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20分ほどすると数人の足音が聞こえてきた、足音からして2、3人、大山を入れると4人かもしれないと思った。
その足音が、雄治が隠れている近くのドアに近づいてくる、雄治はドアから見えないようにさらに身を屈めた。
雄治と同じように音を立てないように男たちが入ってきた、大山と早川、そして動画で見た顔の暴力団の男2人。
4人とも物音を立てないように川上に近づくのに必死のようで、雄治には全く気づいたようすはなく、雄治も床を這うようにアタッシュケースを持ったまま物陰を移動していく。
「きゃあ・・・うううう」
一瞬だけ川上の悲鳴が響いた、すぐに口を塞がれたようで呻き声しか聞こえなくなる。
「おい大山、しっかり押さえろ、やっとこの日が来たんだ、大人しくさせろ」
早川が声をあげた。
川上が必死に抵抗するため男たちは押さえ込むのに必死で、身を屈めながら近づいている雄治には全く気付いていない。
「いい加減に大人しくしないか・・・」
大山が川上の頬を叩いて、大人しくさせようとしている。
雄治は上着とアタッシュケースを床に置いたまま、ホルスターから銃を抜いてゆっくりと立ち上がると足を押さえている男の背後に素早く回りこみ、いきなり強烈な蹴りをその顔面に入れた。
この日のためというか、いざと言う時のために買って履いていた安全靴の先端で蹴り上げられた顔面は鼻か頬骨が折れたような鈍い音がして、男は蹴り飛ばされた衝撃で椅子に激突し、大量の鼻血を出しながら顔を押さえて蹲ると、もう1人の男は咄嗟にナイフを取り出して川上に突きつけた。
雄治は右手に持っていた銃のスライドを素早く引き、男の顔に向ける。
「その子に怪我させてみろ、いくら俺が銃の扱いに慣れていなかったとしても、この距離なら絶対にはずさない」
低く凄みをきかせた声で言うと、男はうわずった声を出した。
「そ、そんな偽者で脅しても、俺は怖くねえぞ」
「そうか、それなら偽者かどうか試してみるか?一瞬であの世に行けるから痛みも感じないぞ」
男を睨みつけて引き金に指をかけると、男はナイフを捨てて両手を高くあげた。
「じょ、冗談だよ、死にたくない、俺はこいつらに頼まれただけだ、頼む、許してくれ」
雄治はゆっくりと銃を近づけて引き金を引くふりをして大声でバーンと叫んだ、男はその声に驚いて気を失いズボンの前が濡れていく。
雄治は男の持っていたナイフを遠ざけると、鼻血を出して蹲っている男の後頭部をもう一度靴の先端で蹴り上げて失神させてから早川と大山を見た、銃を持った乱入者に早川と大山は恐怖で動けなくなったまま引きつった顔で雄治を見上げている。
「だ、誰だ・・・」
雄治は早川に銃を向けると、腰が抜けているのか川上から離れるように後ずさりしていく。
「お嬢さん、結束バンド持ってきて」
川上も覆面の男が雄治だとわかっていたが、見たことも無いような態度や口調、何よりも拳銃を持っていることに驚いていた。
雄治の呼びかけで我にかえると慌てて立ち上がると用意しておいた結束バンドとビニール紐を持ってきた。
「おい、お前、こいつらの靴と靴下を脱がせろ、そっちのお前は自分で靴と靴下脱げ」
大山に気を失っている暴力団の男たちの靴と靴下を脱がせ、早川には自分で裸足になるように指示した。
「お嬢さんはそのバンドで、こいつらの手を後ろに回して手首と親指をとめて、それと足首と足の親指を縛って」
先に3人の手足の自由を奪ってから大山に3人の腕と膝をビニール紐で縛るよう指示し、早川と大山の首筋を殴って失神させ、まだ拘束していない大山を3人と同じように縛り上げると、男たちの持っていたハンカチと、女子トイレから拝借してきた雑巾を使って目隠しと猿轡をした。
銃から弾倉をはずして銃身に装填されている弾を抜いた、アタッシュケースに銃と予備弾倉を戻すと大きめの台車に2人ずつ乗せ、ダンボールを被せて見えないようにしてから荷物用のエレベーターを使って地下駐車場へ運んだ。
暴力団の男が持っていた鍵を頼りに男たちが乗ってきた車を探し出し、トランクと後部座席に2人ずつ押し込み、アタッシュケースと上着を助手席に放り込んでから少し離れた場所で目出し帽を取って川上に言った。
「ここからは君が関わることじゃない。あとは俺1人でやるから事務所を片付けて早く帰るんだ」
「そんな・・・ここまで来て、もう後戻りできないですよ」
「だめだ!」
雄治は強い口調で睨みつけながら言った。
「君はまだ後戻りできる。俺はこいつらを利用してやらなければならないことがある。頼む、俺の言うことを聞いてくれ!」
川上はそれでも納得できない表情で雄治を見たが、今まで見たこともないような怖い目をした雄治を見て、素直に言うことを聞くことにした。
「もしも、何か手伝えることがあったら言ってください」
「わかった、ありがとう、とりあえず早川と大山は出張、俺は体調不良で休暇ってことにしてくれ」
「わかりました、無茶はしないでくださいね」
雄治は、川上がエレベーターに乗って事務所に戻っていくのを見届けると、地下駐車場から車を出す時だけ目出し帽をかぶった、そして真夜中の道を、国道や高速道路といった大通りを避けて銃の練習をした山奥に向けて走らせた。




