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 第四章 蝋の羽と金の羽  Ⅰ アイリスの受難


「あらぁ! アイリスちゃぁん。覚醒したのねぇ」

「えっと……」

「かわいいでしょう。ほら、いいこいいこ」

「あらあらぁ。照れちゃってぇ」

 私はお母さんに抱っこされながらぐりぐりとほおずりされている。クララさんは相変わらず優しい眼で『にまにま』している。覚醒、そんなこと言われても。なんだかちょっと不思議な感覚があるくらいでいまいち何が変わったかもよく分からない。身体もちっちゃいままだし。

 目を覚ましたら、お家にいてベッドの上だった。おばあちゃんに「またね」も言っていないのに。それは少し寂しかったけれど「いつでも会えるし、いつでも見守ってくれているわ」お母さんはそう言っていた。

 あの事はぜんぶ夢だったのかなぁ。なんて思っていたのだけれど、そうじゃないらしくって。きちんと鉢植えの『ちびゆぐちゃん』が置いてあった。

「ふふふぅ。アイリスちゃんもママになったのねぇ」

「え? お母さんと私の子ども!? ずぶずぶしたやつ?」

「ふふ。違うわよぅ。そ・れ。世界樹の苗でしょう」

「えぇ。そうよ。アイリスが育てるの」

「へ」

「大変よぅ。愛情を欠くとぉ、すぐに枯れちゃうんだからぁ」

「そう、なんだ」

「大丈夫よ。いつもみんなのお世話をするみたいに、すればいいわ」

「そうそう。でもねぇ、ひとつだけぇ。こだわらないといけないことがあるの」

「こだわらないといけないこと?」

「えぇ、それは……」


「――ひゃぁぁぁぁ!!」


「高い! 怖い! むりむりむりぃ!!」

「あらあらぁ。仕方ないじゃなぁい。山岳にしか『生命の水』はないんだものぉ」

「クララさんが創ってよぅ!」

「無理なのよぅ。こればっかりは三元素の祝福ありきなのぉ。それにぃ、アイリスちゃん、飛空植物は良くてどうして山頂はだめなのぉ?」

「だってだってだって! 飛空植物の中は、お母さんのお胸にいるからいいのぉ!!」

「ふふ。ほら、ちゃんと歩いて?」

「お母さん! だっこぉ!」

「ふふふ。はいはい。でも、ツクモグサをとるときは、あなたがするのよ」

「そんなぁ!」

 風がひゅぉぉぉぉと音を立てる。せっかくアトリエでのんびりしていたはずなのに。私は今、山の上でツクモグサというお花を探している。ステイホームがいい!

 いざとなればお母さんのクライミングローズが助けてくれるのは分かっているんだけど。身体のちっちゃい私はこの風で飛ばされちゃいそうで不安でしかたない。というか、なんか最近空の上が多い気がするぅ!

「世界樹ではあんなに勇ましかったのにねぇ」

「え? クララさんもいたの?」 

「えぇ。水はすべてぇ、わ・た・し」

「ど、どういうこと?」

「ふふふぅ。今あなたが流している涙からも私はぁ、視ることができるわよぅ」

「え」

「ほらほぅらぁ。そんなこと気にしてると落っこちちゃうわよぉ」

「ひぃぃぃぃぃ!」

 そんなことを話しているうちにツクモグサを見つけた。案外見つけやすいんだなぁ。なんて思っていたけれど。そこの先は……ガケで。落ちたら……。

「やぁぁぁぁだぁぁぁぁ! おかぁさぁん!」

「ふふふ。行ってらっしゃい」

「お、押さないでぇ!」

「それは押せって事かしらぁ。えいっ」

「やめて! くららさ……! ひぃ!」

 ツクモグサ。それは岩の間からひょこひょこと生える黄色のお花で、緑と白の毛に覆われた……。

「そんなこと言ってる場合じゃなぁい!」

 落ちてしまうのが怖くて。もう、こんなのはさっさと終わらせたい。だから、お母さんから教えてもらった詠唱をする。

「『花として花。汝ら、我とともに来ん』」

『いや』

「へ」

『嫌だって言ってんの』

「え? え?」

「私がしゃべってんの。こっちみなさいよ」

「は……はぁぁぁぁ!?」

 私は、混乱してお母さんたちの方を振り返った。その拍子に……。

「あ」

「あら」

「あらあらぁ」

「えぇ……」


「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は、風に飛ばされてしまった。


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