10話『探索』
まずはA組にお邪魔する。他クラスのやつが教室に入るのは目立つよなぁと思うが、案外周りは気にしていないらしい。こんなもんかとなんか緊張していたのが馬鹿馬鹿しくなる。
「いた?」
慎に声を掛けられ、キョロキョロと周りを見渡す。あの時居た陰キャ面の男は見当たらない。俺は首を横に振る。
「ハズレかぁ」
「A組の男子は流石に覚えてるから。体育一緒だし」
「てっきりクラスメイトすら覚えてないと思ってたけど、そこまで酷くないんだな」
「お、おう……」
正直女子は怪しい。飛び抜けて可愛くないと全員同じ顔に見えるし。
興味ないアイドルグループは全員同じ顔に見える謎現象あるだろ。あれと同じだ。
自分たちのクラスを飛ばして、C組、D組、E組とお邪魔していく。だが、どこにもあの顔の男は存在しない。
実はあの告白って、俺が見た厳格なんじゃないかと思い始める。でも、家の前でも一度見ているんだよなぁ。すぐに否定できた。
「ま、朝だからな。まだ来てない可能性だってあるし昼休みまたやるか」
「そもそも学年違うって可能性もあるし」
「お前上履き見てなかったのかよ」
「そこまで見る余裕あるかよ。楓が告白されてたらビックリしてそれところじゃないだろ」
「それは分かる。楓がされてるとか天変地異でも起こるんじゃねぇーかって思うもんな。でも、アイツなまじ顔だけは良いからな。案外すんなりと受け入れられるかもしれない」
俺はニコニコと笑みだけを浮かべて、特に反応を見せない。慎は一瞬不思議そうに俺を見つめたが、俺の視線の先が慎の方へ向いていないことに気付いたのか、変な汗を額から垂らす。
「何を私がしてたら天変地異が起こるの?」
俺以上にニコニコしている楓が、慎の横に並ぶ。
そして、吟味するように見つめると、顔を覗かせ「ねぇ?」と首を傾げる。
やー、怖い怖い。
「あ、トイレ行ってくるわ」
「ちょっ、奏斗。見捨てる気か……あ、俺もトイレ」
「男の子って連れション好きだよね」
慎は手首を掴まれている。あぁ、あれはもうダメだな。トイレで合掌しておいてやる。せめて安らかに眠ってくれ。
◇◇◇
廊下に戻ると二人の姿は見えなくなっていた。
チロリとスマートフォンの時間を見るともうすぐSHRの時間だ。
教室へ戻ったのだろう。
もしくはどこか人気のない所へ連れ込まれたか。
教室へ戻ると二人の姿を見つけることが出来た。
楓は慎のこめかみを両拳でぐりぐりと当てる。
そのうち『げんこつ』の四文字が大きく出てきそうだ。
俺は二人の近くでそんな様子を微笑ましく眺める。
「ちょっ、奏斗。お前助けろよ」
「助けろってなに。私がまるで悪いことしてるみたいじゃん」
「してるだろ、どう考えたってしてんだろ。こんな人の頭に刺激与えておいて」
「これは列記とした罰。虐めてるわけじゃない」
「虐められてるだなんて俺言ってねぇーよ。自覚あんじゃねぇーか」
とか言いつつ二人とも楽しそうだ。最初は微笑ましいなと思っていたが、段々と蚊帳の外だなと気付き始める。
親友と幼馴染が遠くに行ってしまったような。そんな気分に陥る。
もしかして、楓の好きな人って慎なのか? 楓と関わりのある男ってそこまで多くないし、その中で好意を楓が抱いてそうな人って大分限られる。恋愛感情とか友情とかひっくるめた好意だ。
羨望の眼差しで二人を見つめていると、SHRの開始を知らせるチャイムが鳴り響く。廊下からはバタバタとあっちこっちへと走る音が聞こえ、教室内でも椅子を引く音が合唱のように鳴り響く。
慎は好意に気付いてなさそうだしな。罪な男だ。どうせアイツの事だから友達として見ているんだろうな。
少しでも女として見ているならさっさと手出しているだろうし。
慎と楓の関係性に脳みそのリソースを割かれ、担任の業務連絡を一切耳にしない。
どうせ近隣住民からの理不尽なクレームや、検定試験の応募が始まったとか、どうでも良い情報を提供してくれているだけだ。
聞きそびれたからといって、死ぬことはないから大丈夫だ。
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