉に数度大きく頷いて、反応する。

 楓は「うーん」とさっきまで机を叩いていた指を唇に当て、悩む。


 「悩み?」

 「そう。悩み」


 今度は俺が食い気味に反応する。

 楓は様子を伺うように俺の瞳を覗く。

 質問の意図を理解しようとしているのだろう。

 睨むように覗いたと思えば、悲壮感漂うように顔を歪める。

 その面差しで彼女が脳裏に浮かべたものを理解する。俺は慌てるように首を横に振ると、小さく小刻みに数回頷き、また悩む。


 「そんな大きく気にしてることはないかな」


 楓はそう結論を出す。


 「別に大きくなくても良い。些細なことでも」


 慎はもう一度訊ねる。


 「お姉ちゃんが恋焦がれてるとか? 一人であれするなら良いけどリビングで足バタバタさせたり、悶絶したりするのちょっと反応に困る」


 あ、そう思っていたんだ。

 慎は慎で今日一微妙な顔付きだ。

 なんか、苦笑いにすらなっていない作り笑いを浮かべ、反応に困っている。


 「桜が恋するのは良いことだろ。多分相当好きなんだろうしさ、相手のこと」


 ギロリと二人から睨まれる。ちょっと場違いな返答をしてしまったらしい。空気読めなくてごめん。


 「ちなみに怖いなーとか思ったり、誰かから視線感じたりすることはある?」

 「怖い? 視線?」


 楓は質問の意図が理解できないのか、頭に何個もクエスチョンマークを浮かべる。


 「そうそう」

 「えー」


 慎に簡単な返事をもらい、楓はさらに困惑するような声を出す。

 チロリと俺の方に目線を向ける。

 何を求めているんだと言いたげな様子。

 ここ最近色々あったから、彼女の中でどれを求められているのか分からなくなっているのだろう。


 「質問変えた方が良い。単刀直入に聞くけどさ、最近ストーカーされたかもって自覚あったりする? 特に金曜日」


 俺がそう問うと、ハッとした表情を浮べる。


 「あの日ね」

 「楓告白されてたんだろ?」


 慎はポロッと零し、ギロリと楓に睨まれる。やはり隠して欲しかったらしい。俺は明後日の方向を向いて、知らないふりをする。


 「されてたよ。告白」


 諦めるように深いため息を吐く。


 「別に付き合ってないけど」

 「それは知ってる。というか、アイツと付き合おうとするやつが存在するのか怪しいだろ。見た目も中身も終わってるのに」


 ビックリして微苦笑を浮かべてしまうくらい辛辣な言葉。

 慈悲の欠片もなく、まるで救いようのない人間みたいな表現だが、実際問題救いようがないと思う。見た目は紛うことなき陰キャである。眼鏡をかけていないだけで、その他はチーズ牛丼顔でそのものだ。それに加え、付きまとう気持ち悪い噂たち。真実だとか嘘だとか正直そこは関係ない。周りにそういう噂が広まっていること自体が問題なのだ。周囲の人間はその噂に対して真偽を確かめる術はない。回ってきた噂をそのままそいつの評価として受け入れざるを得ない。実際に俺は今、アイツの評価はかなり低い。女性の楽器を舐めたり、女の子の席に意識して座ったりする気持ち悪いやつって認識だからね。


 「酷い言いようだね」

 「でも、振ったんでしょ」

 「私そこまで言ってないよ。ただ振っただけだから」


 お前とは違うんだよ……とでも言いたげだ。


 「でも確かに、告白されて振ったあとずっと誰かに付けられてるような気はしてたんだよね。自意識過剰なだけかなとか色々考えてたんだけど。ほら、実際なにも害なかったし、気のせいだったのかなーって」


 玄関で待ち構えていたのってそういうことだったのか。誰か後を付けていると思って待ち構えていたのか。素手で待ち構えるのはどうかと思うけどね。とにかく待っていたら俺が入ってきたから、気の所為だったんだなって納得したのかな。


 「あー、やっぱりそうなんだな。ちなみにコイツは実際に後つけてるところ見てたらしいからな。確定だろ。もう」


 慎はポンポンと俺の肩を叩く。


 「面倒なのに目つけられちゃっなぁ」


 怖いとか言い出すのかなと思ったら、心底面倒くさそうな表情を浮かべ、それに似合う言葉を口にしている。


 「怖くないの?」

 「まー、怖くないって言えば嘘になるけど。守ってくれるんでしょ? 二人が」

 「え、慎守るの? 頑張れ」

 「いや、お前もやるんだよ」


 ポンっと肩を叩き返すと、指で俺の額を突っつく。


 「真面目な話どうすっかなぁ」


 脱線しかけていた話を元の線路へ戻す。


 「そうそう。本題はこっからなんだよ」


 慎はふと思い出したように、ポンっと勢い良く手を叩き、立ち上がる。俺と楓は二人揃って慎の方へ目線を向け、首を傾げる。


 「アイツ……名前は未だに思い出せないけど。とにかくアイツの学校での立場を完全に失わせようぜ」

 「もうないんじゃないの」


 慎の提案に俺は異議を唱える。だって、吹奏楽部の楽器を舐めているんでしょ。そんな奴が学校に立場が残っているとは思えない。


 「まぁ、噂を信じるやつは嫌ってるよ。でもさ、噂は所詮噂だからな。実際にやってたっていう証拠がないからそれを大義名分に叩けないし、噂は噂って割り切って信じないやつも当然ながらいる。本来はそっちが正しいんだろうけど。とにかく、学校内に居場所はまだある。っても、もう少ないけどな」


 「ストーカー行為の証拠を掴んでその居場所とやらをゼロにすると」

 「そう、流石じゃん。奏斗」


 褒められているような気がしないのはなんでなのだろうか。


 「だから、楓と奏斗にお願いがあるんだよ」


 慎にペラペラと作戦を教えてもらう。

 俺と楓は慎の立てた作戦に同意し、今週の土曜日に決行しようということになった。1

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