7
6階へ着くと心臓が激しく音をたてて鳴っているような気がした、さすがに古河を相手にすると思うと緊張している、しかしここまで来たら簡単には引き返せない、雄治は自己暗示をかけるように落ち着けと何度も心の中でつぶやいて深呼吸を繰り返すが胸の高鳴りは治まらず、ただ時間だけが過ぎていく。
もちろん古河がすでに部屋にいたら作戦は中止だ、慌てるな、慌てたらおしまいだと何度も言い聞かせて深呼吸を続けたが結局は静まることはなく行動に出ることを決めた。
女の部屋の前まで音を殺して近づいた、表札にはEtsuko Kiyota(清田悦子)と書かれている、周囲をもう一度確認して玄関のドアに耳を付けた、テレビのドラマの台詞らしきものがかすかに聞こえるが男と女の会話などは聞こえてこない、通路に面した部屋があるようでガラス窓にも耳を寄せてみたが声は全く聞こえなかった。
雄治はサングラスをはずして度なしの眼鏡に替えるとインターフォンのボタンを押した、部屋の中に呼出し音が流れて、しばらくして女の声がインターフォン越しに聞こえる。
「はい」
「清田さん、お届け物です、ハンコをお願いします」
「ちょっとお待ちください」
宅配業者がエントランス入口のオートロックの呼出しではなく直接部屋に来ることもあるのか、女は何ごともないようすで答えた、その声は若く、20代前半、しかも2、3といったところだろう。
足音が近づいてきて開錠され、チェーンロックをはずす音が聞こえてドアが少しだけ開いた瞬間、雄治はすかさずノブを強引に引いて体を滑り込ませ、抜いておいたトカレフを女の額に押し付けた。
「騒ぐな、大声を出せば殺す・・・」
低くドスの効いた声で威嚇すると悦子は金縛りにかかったように身動きせず、雄治が後手にドアの鍵を閉めても、まったく抵抗しようとしない。
「よし、良い子だな、大声を出したり抵抗したりしなければ痛いことはしない、後ろを向いて手を後ろで組むんだ」
悦子は言うことに素直に応じた、雄治はその両手首を重ねて結束バンドで縛ると、寝室に行くように指示した。




