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疾風の義勇譚  作者: 爆竹林
風の章
1/1

第一話 邂逅

初投稿です、よろしくお願いします。

稚拙な文ですが、楽しんでいただければ幸いです!

ここはシルヴィエスタ。他の三国に比べ温暖な気候と緩やかな丘や森を多く国土に持つ東に位置する国。太古に強大な脅威を退けた四人の女性魔法使いが作った四つの国のひとつ。冠する属性は風。太古より続く勇敢な魔法使いの家系を王族とするこの国には少し困った問題がある。


「悪いけどこいつは貰っていくぜ。なに、無くても困らないだろ?じゃあな!」


脅威を退け、人々が集まり、国を興し、穏やかな日常を手にし長い時を経た今、貧富の差が生まれ階級が形成されるのは当然のこと。


「待て!貴様ら!ちぃっ!おい!騎士団を呼べ!盗賊だ!」


貧富の差は今や大きく、かつては区画分けなど存在しなかった街は貴族街、平民街、貧民街と分かれ貧民は貴族に虐げられている。平民は我関せずと無視を決め込み貴族へ取り入ろうと必死。富を有する貴族は貧民をいたぶることが生涯の楽しみだという性根の腐ったものもいる有り様。しかし国を動かすのはやはり経済力を持つ貴族。国はそれを黙認することしかできずにいる。


「おっと、お前等とっとと撤収するぞ!鬼ごっこ開始だ!」


そんな腐りかけた国に新たな風を、と民が自ら反旗を翻し剣を取り、権力あるものに牙を剥く一党が巷を騒がせている。

それは夜な夜な風に紛れ赤黒い外套を靡かせ富を分散し均一化させようとする自称正義の盗賊団。その一党の長が白髪を揺らし窓から飛び出た、編んだ後ろ髪を外套と共にはためかせながら。


「覚えとけよ貴族様!俺達は貧民の味方、富める者の敵、義賊団!感謝状やファンレターにはそう書いてくれよな!」


彼らは今夜もまた貴族の溜め込んだ過剰な財を貧民街に分配し各々の取り分とし彼らの正義を執行した。小さな問題というのはそれだ。大衆の為、平等の為と旗を掲げる国賊を正しく、王家の手先である騎士団はそれを揉み消そうとする。本来罰せられるべき立場のものが手法はさておき本当に正しい志を有している。


「むぅ…どうしたものかのぉ。」


それが長らく為政者たる王家の者の悩みの種である。しかし彼らは呑気にことを構えるだけで実際の解決には乗り出していない。故に義賊団は未だに潰されずに済んでいる。その代わりに騎士団が本気で対処しようとしているといった形で敵対に近い状態を取っている。果たして彼等の命運はどうなるものやら。










所変わり、義賊団の本拠。都市の端に追いやられた貧民の区画、貧民街。他の区画は石畳に煉瓦の建物が軒を連ねているが、貧民街は剥き出しの地面に木造の建物、テントなんかも立ち並んでいる。その中心に位置している大きな木造の建築物。






──机に腰掛け今日の仕事の成果を前に満足気に頷く。前にはきらびやかな指輪などの装飾品の数々に金貨が二袋。スラムの住民に分け与えて団員に分配してもおまけが来る額だ。大当たりだな、あの家は。定期的に盗みに入るとしよう。


「坊主、入るぞ。」


不意に部屋の扉が開く。奥から入ってきたのは頭髪を剃り、髭を蓄えた強面の男。大柄で俺よりも一回り以上ある。しかしそれも見慣れた顔だ。


「グランのおっさんか、どうした?」


その長身大柄の男は床を軋ませながら机の前へと移動しガタンと少し乱暴に机に手を突いた。


「な、なんだよ」


威圧的な態度に驚きながらも強面な顔に付いている二つの瞳を見つめ直す。


「…最近、でけえ仕事やってなくねえか」


綺麗な禿げ頭の巨漢は言い放つ、『もっとデカい仕事をさせろ』と。


「──ぷっ…ハッハハハ!おっさん、そんなことを言いにわざわざ難しそうな顔して来たのかよ!」


このつるっぱげのおっさんはグラン。うちの義賊団の一番の古株だ。俺がガキの頃から、つまり先代であり初代の団長の頃から義賊団にいる指南役のような奴。


「だってそうだろ?最近は貴族の家からちまちまふんだくるだけで、でけえ仕事してねえじゃねえか!前みたいに大胆な盗みをやろうぜ?ボーナスも欲しいしよ!」


まあ確かに、最近はさほど生活もキツくなくなって博打を打たなくても問題ない状態だからな。でもまあ──


「──平穏ってのも俺達の柄じゃねえしな!よし、じゃあやるからには大仕事と行くかね!」


机から羊皮紙を取り出しペンを手に取る。そこに()()()()の見聞きした情報を元にざっくりとした見取り図を描く。


「坊主、これってやっぱり──」


描かれた図を逆さから見るおっさんも即座に理解できたみたいだな。でかい仕事と言ったらここしかない。


「御明察、()()だ。」







──この物語を語るには数多くの前日譚が必要だ。今回はとある少女の話をしよう。


彼女は一国の王女、唯一無二の王位継承者。王女なのだから多くの物事が彼女の思うがまま、それが物語としては定石なのだろう。けれど彼女は異なる。

いつの日からか、両親はどこかもの悲しげな表情で彼女を見つめるようになり、ただの一度もわがままや甘えを許されない。王と王妃が言うのはいつも同じこと。


『正しき王に、正しき指導者になれ。』


二人は噛み締めるように何度も同じ言葉を浴びせられた。そして『膨大な量の知識と正確な判断力を培えよ』と、『未来の女王として必要なのだ』と。

彼女はそれが自身に期待されていることなのだ、それが自身の義務(在り方)なのだと、出来うる限りの努力をし続けた。



…しかし、それが裏目に出た。自らを過剰に追い込む姿勢は他を寄せ付けなくなった。最初は気遣い、声を掛けるものもあった。けれど彼女は聞き入れない。無理を承知か否か、全てに於いて全力を尽くそうとする。無論、そんな無茶は通らない。何時かは自壊する。けれど彼女はその無茶を今に至るまで通し続けられてしまった。そしていつしか使用人も騎士も、彼女に関わる全ての人間がこう思い始めた。

「まるで今にもひび割れてしまいそうなガラスの様だ」と──。












王宮で盗みを働くに当たっての作戦はこう。

総勢三十人くらいのうちの団員をいくつかの班に分けて色んな方向から侵入する。次に大半の班は騎士達の気を引いて撹乱。城内が騒然としてる間に少数の班で『お目当ての物』を頂く。後は持てるだけ持ってとんずらこくだけだ。


そして今は作戦遂行中。


夜闇に紛れて各々様々な侵入経路から城へ侵入している。俺は先代の──と言っても俺で二代目だから初代か──団長から密かに教わっていた隠し通路から潜入する。その入り口はお決まりの、と言うべきか蟻の巣の如く街中へ張り巡らされている水路にある。松明が掛かっている壁の下から三段目に位置する煉瓦を押し込むと普段は存在しない道が御目見えする。そこが王城内へ直結する通路だ。

話に聞いただけだが本当にあるとは、先代団長(あのオッサン)ちゃんと盗賊らしいことしてたんだな。しかし、城のどこの部屋に繋がるかは教えてくれなかった。「自分の目で確かめな」とはぐらかされた覚えがある。お望み通り、自分で見るさ。

中に入って暫く歩いたが、薄暗く湿った空間で階段を上ったり降りたり、平坦な通路を歩いたり、やたら曲がり角あったり、自分が今どの辺にいるのか全然分からん。取り敢えず出口に着けば分かるか。







何度目とも知れない階段を上りきると木製の壁に行き当たった。手で触れようとすると独りでに壁が持ち上がり道が開けた。凄いがどういう仕組みなんだ。

腰に差した先代の形見である白い短剣に手を掛け警戒しながら通路を抜けた先は広い部屋だった。テラスもあって硝子の窓が幾つもある。しかもシルクとレースのカーテン付き。天井にはシャンデリアが設置されてるしテーブルも大きくその上の茶器は素人目に見ても盗賊目に見ても上等な物だ。


「こりゃ凄い…」


感嘆の溜め息を吐きながら背負っている長剣や腰の短剣、ポーチが何かに当たって音を立てないように気を付けながら部屋を見て回る。とてつもなく大きく、見るからにふかふかそうなベッドが目に入る。ベッドにもカーテンが付いてる。正にお姫様のベッドって感じだな。


ん…?()()()…?


豪華絢爛なシャンデリア、上物の茶器、装飾華美なベッド、シルクやレースのカーテン、テラス…振り返れば隠し通路から見えてた木製の壁は本棚の背だった。壁一面に本棚が詰め込まれどれもびっしりと丁寧に本が差し込まれている。広い部屋の空間を把握しながら見ていない部分があることに気付き確かめるようにそちらを向くと…




あられもない姿のお嬢様がそこにいた。胸と腰のみを布地が隠しているがその他は白い柔肌が月光に照らされ、仄かに輝いているようにも見える。長くキメの細かい明るい緑の髪が夜風と踊り、胸元には鷲を象った金細工に緑の水晶が嵌め込まれたペンダントが下げられている。手にしているのはこれもまた上品なシルク製の寝巻きだろうかワンピースのような物が掴まれている。その奥には衣装棚も見えるし、あれ、ドレスばっかりだ。顔も整ってて幼さが残るが大きく可愛らしい目と程よい厚みの薄い桃色を帯びた唇、鼻筋も綺麗なもので…って見れば見るほど見覚えがある顔だ。それに鷲と言えば王家の紋章だ。

頭の中で目に映るお嬢さんにきらびやかなドレスとティアラを着けた姿を想像すると、あら不思議、我が国が誇り、『神子』たる齢十七のお姫様の出来上がり。


「あー、ご、ごきげんよう。その、ちょっとお邪魔したかしら?直ぐに立ち去るからこの事は内密に…」


「く…く…」


く?

目の前の多分恐らくお姫様は顔を真っ赤にし俯きながら肩を震わせ何かを呟いている。


「曲者ぉぉぉぉっ!!!」


そりゃそうなるか、こういう時はやっぱり三十六計逃げるに如かず!やたら高そうなドアノブの付いた扉を蹴破り廊下に出る。しかし此処がどこなのかさっぱり分からねぇ。地図書けるくらいには城の構造知ってるつもりだったんだが。


「王女様!どうなされ…貴様!さては義賊団の!」


動揺してたら騎士が到着した、っていうかやっぱりお姫様だったな。隠し通路に戻るか?後ろを振り返る。寝巻きに着替えたお姫様が猛追して来てる。引くに引けねえな。

取り敢えず駆け出す。そして跳躍し騎士の頭を踏んづけ蹴り飛ばし先を急ぐ。


「ぐぼぉ!」


「丁度良い足場をどうも!」


頭を踏まれるのが嫌なら屋内でも兜付けるよう上司に掛け合いな。派手に倒れてくれたお陰で姫様の進行を遅らせることが出来そうだ。後ろで「役立たず!邪魔ですわ!」というお叱りの声が聞こえてくる。


さて、逃げるとしよう。














「待て!止まれ!」

「息の根止めてやりますわ!」


撒けたかと思ったが意外にもしつこいな騎士様方は。追い付かれたら即刻お縄だ。というかお姫さんは「ですわ」って本当に言うんだな、物語の中だけかと思ってた。

何となく走ってて構造は分かってきた、現在地がどの辺かも把握した。隠し通路が繋がってたのは離宮の最上階、そこから降って今は本城のエントランスホール、門がある玄関口に向かって走っている。厄介なのはこのエントランスホール本当に色んな所に繋がっているから待ち伏せに最適なんだよな。多分各所に連絡行ってるだろうし結構な数居そうだな。腹括るか。

交戦することも視野に含める。重装の奴等よりもコートとかの軽装着てる奴等が多いし意外と何とかなるかな。問題は手ぶらで帰るわけにはいかないことだ。何かついでに持って帰れりゃ良いんだが。




何とか目的地のエントランスホールに着いた、が案の定騎士が行く手を阻んでいる。後ろからも来て完全に包囲された。姫様がその筆頭になっている。天井高くに張られているステンドグラスに月光が反射する。





──義賊の若き長が緑のコートを着用した騎士に取り囲まれる。孤立した彼は背の長剣を引き抜き、盗賊が持つにはあまりにも神秘的な純白の短剣を逆手に構えた。応戦の構えを取る騎士、後ろへ下がるよう指示を受ける姫。

開戦の火蓋は彼が切った。

床を蹴り真正面の騎士に急接近する。盾と剣を装備したその騎士は反射的に盾を突き出す。宙返りでその騎士の頭を悠々と飛び越え、騎士の集団の中央に舞い降りた。軽業師のような身のこなしに驚愕しながらも騎士達が飛び込んできた敵に攻撃を仕掛ける。攻撃をすんでの所で躱しながら彼はギリギリまで接近し神々しい真っ白な短剣を床に突き立てる。その短剣に体重を乗せ床に滑らせ勢いを付けて進路を変更、身を低くして通り隣の騎士との間を滑り背後を射程内に収めると長剣で斬り付ける。痛みと衝撃で前方に騎士が飛んでいく。短剣を機軸とする独楽のように遠心力を活かし立ち回る。時には体を捻り逆回転、時には勢いに乗り飛び上がって上空から急襲。真正面からの打ち合いを避け、奇想天外な動きを以て翻弄し数を着実に減らす。決して殺さず戦闘不能にしている。『不殺(ころさず)』、それが彼等義賊団の決して破ってはならない鉄の掟。過半数の騎士が倒れると警戒してか怖じ気付いてか後退する騎士達──。


「何だよ、もう終いか?ちょうどノってきたところ所なのによ。」


――情けないねぇ、もっと根性見せろよ。まあパッと見は末端の騎士っぽいし無理もないか。


「それならば、わたくしが相手をしましょう。」


さっきのお姫さんが名乗りを上げてきた女子供に剣を向けたくはないんだが、仕方ない。これも仕事、無事に帰るためだ。一応、構えを取っておく。


「怪我しても泣くなよ?」


相手の出方を窺う、話によるとお姫さんは歴代王家の中でも群を抜いて魔力量が多い『神子』らしい。迂闊に動いたら一発で終わりなんてこともあるだろう。


「ふうっ…!」


空気が変わる、意識を集中させているようだ。大気が渦を巻き、姫さんに集まっていくのが分かる。彼女は際限なく風を纏っていく。綺麗な緑の風が一点に集う。どこまで膨れ上がるんだ。思わず手が汗に濡れる。緊張の糸が極限まで引っ張られている感覚。微々たる変化でも見落とせない。


「…っ!」


綺麗な球体を描いていた風の球が綻ぶ、輪郭を乱し不安定になっている。姫さんの表情を見る。風の合間に見える彼女は明らかな焦りと恐怖を浮かべていた。


まさか、制御できてないのか…?


だとすれば不味い、あれだけの風が暴走すれば周囲はおろか城までぶっ壊れる可能性がある。まだ間に合うか?力を溜めようとするのを止めさせれば自然と霧散するかもしれない。試す価値はある。不意を突き、注意を他に向かせれば。


「随分苦しそうだな、お姫さんよ。」


「う、る…さい…っ」


問い掛けには答えられるが視線を此方に移す余裕はなさそうだ。なら簡単だ、腰のポーチから拳ほどの網状の繊維で作られた球体を取り出す。標的を見失えば注意が周囲へ拡散する。そうすれば満遍なく(魔力)も解けるだろ。


「ま、そちらの準備には長くかかるみたいだしまたの機会にな。取り敢えずお暇させてもらうぜ!」


球体を前方、姫さまと俺の中間に投げ付けると球がひしゃげ煙が吹き出した。そう、やっぱり逃走する時には欠かせない煙玉。中には衝撃に反応して白い煙を出す植物の葉をたっぷり入れてある。網目の隙間から煙が出るって寸法だ。


「くっ!逃げるなんて卑怯ですわ!正々堂々戦いなさい!」

「絶対に逃がすな!出口を全て封鎖しろ!」


お、姫さんも騎士も無事だな、なら気にすることはもうないな。ただこれだけで帰るのもやはり寂しいものがある。()()()()()()()()()()()()()()()()が手頃な所に転がってねえかなっと。

現状を頭の中で再確認し何か手土産になるような物を探す。


お?考えようによっちゃ掘り出し物かもな。


閃いた俺は真正面に駆け出しあるものを担ぎ上げぼんやり見えた騎士の頭を踏み台にしてステンドグラスを突き破り逃走することに成功した。






──騎士団本部。


会議室と思われる円卓か置かれた広い部屋で五人が頭を悩ませていた。無論、彼等の抱える問題は城に盗みに入った盗賊だ。


「まったく、義賊には困ったものね。」


沈黙を破ったのは紫の長髪を揺らす美女。切れ長の目の傍らにはホクロがある。騎士鎧に身を包んでいなければ魔女に間違われてしまいそうな妖艶さだ。


「何を盗んでいったのかと思えばよりにもよって、ねぇ?」


美女の視線の先にはウェーブの掛かった水色の髪の美男。たれ目に美女と同じく目の近くにホクロがある。また貴族の出なのか両者共に気品が漂っている。美女に続いて彼が発言した。


「そもそも賊の侵入を許すなんてナンセンスだ。我々の沽券に関わる。」


彼女等は双子の騎士。共に第二、第三部隊を率いる隊長。二人は口々に城の警備をしていた者を、弛んでいる、賊一人として捕まえられないとは騎士の名折れ、と非難している。


「お前等があれこれ言いたい気持ちは分かるが、それも俺達の指導不足なんじゃねぇのかねぇ。」


そこに口を挟んだのが一人の中年の男。白の短髪に傷だらけの顔をした騎士。騎士団副団長であるその人物のいい加減な態度の向こうに見える真剣な眼差しはあまりにも鋭く二人に刺さった。


「っ…それはそうかもしれませんが当人等の気の緩みも否定しきれない筈です!」

「そうです!警戒を怠った結果がこの始末!それなのに何故私達の落ち度になるのですか!」


二人は声を荒げて反論する。それに白髪の男は溜め息をつき、だからなぁと反論に対する返答を口にしようとしたその時。


「──静粛に。」


白髪の男の隣に座る男。上座に座る青髪の騎士。その一声で場は静まり返った。彼こそが騎士団の長。『蒼雷』の名を王より賜りしシルヴィエスタ最強の騎士、サンドレアス。彼が言葉を続けた。


「ストリマ、フロストよ、此度の一件はアウルの言う通り我々の落ち度だ。何故なら城の警備をする者を決めたのは我々だ。そして彼等を育て導かねばならぬのも我々だ。故にその責任の所在は我々に在る。分かるな?」


「…はい。」

「くっ…。」


ストリマと呼ばれた美女は納得したようで矛を納めたが、フロストと呼ばれた美男は腑に落ちていない様子だ。


「責任の所在は我々に在る。ならば、きちんと責任を取らねばならぬ。」


サンドレアスの表情が更なる真剣さを増す。それを感じ取ったのか副団長も真面目な顔付きへと変わった。


「要するにミスって出ちまった損失をどう補完するかだ。それについて、団長と話し合った結果──」


「──暫し様子を見る。奴等は何かしらの目的を持って城へ盗みに入った筈だ。奴等の要求が明らかになった後、取り合わずに奴等を──」


その眼差しの向かう先にはこの場の誰よりも若い黒髪の騎士がいた──。








──義賊団のアジト。

「なあ…坊主」


「…んだよ」


「団長…」


「だから…なんだよ」


「…団長」

「あのさ団長」

「…はぁ」


「だから、何だって聞いてんだろ」


「んなもん、言わなくても分かってんだろ?」


拠点の大部屋、普段は作戦会議とか宴に使われる部屋だ。基本的に盗みの後は全員が此処に集まり成果の発表と取り分の配当が発表される。しかし、今回は些か空気が違う、団員の視線は二ヶ所にしか向いていない。一つは団長、もう一つは今回の収穫。


「だから…何がどうなったら、王冠が王女に化けるんだよ!今回の作戦は王冠を盗むって話だっただろうが?!」


グランのおっさんが声を張り上げる。まあ、ごもっともな言い分だ。おかしな所は何一つない。そう、今この部屋には手足を縛られ口を封じられたお姫さんがいる。俺が昨晩その場で機転を利かせて盗み出した『()()()()()()()()()()』だ。


「そうだ、だけどよ!手ぶらで帰るのもアレかなって思って俺なりに考えた結果なんだよ!他の盗み担当の奴は何か持って帰ってきたか?何も収穫なかっただろ!?」


これは努力の賜物なんだ、頼む分かってくれ。正直思い付いた当初は名案だと思ったんだ。だけど運んでる内に本当にこれでよかったのかって思ったし、ミスったって思ったよ。王女誘拐なんてしたら俺達本格的に潰されちまうって、でももう引き返せなかったんだ!


「確かに度肝抜かれただろうな!何せ俺達も抜かれたんだからな。で、どうするつもりだよ?」


「…何が?」


グランが真剣な顔で尋ねてくる。どうするって何だ?何の話?それとも俺の話?お姫さんの話か?


「お前が拐ってきた王女様の話に決まってんだろ。城に返すにしたってここに監禁するにしたって色々と準備が必要だろうが。」


「…ここまでしたらもう引き下がれねえ、国がどう出るか見てやろうじゃねえか。」


返したところで御取り潰しは免れねえなら人質に取って交渉できる方がまだ希望はある筈だしな。と、それっぽいこと事言ってると思うかもしれないが今考えたんだなこれが。


「なら最初から腹括れ!団長になってもう二年も経つんだ、頼むからしっかりしてくれよ。」


…まあ、確かにグランの言う通りだ。俺は団長としてまだまだ未熟だ。その苦々しい叱責を咀嚼するように飲み込んだ。



そう、初代の団長が死んでから二年。何故か次の団長を指名する遺書があのオッサンの部屋から見付かりそこには驚くべきことに当時十九歳の俺の名前が書いてあった。正直に言うと俺も他の団員もグランが団長になるもんだと思ってたから大層驚いたもんだ。


入団してから十年、確かに皆のお陰で何とか団長って立ち位置には居られてるけどもう少し俺の気持ち汲んでくれてもいいんじゃないかね。色々教えてくれたのは感謝してるし可愛がってくれたのも忘れた訳じゃねえけどさ。

一人取り残された俺はそんな幼稚な駄々を心の内で捏ねる。


「んー…!」


そう言えば一人じゃなかったな。口以上に目で何かを訴えるお姫さんの口に据えられた縄を解く。いちいちそんな「んーんー」言われても意思の疎通が取れなくて不便ったらありゃしねえ。


「ぷはっ…一刻も早くわたくしを城へ連れ戻しなさい!」


目尻をこれでもかと言うほど吊り上げ怒りを露にする王女様。しかし、方針はそちらではない方に決まったので期待には添えられない。


「話聞いてただろ、アンタは義賊団で預かることになった。国が弱音吐くまで交渉材料にさせてもらう。」


「人を物みたいに…!わたくしは人形ではありませんのよ!」


「そうキーキー言うなよ、拐ったことは悪かった。けどアンタも辟易してたんじゃねえのか?城での生活に。今みたいに大事な『物』として扱われてるみたいでよ。」


「っ…それは

「そうだよな、その筈だ。何故なら俺がアンタを運んでいる間、街の中を移動してるってのに声のひとつも上げないでそりゃあ大人しいもんだったからな。」


そう、昨晩城から拠点へ移動している間、この王女様は悲鳴どころか声ひとつ上げなかった。ただ抱えられて流されるがままって具合に。そうでなかったら無事に拠点まで戻れてないだろうな。


「…。」


「物扱いされる気持ちは分からねえ。城の暮らしも見当つかねえ。けどな『◯◯の』って形容詞付けられて扱われるのがしんどいのは知ってるよ。」


俺の出自は少しばかり特殊だ。今でこそ盗賊なんてやってるが、生まれて何年かはそうじゃなかった。食うのには困らなかったし周りにいる奴も今とはまるで違った。


薄暗い部屋で僅かなランプの光のみが二人を照らす。微妙な雰囲気が二人の間を往復し続ける。


「…まあ、誘拐してきた俺が言うのもおかしな話だけどよ、ちょいと俺達の暮らしを見てみれば良いんじゃねえか?こういう生き方もあんだなって思える筈だ。」


その均衡を崩したのは彼だった。手を差し伸べながら後ろ髪を結った白い頭髪を揺らし微笑を浮かべて見せる。


「…ふん!貧民街の暮らしぶりを知る、というのであれば悪くない案ですわ!」


彼は素直じゃないなと内心本音を溢しながら答えをしかと聞き手足を縛る縄を解いた。


「これで貧民街の、義賊団の仲間入りだな。よろしく頼むよ、姫さん。」


「短い付き合いでしょうけどねっ!それとわたくしには歴としたシルヴィアって名前があるんですの!その敬っているのか小馬鹿にしているのか分からない呼称はやめなさい!」


顔を真っ赤にして怒り出してしまう姫さん。名乗らんでもこの国に住んでいるなら誰でも知ってることだっていうの分かってないのかね。まあ構わねえや。


「これは無礼を。我が国の唯一無二の王位継承者、シルヴィア王女様。私は下賤の民、義賊団の二代目団長を務めさせていただいていますゲイルという者でございます。何卒お見知り置きを。これで満足か?お姫さん。」









こうして仁義(義賊)義務(王女)という何とも奇妙奇天烈摩訶不思議な組み合わせが出来上がり、義賊団に新しい風が舞い込んだ。

読んでいただきありがとうございました!

構想を練りながらの投稿なので心折れて失踪気味になったり、投稿間隔が空くかもしれませんが気長にお付き合いいただけるとありがたいです!

今後ともよろしくお願いします!

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