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男ひとりで過ごすには何とも派手な造りの部屋だが、カップルで入るための大きな浴槽にたっぷりとぬるめの湯を溜めてのんびりと浸かりながら山小屋でのことを思い出した。
「黒幕の正体は・・・お前もよく知っている、山・・・」
山が付く男を想像した、真っ先に頭に浮かんだのは山本本部長だが、最も信頼している男はすぐに疑いからはずされた、その他に苗字や会社名に“山”が付く者が浮かんでこなかったが一瞬でも山本を疑うなんて自分はどうかしていると思った。
風呂から出てテレビを点ける、わいせつなビデオが流れ、前の客がボリュームを大きくしていたのか部屋の中に女の喘ぎ声が響く、しかしそんなものに見向きもせずにボリュームを下げ、チャンネルをニュース番組に合わせた。
いくつかのチャンネルでニュース番組をチェックしたが、今の時点で雄治に疑いの目が向けられている様子はなく、情報提供者からのメールも無かった。
パソコンの電源を落として横になると、これからの作戦を考えた。
成川組のやつらは小屋から飛び出した俺の顔をはっきり見たはずで、少し前にテレビに映っていたことを思い出せばすぐに正体はわかるはずだ、すでに俺を追っているかもしれないし飯田や山形に俺の正体が漏れてしまえば身を隠すだろう、こうなると急いで飯田や山形と接触して黒幕の正体を聞きださなければならないとまた焦ってきた。
ここでゆっくりしているのももどかしいほどだが、自分の正体がやつらにわかってしまったとしたら、もはや出たとこ勝負でなんとかなるものでもないと考え、焦る気持ちを抑えて慎重に、そして冷静に作戦を考えて行動しなければならないと思えるようになったものの、銃撃戦と逃走でひどく疲れた頭ではそれ以上のことは何も考えることができなかった。
少し眠ったようで部屋の電話の呼び出し音で目が覚めた。
「お客さん、まもなく休憩終わりになりますが、お泊りになさいますか」
なんとも無愛想な店員の声に目が覚めた。
「ああ、出るよ、いくら?」
「3800円になります、カプセルにお金入れて、シューターに入れてください」
ベッドサイドに置かれていた大きなカプセルに金を入れて筒状のシューターの蓋を開けてカプセルを入れる、掃除機の吸い込むような音とともにカプセルが吸い取られた音を確認すると、おつりが戻ってくるのを待ちながら身支度を整えた。
しばらくしてつり銭をカプセルから取り出して部屋を出て、そのまま車に乗り込んでホテルを出る、誰とも顔を合わさないのはなかなか好都合だなと思いながら車を走らせて都内へと向かったものの、新宿に近づくのは得策でないように思え、東村山という案内標識を見て思い付きで車を向けた。




