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『ジリリリリリリ・・・』
強烈な目覚ましの音が古いアパートの1室に鳴り響き、雄治は目を擦りながら上体を起こした。
「ふぁ~、もう朝かよ、本当にどれだけ寝ても眠いんだよなぁ」
そうつぶやきながら蒲団から出るとトイレに行き、洗面台の鏡に写った寝不足の顔を睨む。
鏡の中の顔はわずかに日に焼けていて、少し彫りが深く日本人離れした顔立ちをしている、裸になった上半身は、中学の頃から続けている空手と筋トレのおかげか大胸筋がやや盛り上がり、180センチにわずかに満たない身長だが、それ以上に大きく見える。
雄治は顔を洗って台所に向かうと買っておいた食パンを袋から出してくわえ、薬缶を火にかけてテレビのスイッチを入れた、毎朝見る女性アナウンサーがいつものようにニュースを読んでいる。
「また、どうでも良い政治の話しかよ、なんでも良いからもっと税金を安くしてくれよ」
カップに適当に入れたインスタントコーヒーに沸いた湯を注ぎながらぶつぶつとつぶやいて、いつもの平日の朝を過ごして素早く支度を整えると部屋を出た。
駅までは徒歩で10分ほど、左手には使い慣れたジュラルミンタイプのアタッシュケースを持ち、右手で携帯電話のメールをチェックしながら歩く。
恭子からのメールが無いことに少し苛ついた顔をして駅前に着くと、腕時計でいつもの電車までの時間を確認してから喫煙エリアに行き、吸いなれたショートホープの小さな箱から1本取り出して咥えて愛用の古びたジッポーライターで火をつけた。
「ふう」
ゆっくりと大きく煙を吐き出すと同時に、ため息をついた。
毎週月曜は朝から会議、今日もまたいつものように部長の小言を聞かされるかと思うと憂鬱になったが、そんなくだらない理由で会社をズル休みするわけにもいかず、もう一度時間を確認してタバコを消すと、小走りに改札を通って電車に乗った。
通勤ラッシュで混雑した車内には見慣れた顔が並んでいる、途中駅で降りていくサラリーマンらしき男を見つけると、その男の前に立って車内吊りの週刊誌の広告に目をやる。
本当か嘘かはわからないが、有名人たちのスキャンダルの見出しが並ぶ広告を見る。
(こういう人たちって俺みたいな平凡な毎日じゃないんだろうなぁ、羨ましいような、少し面倒くさいような・・・)
そんなことを漠然と考えていると目の前に座っている男がいつもの駅で立ち上がり、すぐさま席に腰を降ろして目を閉じた。




