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数時間後、鎮静剤か睡眠薬でも注射されたのか、少し頭がボーっとした状態で目が覚めた。
雄治の左腕の傷は、皮膚が多少抉れて出血した程度の軽症で、簡単な治療が施されて包帯が巻かれている。
恭子の血がついた洋服は寝ている間に看護師が簡単に洗濯しておいてくれたのか、綺麗にたたんでベッドの脇に置かれていたが、雄治のまだ目覚め切らない頭ではその意味を何も考えられず、ただ起き上がって自分の服に着替えるとナースステーションに顔を出した。
「斉藤さん、お目覚めですね」
かすかに見覚えのある看護師は、笑顔を見せず業務的に言った。
「はい・・・恭子は?」
雄治が尋ねると、目を伏せたままで、付いてくるように案内された。
2階からエレベーターで地下へ降りた、扉が開きやや冷たい空気が漂う薄暗い廊下を看護師についていくと霊安室と書かれた部屋の前で止まって扉を開けた。
ナースステーションで看護師の顔を見た時からなんとなく嫌な予感がして多少の覚悟はしていたつもりだったが、現実を突きつけられるようにその薄暗い部屋に入った。
部屋の中は線香の香りが充満し、蝋燭の灯りがぼんやりと光っている、その部屋の奥にある仏壇の前には全身に白い布を被せられた塊が横たわり、看護師がその顔の上に掛けられている布をゆっくり取ると、さっきまで明るく優しい笑顔を見せていた恭子が、青白い顔で目を閉じて雄治を見ようとしない。
「恭子、恭子・・・恭子・・・」
雄治はそのまま膝から床に崩れ落ち、嗚咽にも似た声で何度も恭子の名を叫んだ、しかしその呼びかけに反応しない恭子にしがみつき、冷たくなったその手を握り締めながら側に立っている看護師の目を気にすることなく泣いた。
しばらくして雄治が声を発さなくなると、看護師も少し声を詰まらせながら、救急車で運ばれてきた時には既に心肺停止状態で出血も多く手の施しようが無かったと説明した。
雄治はまだ床に座り込んだままだったが、促されるようにして霊安室から出ると近くのベンチに腰を下ろして天井を見上げた。
雄治が放心状態のままで天井を見上げていると、霊安室に駆け寄ってくる足音が聞こえてきたが、その足音に反応することもなく、ただ呆然としていた。
「雄治くん、恭子は、恭子は?」
恭子の両親と警察官だった、恭子の母親は左腕に怪我をして放心状態のまま呼びかけに反応しない雄治を見て声をかけるのをやめた、そして近くにいた看護師が再び扉を開けると2人は霊安室へ入っていった。
恭子の両親も、雄治と同様に冷たくなった恭子を見て泣き崩れた。
「恭子、なんでお前がこんなことに・・・」
父親の泣き叫ぶ声が廊下に響き、その声を聞いた雄治の頬を再び涙が濡らした。




