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ボール日記

作者: koumoto

 男もすなる日記というものを、ボールもしてみんとて、するなり。

 ぼく、丸いです。人呼んでボール。概念寄生体です。宇宙から来ました。

 八月は、サッカーボールに憑いていました。真夏のキックは、熱き血潮。足蹴にされながら学びました。この知性体たちのフォーメーションを。視線、身ぶり、発声によるコミュニケーション。若きチームプレイ。点数よりも重要なものが、そこにはありました。ルールなき遊びはなく、秩序なき文明もなし。オフサイドを理解することは、人間を知ることと同義でした。

 九月には、野球ボール。握られる屈辱と栄光です。投擲というのは戦いの基本です。ぼくの故郷でも投げたり投げられたり投げ殺されたりと、その様相はおなじみですが、投げられたボールを鈍器で殴るとは、銀河もびっくりのビッグバンです。哺乳類って、面白い考え方をするものですね。

 十月は、トマトに憑いていました。あの赤さに魅せられました。かじられる瞬間、口内の薄暗い洞窟のような赤さと、トマトの鮮烈な太陽のような赤さが、対照、ハレーション、ときめき、イリュージョン! 丸が丸ではなくなるとき、意識が飛んで、死が羽ばたきます。ボールの臨死。タナトスです。トマトのおいしさは、トマトを食べなくてはわからないわけで、トマト自身になってしまうと、トマトのおいしさは永久にわかりません。これはぼく独自の発見でした。

 そんなわけで、十一月は脳味噌です。人の頭って、ボールですから。この日記もその賜物なんです。読んでるあなたの頭もボール。ぼくがあなたであなたがぼくです。でもあなたは哀しき哺乳類、ぼくは卑しき概念寄生体。トマト、食べたことありますか? おいしいですよ。初めて知りました。その味わいなら、共有できそうです。未知との遭遇にトマトが助太刀。赤い仲人は素敵な甘さ。

 来月は、十二月ですね。もう明日か。暦って不思議です。時間に線を引くなんて、さすがはオフサイドを発明した哺乳類。ぼくもこちらではそれに合わせています。一ヶ月単位で引っ越すんです。次はでっかいトマト、じゃなくて、夢は大きく馬鹿でかく。

 明日、ぼくは地球です。

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